第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「禰󠄀豆子ちゃんは少なくとも、私が見てきたどの鬼とも違います……私の……鬼になってしまった兄さんともっ、……」
そう告げられたその言葉は、僅かに声が震えていた。
そして、それを打ち消すように鈴が拳を握りしめるのを、煉獄は横目に盗み見る。
ーー鈴と初めて出会った、あの日。
鈴は熱に浮かされながら、自分が弱かったせいで兄を鬼にしてしまったと口にしていた。
それ以上、鈴が兄について口を開く事はなかったが、彼女が未だ、その過去に囚われたままだということは容易に想像がつく。
でなければ、鈴がここまでこの兄妹に肩入れする事もなかった筈だ。
そんな事を考えながら煉獄が鈴を見つめていれば、鈴は意を決したように顔を上げた。
「私の兄が鬼になった時、……兄は涙を流しながら〝逃げろ〟〝来るな〟と叫んでいました。涎を流しながら、必死で自分の首を掻きむしる兄の足元には父が血だらけで転がっていて……私は呆然と立ち尽くす事しか出来なかった」
静かに告げられていく惨劇に、誰かの息を呑む音が耳に届く。
そして、当時を思い出しているのだろう。必死に言葉を続ける鈴の声も、彼女の悲しみを表すように、次第に小さくなっていく。
「逃げることも父に駆け寄ることも出来ず、ただ立ち尽くしているだけの私に、兄は……その後すぐに襲いかかってきました。
私はその時、偶然近くを通りかかった先生に……のちに私の育てとなる恩人に助けられましたが……自我を失った兄は、灰になる寸前まで全くの別人でした。
後々育てからは、鬼になったばかりは血に飢えて、自我を保つ事すら不可能だと……逃げろと涙ながらに訴える事だけでも難しい事だと、教えられました。……現に、私が隊士になってから出会った鬼達も、皆んなそうでしたから……
だからこそ、鬼になっても人を喰らわず、傷を治すかのように深い眠りについたままの禰󠄀豆子ちゃんを見た時……信じられなかったし、驚きも隠せませんでした。
……ですがっ、彼らと過ごし、実際にこの目で見てきたからこそ、今は断言できます。禰󠄀豆子ちゃんは他の鬼たちとは違います。人を襲ったりはしません」
そう言って眉を下げた鈴は、お館様に向かって頭を下げる。
「お館様……並の隊士の言葉では説得力がない事は理解しています。それでも貴方が彼らを信じて頂けた事、なんて感謝したらいいのか「……鈴?」
「……はい」
それまで黙って話を聞いていたお館様は、鈴に優しく笑いかける。
「君は聞いていた通りの、優しい子なんだね。きっと茂にとっても自慢の妹だった筈だよ」
「なっ、んで?……兄さんの名前っ、…」
「君たち家族に起きた悲劇は、鈴にとって酷なものだっただろう……。皆の前でよく話をしてくれた。私の方からも礼を言いたい、ありがとう鈴」
「い、いえ……とんでもございません」
「それにね、鈴?私は炭治郎と禰󠄀豆子に賭けてみたいんだよ」
そう言って言葉を区切ったお館様は、皆にも伝えておきたい事があると前置きをし、炭治郎が鬼舞辻無惨と接触したことがあることを明かした。
その一言には鈴だけでなく、柱たちも動揺が隠せないようで、口々に炭治郎へと詰め寄った。
「なっ!そんなまさか……柱ですら誰も接触したことが無いというのに……こいつが!?」
「どんな姿だった!?能力は!?場所はどこだ!?」
「戦ったの?」
「鬼舞辻は何をしていた!?根城は突き止めたのか!?おい、答えろっ!」
「黙れ、俺が先に聞いているんだ!!」
突然騒ぎ立て始めた柱達を、お館様はすっと口元に人差し指を当てるだけで鎮めてみせた。そして優しい声色で柱達に語りかけた。
「鬼舞辻はね、炭治郎に向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない。恐らくは禰豆子にも鬼舞辻にとって予想外の何かが起きているのだと思うんだ。」
分かってくれるかな?そう言って笑いかけたお館様に、柱達は反論できず口を噤む。
しかしそんな中、不死川だけは怒りに声を振るわせて、断固としてその意見を跳ね除けた。
「分かりませんお館様……人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です。承知できないっ」
そして、自らの腕を刀で斬りつけた不死川は、鬼という物の醜さを証明しますと口を開き、
「…‥実弥」
「おい、鬼ィ?…飯の時間だぞ?食らいつけェ」
お館様の咎める声すら無視するように、禰豆子が入っている箱にボタボタと血を垂らしていくのだった。