第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー……お館様のお成りです。
少女達の凛とした声が響き渡れば、先程までの殺伐とした雰囲気が嘘のように、柱達は皆深々と頭を下げた。
「よく来たね、私の可愛い
そんな彼らに習うように、鈴も片膝をつき頭を垂れれば、心地の良い柔らかい声が耳に届く。
「お早う、皆。今日はとてもいい天気だね、空は青いのかな?顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
穏やかに告げられたその言葉に、鈴がチラリと盗み見れば、初めて目にするお館様のその姿に、鈴は驚きで目を見開いた。
〝お館様〟
義勇が度々口にしていたその名前。
きっと偉い人なのだろうとは思っていたが……
年端もいかない子供達を鬼と戦わせる為に派遣して、自分はのうのうと暮らしている、無慈悲で冷酷な人物なんだと勝手に思い描いていた。
しかし、実際はどうだろうか。
少女に連れられやってきたお館様は、穏やかな笑みを浮かべ、慈しむ様に柱達を可愛いこども達と呼んでいる。
優しく細められたその目には、光が届いていないのだろう。それに、額にまで広がっている皮膚の爛れからも、彼が何かの病を患っていると容易く想像できた。
……その何もかもが、鈴が思い描いていた鬼殺隊当主の人物像とは異なっていたのだ。
その事実に鈴が気を取られている間にも、不死川がお館様へと口を開く。
先程までとは違い、丁寧に述べられた挨拶の後、彼は徐に問いかけた。
「畏れながら柱合会議の前に、この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますが、よろしいでしょうか?」
「……そうだね、驚かせてしまってすまなかった」
不死川の問いかけに、素直に謝罪の言葉を口にしたお館様は、炭治郎と禰豆子のことは私が容認していたと続け、皆にも認めてほしいと言葉を続けた。
しかし、その言葉には勿論柱達も黙ってはいない。
悲鳴嶼を始めとし宇髄や、伊黒、煉獄が口々にその意見に反論し、最後に口を開いた不死川も、勿論それを否定した。
「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門、冨岡、尾上の処罰を願います」
すると暫し間を置いたお館様は、手紙を読む様にと従者へ促し、鈴の育てでもある鱗滝からの手紙が少女の口から読み上げられた。
その手紙は、炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうか御許しくださいと始まって、最後に彼の覚悟が綴られていた。
『禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を喰わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました。俄かには信じ難い状況ですが紛れもない事実です。
もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します』
炭治郎は自分の知らない所で、彼らに守られていた事を知り、ぼろぼろと大粒の涙を流す。
その横で、あの厳しくも思いやり溢れる恩師を思い浮かべ、鈴はふっと目を伏せた。
それと同時に、この手紙を信じてくれたお館様にも、心がじんわり暖かくなる。
それには先程まで否定を口にしていた柱達も、皆一様に口を閉ざし、再び静寂が訪れる。
〝このまま炭治郎君達のことを、皆にも理解してもらえたら……〟
鈴は俯きながら、静かに柱達の言葉を待った。
けれども、そんな鈴の願いも虚しく、不死川の怒りに震える声でその静寂は破られる。
「……切腹するから何だと言うのか」
そう口を開いた不死川は、そのまま眉を吊り上げ言い捨てる。
「死にたいなら勝手に死に腐れよ……何の保証にもなりはしません。」
「不死川の言う通りです!!人を食い殺せば、取り返しがつかない!!殺された人は戻らない!!」
それに賛同するように煉獄も声を上げれば、確かにそうだとお館様も口を開く。
その一言に、……まさか!?と鈴が顔を上げれば、お館様は穏やかな口調で言葉を続けた。
「人を襲わないという保証ができない、証明ができない………ただ、人を襲うということもまた、証明ができない」
「「っ、……」」
「禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために三人の者の命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない」
それに不死川と煉獄が口を閉ざしたのを横目に、それまでずっとそのやりとりを見ているだけだった鈴が静かに口を開く。
「お館様……お初にお目にかかります、尾上鈴です。恐れ入りますが、少しだけ……宜しいでしょうか?」
「ああ、勿論だよ?……鈴に会うのは初めてだったね?」
そう言ってふわりと笑いかけたお館様は、鴉から色々と聞いていると続けた後、鈴の意見を聞かせてごらん?と口を開いた。
それにお礼を述べた鈴は、ふーと大きく息を吐いた後、意を決して口を開いた。
「禰󠄀豆子ちゃんは少なくとも、私が見てきたどの鬼とも違います……」
これから話す内容に、思わず体が震えそうになる。それをぐっと拳を作ってやり過ごせば、
「私の……鬼になってしまった兄さんともっ、……」
そんな鈴の様子に気づいた義勇が、心配そうに彼女をじっと見つめていた。