第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「妹は俺と一緒に戦えますっ、鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!!」
炭治郎の声が響き渡り、その場の者達が、皆一様に口を閉ざした瞬間ー……
… ジャリ …… ジャリッ
此方へと近づいて来た足音に、鈴はゆっくりと視線を移した。
「オイオイ、何だか面白い事になってるなァ。鬼を連れてたバカ隊員はそいつかィ?一体全体、どういうつもりだァ?」
そう言って、屋敷の角から姿を現した傷だらけの男は、その手に木箱を掲げ、炭治郎に向かって挑発的に口を開いた。
よく見れば、その後ろを、オロオロとした様子でついて来た隠が、彼の事を風柱と呼び、怯えた表情で木箱を返してほしいと懇願している。
その異様な光景に、鈴が眉を顰めていれば、それを目にして思うところがあるのだろう。しのぶにしては珍しく、笑顔さえ浮かべず、淡々と彼へと口を開いた。
「不死川さん、勝手な事をしないでください」
しかし、そんな事など気にもしていない不死川は、構わず言葉を続けていく。
「鬼が何だって?坊主ゥ……鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ?そんなことはなァ……」
そして、高々と木箱を掲げてみせた不死川は、不適な笑みを浮かべながら……
「ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!」
木箱に向かって、勢いよく日輪刀を突き刺した。
その直後、箱の中からは小さな呻き声が漏れ、刀を伝うように血がボタボタと落ちていく。
その理不尽で一方的な行動に、兄の炭治郎だけでなく、鈴さえもカッと頭に血が上り、思わずその場に立ち上がる。
「俺の妹を傷つける奴は、柱だろうが何だろうが許さない!!」
炭治郎の悲痛な叫びを聞いても、笑みを浮かべたままの不死川に、鈴の我慢も限界だった。
走り出す炭治郎に続き、鈴も其方へと足を踏み出した。
しかしー……
「鈴、待つんだ。君は今、何をしようとしている?」
すぐに煉獄に腕を掴まれて、鈴は、彼の問いかけにも答えず、押し黙る。
その間にも、不死川へと突っ込んでいった炭治郎は振り抜かれた刀を躱し、そのまま頭突きを放っていく。
その間、そこにいる他の者達は、ただ傍観していただけ……誰も炭治郎を助けようとも、ましてや話を聞いてやろうともしなかった。
「……なんで?」
痛そうな鈍い音が鳴り、二人が勢いよく地に伏せた瞬間、鈴は掴まれたままだった腕を振り解き、振り向き様に問いかけた。
「なんでっ、……なんで、誰も彼の話を真摯に聞いてあげないの?炭治郎君は、妹を守りたいだけなのにっ、」
「……鈴」
「彼がっ、…炭治郎君が、どんな思いで鬼殺隊になったのか知らないでしょう?……禰󠄀豆子ちゃんが、一体誰を傷つけたって言うの?」
「鈴、少し落ち着くんだ」
「落ち着いてなんていられない!!いられるわけないじゃない!!……なんで、皆んなは……そんなに非情でいられるの?彼は、妹を守りたい。ただ、それだけなのに………なんで分からないの?なんで頭ごなしに決めつけるの?」
まるで自分の事のように、悲痛な表情で声を荒げた鈴の姿に、煉獄は困ったように眉を下げた。
そんな彼らの背後では、倒れ込んでいた二人がむくりと起き上がると、すぐにお互いに怒鳴り合い、今にも殴り合いそうなほどである。
そんなごちゃついた状況に、煉獄は大きなため息を落とすと、静かに鈴へと問いかけた。
「鈴。……君は、自身の兄と重ねて見ているだけではないか?」
「……そ、れは……どういう意味ですか?」
「……兄を鬼にしてしまった事、悔いているのだろう?」
「っ、……」
バッと勢いよく顔を上げ、驚いた顔をする鈴の姿に、他の柱達の視線も自然と鈴に集中する。
その中には、心配そうに鈴を見つめる義勇や蜜璃の視線や、何故か此方を凝視している不死川の視線にも気づきながら、煉獄は更に言葉を続けた。
「失った者は戻らない。それは君もよく知っている筈だ。……だからこそ、鬼の被害が出る前に、俺たちが首を斬るべきだろう」
静かに問われたその言葉に、鈴は何も答えなかった。
ただその場に立ち尽くし、煉獄の顔を呆然と見上げたまま……。
なんで彼は、兄の事を知っているのだろうとか……、
それをこの場で、皆の前で言う必要はあるのかとか……、
思う事は他にもあるが、鈴は悲しそうに瞳を揺らし、それから静かに目を伏せた。
「……煉獄さん。だからこそ、私は彼らを守りたいんですよ」
「……」
「失ってしまったからこそ、託したい思いがあるんです。禰󠄀豆子ちゃんは、私の兄さんとは違うから……だから、彼らの力になりたいんです。貴方には、分かって貰いたかった」
「鈴……俺は、」
そんな鈴に、煉獄が言葉を掛けようと口を開けば、それを遮るように姿を現したお館様に、彼は言葉を飲み込んだ。
「「お館様のお成りです」」
そのまま片膝を突き、お館様へと頭を下げるその瞬間……、チラリと見えた鈴の顔は、悲しみに染まっているようだった。