第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
長い間、隠の背に揺られていた鈴の耳に、砂利を踏む様な音が届き出した頃、鈴は漸く地に下ろされた。
「鈴さん、鬼殺隊本部へ到着しました」
そう口を開いた隠の男は、そのまま鈴の後ろへと回り込み、ゆっくりと目隠しを解いてやる。
それに鈴がお礼を言おうと顔を上げれば、
「っ、……」
開けた視界の先、此方を見下ろす柱達の顔ぶれに、鈴は思わず息を呑んだ。その視線から逃れる様に、慌てて足元へと視線をやれば、直ぐそばで転がされるように寝かされた炭治郎の姿が目に入る。
「鬼を連れた隊士がいると聞いてはいたが……まさか鈴までこんな所にいようとは」
「………」
そんな鈴に向かって、煉獄が険しい表情で口を開くが、問いかけられた本人は俯いたまま、それに返事をすることもない。
その態度には、流石の煉獄も腕を組んだまま、む…と口を閉ざしてしまうが、そんな彼の代わりとでもいうように、周りから鈴に向かって、思い思いの野次が飛ぶ。
「なんだ、なんだぁ?痴話喧嘩なら他所でやれよ!!…しっかし、随分と反抗的な態度だなぁ?」
「鈴ちゃん……今度はどんな無茶をしたの?」
「あぁ、なんて哀れな少女だ……」
それらを耳にした鈴は、俯いたまま拳をぐっと握りしめた。
……鬼殺隊本部、……それに柱がこんなに集結しているこの状況で、炭治郎君達を守る為に何をすればいい?柱達にどう説明すれば彼らを理解して貰えるだろう。
今自分が熱くなったところで、それは得策ではない筈だと、鈴は自身に言い聞かせる。
「起きろ。おい、起きるんだ。起き……おい、おいコラァ!」
そうこうしていれば、隠が炭治郎を起こそうと声を荒げ始めた為、とりあえず事の成り行きを見守るように、鈴は徐に顔を上げた。
「なんだァ〜?鬼を連れた鬼殺隊員っつーから、派手な奴だと期待したんだが、地味な野郎だなぁ、オイ」
「うむ!これからこの少年の裁判を行うと……成る程!!」
威圧感たっぷりで見下ろして来る柱達に、起きたばかりの炭治郎からは「……な、なんだ、この人達」なんて、戸惑いの声が上がる。
「また口を挟むな、馬鹿野郎ッ!!誰の前にいると思ってんだ!?柱の前だぞ!!」
だが、すかさず隠が炭治郎を押さえつけた事で、彼はぐっと言葉を堪えた。
しかし、やはり起きたての頭では、この状況が理解できていないのだろう。不安そうに瞳を揺らした炭治郎に、しのぶは彼の置かれた状況を簡潔に説明する。
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君。」
そう言って微笑んだしのぶの言葉に、炭治郎は困惑した表情を浮かべていた。
そんな彼の様子に、再びしのぶが口を開こうとすれば、彼女の言葉を遮るように他の柱達が口を開く。
「裁判の必要などないだろう!!鬼を庇うなど、明らかな隊律違反!!我らのみで対処可能!!鬼もろとも斬首する!!」
「ならば俺が、派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ?もう、派手派手だ!」
「あぁ……なんというみすぼらしい子供だ。可哀想に……生まれて来た事が、可哀想だ……」
口々に、一方的な意見を述べる柱達に、鈴はぐっと唇を噛み締めた。……当の本人、炭治郎はと言えば、禰󠄀豆子の姿を探してキョロキョロと辺りを見回していた。
しかし、その間も炭治郎そっちのけで、柱達の話し合いは進んでいく。
「そんなことより冨岡はどうするのかね?拘束もしてない様に俺は頭痛がしてくるんだが……胡蝶めの話によると、隊律違反は冨岡も同じだろう。どう処分する、どう責任を取らせる、どんな目にあわせてやろうか」
木の上から、ぽつんと佇む義勇を指差し、心底嫌そうな表情を浮かべた伊黒は、チラリと鈴にも視線を移した後、ふんっと鼻を鳴らしてみせた。
「まぁいいじゃないですか。大人しくついて来てくれましたし、処罰は後で考えましょう。……それよりも、私は坊やの方から話を聞きたいですよ」
そんな伊黒を宥めるように口を開いたしのぶに、炭治郎は慌てて口を開く。
しかし、いきなり言葉を発しようとした為、炭治郎は激しく咳こんだ。
「ゲホ、ゲホッ…」
「水を飲んだ方がいいですね。顎を痛めていますから、ゆっくり飲んでください」
そんな炭治郎に、優しく笑いかけたしのぶは、鎮痛薬入りの水を、ゆっくり彼に飲ませてやる。
それをごくりと飲み込んだ炭治郎は、先程よりもゆっくりと、禰󠄀豆子を理解してもらえるようにと、必死で言葉を紡いでいく。
「俺の妹は鬼になりました……だけど人を喰ったことはないんです。今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません」
だが、そんな炭治郎の言葉を、柱達は頭ごなしに否定する。
「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前。……言うこと全て信用できない、俺は信用しない」
「ああぁ、鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子供を殺して解き放ってあげよう」
勿論、炭治郎もそれに黙っている事はできない為、必死で言葉を繰り返すが……
「き、聞いてくださいっ、……俺は禰豆子を治すため剣士になったんです。禰豆子が鬼になったのは二年以上前のことで、その間、禰豆子は人を喰ったりしてない!!」
「話が地味にぐるぐる回ってるぞアホが!!人を喰ってないこと、これからも喰わないこと、口先だけでなくド派手に証明してみせろ」
やはり、柱達は殆どが聞く耳を持っていないようで、必死に妹を守ろうとする彼の言葉も全然届いていないようだ。
だが、そんな時ー……、
「あのぉ〜、でも疑問があるんですけど……お館様がこのことを把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃっていいんでしょうか?いらっしゃるまでとりあえず待った方が……」
今までずっと傍観しているだけだった蜜璃が口を開いた事で、頭ごなしに否定して来た柱達も、皆一様に口を閉ざした。
〝柱達が考え込んでいる今なら、此方の話を聞いてくれるかもしれない……〟
それまで自分の弁明すらせず、じっと彼らの話し合いを眺めていた鈴は、漸く重い口を開いた。
「……炭治郎君は、嘘を言うような子ではありません。彼の話をちゃんと聞いてあげて下さい。」
すると、その鈴の言葉に、ハッと顔を上げた炭治郎は、慌てて柱達へと口を開いた。
「妹は俺と一緒に戦えますっ、鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!!」
その言葉にしん……と、辺りは静まり返り、炭治郎と鈴を見下ろす柱達は、皆一様に難しい表情を浮かべていた。