第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
荒々しく薙ぎ倒された木々の先……
その折れた木の上を踏みつける様にして、何かが通り過ぎて行ったであろう痕跡を追い、鈴は全速力で、その道を駆け抜けていた。
遠くで聞こえていた地を揺らすような地響きも、獣のような雄叫びも……
「だって……刀二本…………るもん!……ウハハハハ!!最強!!」
誰かの高笑いする声も……
段々と大きくなるそれらに、鬼はもうすぐそこだと確信し、鈴は刀に手を掛けた。
しかしー……、
「何逃げてんだコラァァア!!」
誰かの怒号が響いたのを合図に、縮まったと思った気配が遠のいて行く。
「チッ、……もう!」
思わず舌打ちを鳴らし、遠ざかる鬼の気配を追いかければ、そちらの方向から聞こえる怒鳴り声……恐らく先を行く隊士の攻撃から、鬼が逃げ出したと判断し、鈴は更に速度を上げた。
〝これ以上被害を増やすわけにはいかない……早く追いつかないとっ〟
大きく息を吸い、全身を巡る血の流れに集中する。踏み込む一歩に力を込めて、キッと前を見据えた鈴は、鎹鴉を完全に置き去りにして、まだ見ぬ敵の元へと駆け抜けるのだった。
******
呻き声すらまともに上げられず……
伊之助は首を木に押し付けられるようにして、鬼に拘束されていた。
「……俺は 死なねええぇぇえ!!」
己を鼓舞して伊之助が振り抜いた刀身も、鬼の首に突き刺さるだけで……、折れたままではまともに首を切り落とすことも敵わない。
ギシギシと音を立てながら、首を締め上げる鬼の剛腕に、伊之助の意識は霞んでいく。
『……ごめんね、伊之助』
頚椎を握りつぶされようとしたその瞬間、走馬灯のように脳裏に次々と映像が蘇る。
小さく呟かれた女性の言葉……、炭治郎や善逸の心配そうな顔……、天ぷらを作ってくれた藤の家紋の家の老婆さん……、
ーーーあの声は誰のものだっただろうか。
そんな事をぼんやりと考えていれば、体が呆気なく限界を迎える。口元から大量の血を吐き、もう命が尽きると悟った瞬間………、
蜘蛛の鬼の腕が、ボトリと音を立て、地に転がる。
〝……何だ?斬ったのか? アイツが?……こんなヒョロ腕が?〟
目にも留まらぬスピードで、あんなに硬い体の鬼を切り捨て現れたその背中に、伊之助は驚きで目を見開く。
「っがは、……お前…、がふっ、」
「怪我が酷い、…喋らないで」
チラリと振り返り、人………であろう猪の頭の彼に、鈴は静かに釘を指す。
そして、彼を守るように刀を構え直し、一歩前に足を踏み出した瞬間ー……、
此方に掛けてくる、見覚えのある半々羽織を確認し、鈴は無意識に口角を上げた。
「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」
ぽつりと呟いたその言葉とは裏腹に、固い鬼の首を最も簡単に斬り落とした義勇に、鈴は小さく笑みを溢した。
「義勇も来てたのね?」
「……ああ。鈴も(この任務についていたのか)」
「救援要請が入ったから」
「………そうか」
そんな会話をしながら、刀を鞘へと戻していれば、「おいっ!!」と後ろから、先程の猪頭君に声を掛けられた。
「ああ。ごめん、ごめん………えっと、君、大丈夫?あまり動かない「俺と戦え半半羽織!!」
「………えー」
鈴が心配して声をかければ、それを遮り、彼は高らかに言い放った。
「あの十二鬼月にお前は勝った。そのお前に俺が勝つ!そう言う計算だ、そうすれば …」
「「…………」」
「一番強いのは俺っていう寸法だ!!」
その言葉に、義勇と鈴は、思わず無言で彼を見つめた。
十二鬼月……ではない鬼に、先程まで絶対絶命の危機を迎えていたのに……と、鈴が苦笑いを浮かべていれば、兄弟子の口から「修業し直せ、戯け者!!」なんて、辛抱な言葉が飛び出した。
それに、ピタリと動きを止めた猪頭君に、義勇はとどめを指すように、あの鬼が十二鬼月ではない事を告げていく。
だが、彼はそれに凹む事なく、ツラツラと言い訳を並べていくものだから、………懐から縄を取り出した義勇が、猪頭君より先に動きを見せた。
「なっ、……」
パンパンと手を払う義勇に、彼は驚きの声を漏らした。
それを傍観していた鈴は、怪我人を縛り上げるなんて……と兄弟子の鬼畜な行動を、頭の片隅で非難めいたりもしたのだがー……
「……って、オイ!!コラ待てっ!!」
ギャーギャーと再び騒ぎ出した彼の様子に、縛っておいた方が怪我に触らないかも……なんて、小さくため息を落とした。
「えっと、……猪頭君、ごめんね?鴉で救援を呼んでおくから、助けが来るまで大人しくしていてね」
そう言って笑いかけた鈴は、困ったように眉を下げ、スタスタと歩いて行ってしまった兄弟子の後ろ姿を慌てて追いかける。
「くそっ、解けェー!!……ヒョロ腕女でもいいから、勝負しろーっ!!」
………ヒョロ腕女、って
変な呼び方をされた事に、思わず苦笑いを浮かべながら、鈴は振り返る事なく、再び山道を駆け出すのだった。