第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うわぁぁーん……鈴ちゃんが大変だって聞いて…私、飛んできたのよっ!!」
「あ、ありがとう。……蜜璃ちゃん」
三ヶ月ぶりに会う友人に泣きつかれ、鈴は困ったように眉を下げた。
「熱が出たって、しのぶちゃんから聞いたわ!!もう起き上がって大丈夫なの?」
「ああ、うん。……もう平気だよ」
そこまで口にして、チラリと蜜璃の後ろへと視線を移した鈴は、彼女の後ろから此方を睨みつけている人物に向かって頭を下げた。
「‥‥す、すみません。……蛇柱様もわざわざお見舞いに来ていただいて「勘違いするな、貴様の見舞いに来たわけではない」
「あ、はい……そうですよね。すみません…」
初めて会った相手に、ひと睨みされたばかりか、取り繕った言葉さえも一刀両断にされてしまっては、上官相手だとはいえ、流石に鈴も頬を引き攣らせた。
だが、彼に背を向けている蜜璃はそんな様子にも気づかない。
そんな彼女が鈴に抱きついた途端、じろりと一層睨みを効かせた伊黒に、鈴はピクリと肩を揺らした。そして、なんとなく彼の怒りの原因が分かったような気がした鈴は……
「えっと……本当に、本当ぉ〜っに、もう大丈夫だから!ありがとう、蜜璃ちゃん…ね?」
よかったぁ〜〜なんて、可愛らしく笑っている友人を引き離すのは急務であると、慌てて口を開くのだった。
******
つい三日前、音柱に担ぎ込まれて蝶屋敷へと運び込まれた鈴は、それからすぐに高熱を出し、文字通り、死ぬかと思うほどの激痛にうなされ続けた。
外傷的には、大した事のないように思えた今回の怪我も、やはり体の中に大量の猛毒をとどめた影響だろう。解毒薬を打って貰っていた筈が、気づけば体が拒否反応を引き起こし、二日間も寝込んでしまっていたのだ。
鈴自身、柱二人にお咎めを受けたところまでははっきり覚えているのだが、病室へと移動した直後、張り詰めていた気が弛んでしまったのだろう。パタリと倒れ込んでしまい、それ以降二日間の記憶は、とにかく体が痛かったという事以外、曖昧なのである……
そんな中、漸く体調が安定し始めた所に、同期で親友でもある蜜璃と、初対面でかなり上から目線な伊黒が、鈴の病室を訪れたというわけである。
「本当に心配したんだからねっ!!もう!!」
「ごめん、ごめんっ……ところで、折角お見舞いにきて貰っておいてあれなんだけど……蜜璃ちゃんは何か予定があったんじゃないの?その……蛇柱様と」
「えっ、」
「いや、違うならいいんだけど……もし何か約束をしていたなら、私なんかの為に申し訳ないな〜って」
そう言ってチラリと伊黒を盗み見た鈴は、運悪く彼と目があってしまい、申し訳なさそうに眉を下げた。
それに伊黒は、ふんっと鼻を鳴らしたのだがー……
「今日は伊黒さんと甘味処へ行く約束をしていたんだけど……、鈴ちゃんが心配だって伝えたら、一緒に行こうって言ってくれて」
「………別に大した事じゃない。……例え血鬼術を食らった挙句、寝込んでしまうような鈍臭い隊士だろうと、甘露寺の大切な友人だからな」
「あははは、は、は……」
鈴を気遣い優しく微笑む蜜璃に、伊黒もつられて重い口を開いた訳だが、やはりネチネチと蛇のように文句を並べた彼の言葉に、鈴は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
そんな彼の小言は止まることを知らないようで、その後もネチネチとひたすらに続き、鈴は平謝りし続ける。
「それになんだ……、胡蝶めからの話によれば、お前のその怪我の原因は、他の隊士を庇った為に負ったらしいな」
「……えっとー、」
「自分の身も守れない癖に、他人を気遣う余裕なんてないのではないか」
「…はい、すみません。………仰る通りです」
「そもそも揉め事を起こすような奴を庇うなんて「ちょ、…ちょっと待って下さい」
彼の言葉を遮るなんて、なんて命知らずなんだろう。咄嗟に声をかけてしまったが、今さらになって後悔する。
しかし、「隊士を庇って」やら「揉め事」やらと、何やら可笑しな言葉が飛び交っていたことを思い出し、鈴は恐る恐る彼に尋ねた。
「えっと、……その、しのぶちゃんからは何て聞いているのかなー、なんて……思ったりなんかしまして……」
そう言って眉を下げた鈴に、伊黒は何やら険しい表情を浮かべた。
〝え、何?もしかして、しのぶちゃん……あの隊士の事を話しちゃったの!?〟
いきなり口を閉ざした伊黒に、鈴は内心ビクビクしながら彼を見つめた。
しかし、その問いかけに答えたのは、彼の隣にいた蜜璃の方で……、
「……実は私、隊士達の噂話を聞いちゃって。鈴ちゃんの事を悪く言う隊士が、揉め事を起こしたあげく、鈴ちゃんに怪我をさせたって」
「え……」
「しのぶちゃんからは、……隊士を庇って怪我をしたとしか聞いていないけど、もしかしたらそれが原因かなって心配で…」
「そう、なんだ……」
「余計なお世話かもしれないけど、煉獄さんにこの事を相談してみたら?……最近鈴ちゃんと煉獄さんの仲が噂になっていたから、きっと妬んでいる子もいると思うの。実際、私も継ぐ子の時に、他の女性隊士に辛く当たられる事もあったから……」
その内容に思わず鈴は頭を抱えた。
蜜璃がそんな嫌がらせを受けていた事も初耳だし、そのような噂が広まってしまっては、煉獄の耳に届くのも時間の問題ではないだろうか。
そもそも、彼と恋仲になったわけでもないし、彼の気持ちに応える気も毛頭ないのだ。
……正直、彼の事は嫌いではない。
初めこそ理解できぬ言動も多かったが、正義感に溢れ、後輩思いの優しい一面や、時折見せる少年のような無邪気な笑みに……少しずつ惹かれつつあるのは、鈴自身も気づいていた。
しかし、彼は名家出身のお坊ちゃまなのだ。いくら何でも、自分とでは吊り合わない。彼には、もっと素敵な女性がいるだろう。
そんなことを考えて、彼を好きになる前に、その感情にそっと蓋を閉めたのだ。
……それなのに、彼との噂のせいで揉め事を起こした上に怪我を負ったとなれば、きっと彼に迷惑をかけてしまうだろう。
むむ、と眉間に皺を寄せ、鈴が難しい顔をしていれば、それを見ていた伊黒は呆れたように呟いた。
「お前には、煉獄がそんな事で迷惑だと思う男に見えているのか?」
「……いえ、」
「アイツは少し熱くなりすぎりる所があるが、いい奴だ。……俺が断言するくらいだからな」
その言葉に、なんて返事をすればいいのか分からず、鈴は「はあ、」なんて曖昧に相槌を打つ。すると、蜜璃がもう耐えられないとでも言うように、いきなり大声を上げ、鈴にズズイと近づいた。
「もう、鈴ちゃんは色々一人で無茶しすぎなのよ!!伊黒さんの言った通り、煉獄さんはそんな事で、鈴ちゃんを迷惑だなんて思わないわ。寧ろ、頼ってくれた事を喜ぶ筈よ」
「で、でも……」
「それとも……鈴ちゃんは煉獄さんを頼りたくないの?」
「………そう言う訳じゃないけど、……煉獄さんを巻き込みたくないの……彼には、私じゃとても吊り合わないよ」
「……そんな事気にしていたの?鈴ちゃんはとっても可愛いし、優しいし、素敵な女性だよ!!」
「蜜璃ちゃん……」
「だって、煉獄さんがあんな顔してる所、私、初めて見たんだから!!それに、そんな事で煉獄さんが諦める筈ないわ」
そう言って優しく笑いかけた友人の姿に、鈴も釣られて笑みをこぼす。
「蜜璃ちゃんこそ、本当に素敵な女性よ?前にも言ったけど、蜜璃ちゃんの髪も目も、その優しい所も……魅力がいっぱいだもの!!」
「えへへ、そうかな〜…?でも、煉獄さんも前に言ってくれたの。外見なんて関係ないって」
「ふふっ、やっぱり煉獄さんはとっても素敵な師匠だったのね……
蜜璃ちゃん、色々とありがとう、元気出た。私……もしも、男だったら、絶対蜜璃ちゃんを好きになってたと思うわ。本当に大好き、ありがとうー」
「ふふっ、私も鈴ちゃんが大好きよ!!」
二人して頬を緩め、キャッキャっと楽しそうに笑っていれば、ある方向から視線を感じ、鈴は背筋を凍らせた。
「尾上、いい度胸だ……」
「ひ、ひぇ……これはつい出来心で……」
可愛い友人と、そんな彼女を大切に想っているだろう上官に挟まれ……
鈴はやはり、頬を引き攣らせるのであった。