番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
雛鶴が用意してくれたお茶を啜りながら、天元は目の前の男に向け、徐に口を開いた。
「……で?わざわざ屋敷まで押しかけてきて、一体何の用なんだよ、煉獄?」
「うむ!この手の相談なら君が適任だと思ってな!!わざわざお茶まで出して頂いて、かたじけない!!」
「あ?俺に相談〜?」
つい先日開かれた柱合会議で、嬉しそうにピンク頭の少女と話していた煉獄が、あれからたった数日しか経っていないと言うのに、険しい表情でわざわざ屋敷にまで押しかけて来るなんて……、
〝一体どんな相談だ?〟
天元が片眉を上げて、杏寿郎を凝視していれば、いつも通りどこを見つめているのやら……、笑みを浮かべたままの杏寿郎は、一つ大きな咳払いを落とした。
「君は……奥方達にどんな贈り物を送るのだろうか?」
「ア?俺の嫁ェ〜?」
予想外の問いかけに一瞬ポカンと口を開けた天元だったが、何やら彼の中で合点がいったようだ。ははーん。さては煉獄、お前……なんて呟き、面白いものでも見つけたように、口元を吊り上げた。
「で?どんな女だ、お前が贈り物を送りたいっつー女は?」
「むう、……まだ誰とも言っていないのに、分かるのか?」
「はっ、俺を誰だと思ってやがる。女心のことなら、この宇髄天元様に任せておけよ!!」
そう言ってニカっと豪快に笑った天元は、茶菓子に手を伸ばしながら饒舌に話し出す。
「にしても、女に詰め寄られようが全く相手にしてこなかった煉獄がなー……で?お前が夢中になる女ってのは、どこぞのお嬢様なのか?」
「いや、彼女は俺たちと同じ鬼殺隊士だ」
「へ〜……、女の隊士か。それならどっかで会った事があるかもな〜!なんてヤツだ、そいつは?」
「……尾上鈴という隊士だが、宇髄に惚れられても困るからな。あまり彼女の事は詮索しないでくれ!!」
「惚れねーわ!!俺をなんだと思ってんだ、全く…」
本気なのか、冗談なのか。よく分からない杏寿郎の呟きに、天元は思わず大声で突っ込みをいれた。
だが当の本人は、余程真剣に悩んでいるのだろう。天元の突っ込みに応える事なく、腕を組みながら、むう、なんて唸り声を上げている。
そんな同僚の姿を見て、仕方ないと大きなため息を吐いた天元は、それとなく女性の好みそうな甘味処の情報や、女性が喜びそうな事を教えてやる。
「……あとはそうだな、直接会うのも喜ぶだろうが、形に残る物も喜ぶもんだぜ?偶には、文でも送ってやればいいんじゃねーか?」
「文、か……。なるほど!!」
「ところで、その隊士とはもう長いのか?」
なんの気無しに問いかけた天元の言葉に、杏寿郎は「三日前に…会ったばかりだ!」と嬉しそうに口を開いた。
「は!?三日前……って、会議の日じゃねぇーか!!」
「うむ!!先日、甘露寺と共に訪れた食事処で挨拶を交わした!!なんでも甘露寺の同期のようで、鈴から此方に声をかけてくれた!!」
「へえ〜……そりゃあ良かったじゃねーか!!」
「うむ!それで、早速、直ぐにでも結婚を申し入れようと思うのだが「ちょ、ちょっと待った!!」
「む?……どうした宇髄?」
何故止められたのか理解出来ていないのだろう。不思議そうに首を傾げた杏寿郎に、天元は思わず頭を抱えたくなった。
「お前なー…、まだ、たかだか三日前に知り合ったばかりなんだろうが!!そういうのには順序というものがあんだろ?」
「確かに、君の話は一理ある……しかし、甘露寺の話によれば、鈴を慕う隊士は多いようだ……誰かの者になるくらいなら「いや、いや!!怖ぇーわ!!もうちょっと慎重にいかねーと、断られる可能性だってあるだろうが!!」
「ハハハッ!案ずる事はない!!彼女に頷いて貰うまで、此方も折れる気はないからな!!」
「あー…そー…ですかって、なるかー!!お前は、やることなす事、派手すぎるんだよ!!」
何故か自信満々の杏寿郎は、天元の盛大な突っ込みなどものともせず、豪快に笑い声を上げている。
それには、部屋の隅で話を小耳に挟んだ嫁三人も、天元同様、頭の中で突っ込みを入れる。
「ハハハッ…しかし、困った事に彼女に何を送ればいいのか分からなくてな!!求婚をする時は、何を送ればいいだろうか?」
「あー……、それなら「でしたら紅がいいんじゃないかしら?」
「ちょっと須磨は黙ってなさいよ!!それに結婚を申し込むなら着物を贈るべきじゃない?」
「え〜!!着物は選ぶのが大変でしょう?ほら、好みもあるし〜!!まきをさんが、新しい着物が欲しいってだけじゃないの?」
「そんな事言ってないじゃない!!」
突然話に乱入してきた嫁達に、天元は大きなため息を落とす。杏寿郎も、相変わらずの賑やかさに圧倒されてはいるものの、彼女達の言い合いを真剣に聞いている。
そんな中、二人の直ぐ横で口論を聞いていた雛鶴が、困ったように口を開いた。
「もう……須磨も、まきをも、天元様の言葉を遮っちゃ駄目でしょう」
そう言って眉を下げた雛鶴は、私は簪がいいと思います、と最後に一言笑いかけた。
「まー…そう言うこった!紅か着物か、簪を送るのが一般的だが」
「では全「全部はやめとけよ〜、そいつが引くかもしれないからな〜……まぁ、その中なら簪が一番無難そうだな」
「なるほど!!了解した!!では彼女には簪を贈ることとしよう!!」
「おう!まぁ、頑張れよー!!もしその隊士に会うような事があれば、それとなくお前の事を話しといてやるよ」
そう言って笑いかけた天元に、杏寿郎は嬉しそうに頷いた。そして、あんなに渋っていた筈の彼女の特徴をペラペラと語り出す。
身長は甘露寺と同じくらい、17歳の水の呼吸を使う乙の隊士、瞳は黄色に薄ら茶色を混ぜたような蜂蜜色で、笑うととんでもなく可愛らしい……と、最後に口にした杏寿郎は、きっと鈴の事を想像していても経ってもいられなくなったのだろう。
すくっと突然立ち上がると、天元に向かって口を開いた。
「宇髄の助言はとても参考になった、感謝する!!少し用事を思い出したのでな、今日は此処らでお暇させていただくとしよう!!」
「あ、ああ。そうか……」
「宇髄の奥方達も貴重な意見、感謝する。お茶も美味しかった!!」
「「「あ、…はい。またいらして下さい」」」
「うむ!!では、失礼する!!」
そう言って、スタスタと勝手に出て行ってしまった杏寿郎の背中を、四人は呆れたように見送った。
「天元様、とめなくて大丈夫だったんですか?」
「ア?あーー無理だろ、ありゃ……から回って暴走してやがるからな」
天元のその一言に、嫁三人は苦笑いを浮かべたわけだが。
「まぁ、煉獄はいい奴だし、頼り甲斐もある男だからな。その隊士に誠意が伝われば、なんとかなんだろ!!」
嵐のように過ぎ去って行った同僚を思い浮かべ、天元はそう自分に言い聞かせるのだった。
******
だが、まさかその日のうちに例の隊士を探し出し、杏寿郎が結婚を申し込んでいただなんて知らない天元はー……
それから暫くして、隊士達の間で広がる噂……〝炎柱と好い仲の隊士がいるらしい〟という類のものを聞いた時は、正直驚きを隠せなかった。
〝好い仲って、相変わらず行動が早えーな……ま、想いが通じたなら良かったじゃねーか!!今度煉獄を茶化しに行くか!!〟
……そう思っていたのだから、それから数ヶ月経過したある任務の帰り。
「お前、煉獄の女か?」
「い、いぇ…違いますが「ア?簪、貰ってねーのか?」
「え……えっと、お断りしたので…その、」
「は?……ぶっ、はははっ!お前っ、断ったのか!!ぐふっ、ふははっ、ド派手な野郎だな」
緊急要請に駆けつけて、たった今、鬼の攻撃から助けてやった蜂蜜色の瞳の少女の言葉に思わず豪快に吹き出した。
〝おいおい、フラれてんじゃねーか!!〟
頭の中で盛大に突っ込みを入れた天元だが、曖昧に笑う少女の姿に、
〝あー…そういえば、コイツが頷くまで煉獄は折れる気はないんだったな〟
と数ヶ月前のやり取りを思い出し、少女に少し同情していたなんて……その時の鈴は、全く気づきもしなかった。