第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「アンタにだけ、いい所を独り占めなんて、させないんだから!!」
大声で叫びながら、鬼へと大きく振りかぶった女性隊士は、完全に鬼を倒せると油断していて、見るからに隙だらけだった。
それを視界に捉えた鈴は、今まさに鬼へと踏み出した攻撃を諦め、慌てて隊士の元へと駆け出した。
だが、隙だらけの隊士に気付いたのは、鬼も同じだったようで、彼女に向かって無数の毒針が襲いかかる。
そのあまりにも切羽詰まった状況に、彼女を突き飛ばすような形で、その身を滑り込ませた鈴に、一人状況を飲み込めていない彼女は、またしてもキャンキャンと叫び声を上げる。
「痛いっ、アンタなにする「早く!!っ、……下がりなさい!!」
しかし、それを制した鈴の迫力に、思わずぐっと言葉を飲み込んだ。そこで鈴の背中を見上げた隊士は、鈴が地面に投げ捨てた
カラン、と石にぶつかったそれは、先程まで自分に迫ってきていた毒針で……。それを鈴が投げ捨てた事で、毒針から庇われた事を漸く理解した彼女は、鈴の背中を見つめて、息を呑む。
「鈴さんっ!!」
それはたった今、遅れて此処に駆けつけた他の隊士も同じようで、必死に鈴の名前を呼びながら、鬼に向かって駆け出した。
「俺の毒針は凄いだろう?強い鬼狩りでも関係ない!!」
「……鈴さ「駄目、来ないで!!……私なら大丈夫!!」
「大丈夫?ふ、ハハハッ……そうだな、お前はそのうち痛みすら感じなくなるからな!!ああ、安心していい」
お前も、お前も、お前も……
そう言って一人一人を指差した鬼は、ニタリと口元を歪めて、嬉しそうに口を開いた。
「全員まとめて、仲良く俺の腹の中だ!!」
豪快に笑い声を上げる鬼に対し、鈴はふぅ〜っと深く息を吸い、肺を大きく動かした。血流が全身を駆け巡る感覚を確かめながら、ぐっと刀を強く握り、次の一撃に、全神経を集中させる。
「全集中 水の呼吸……」
意識を鬼の首を斬る事にだけ集中させ、鈴が静かに一歩を踏み出した瞬間だった。
物凄い速さでこちらに近づく別の気配に、鈴だけが一人、気がついた。
「音の呼吸 肆ノ型
それは茂みから飛び出すや否や、ジャラリと派手な髪飾りを揺らしながら、ドカーーンッ!と爆音を上げ、最も簡単に鬼の首を斬り落とした。
叫ぶ暇すら与えないその一撃に、首を斬られた鬼ですらまだ状況が理解できていないようだ。背後の隊士を守るように、身構えていた鈴ですら、一瞬すぎる出来事に、思わずポカンと口を開けた。
「鴉からの緊急要請が入って来てみれば、とんだ雑魚じゃねェか!!全く、最近の隊士は質が落ちてんじゃねェか……あ?」
そこで漸く、鬼以外の隊士達を視界に捉えた男は、鈴を見るなり眉間に深く皺を寄せた。
突然やってきたと思えば、豪快に鬼を倒したその腕っ節の強さ。それから些か派手な装いと、見上げるほどの体格差。全てにおいて圧倒されているというのに、そんな男に険しい表情で見つめられてしまっては、鈴も戸惑いを隠しきれない。
「………助けていただいて、ありがとうございます。えっと……「ああ、俺は音柱の宇髄天元だ!!……まぁ、命を救ってやったんだ。お前ら、派手に感謝しろ!!」
「……あ、はい。ありがとうございます」
上官で、命の恩人でもあるわけだが、音柱の有無を言わせぬ物言いに、鈴は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「にしても、お前ら全員ボロボロだな……特にお前、あの鬼の血鬼術を食らったのか?」
「い、いえ……大丈「助けて下さい!!私、鈴さんに突き飛ばされてから、足が痛くて歩けないんです」
しかし、問いかけられた鈴よりも、あの女性隊士が何故か助けを求め始めた事で、皆の視線は彼女へと向いた。
「鈴さんが一人でかっこつけようと無茶をしたから、私が助けに入ったんです!!なのに、自分一人の手柄にしようと、私を突き飛ばして!!」
「お前もういい加減にしろよ!!鈴さんに助けられてたじゃねーか!!」
「ち、違うわよ!!それは、コイツが勝手に……どうせ煉獄さんに褒めて貰う魂胆なんでしょ!!」
鬼がいなくなり、柱も訪れた事で、彼女も余程安心したんだろうが……必死に止めようとしてくれる少年に、再びキャンキャンと吠え出した彼女に、鈴は小さくため息を落とした。
そんな鈴の横では、音柱が「煉獄だ〜?なんだ、このちんちくりんは?」なんて、彼女を指差し頬を引き攣らせている。
この状況に頭を抱えたくなるが、鈴はなんとか声を絞り出し「私は大丈夫ですので、あの子を見てあげて下さい」と笑いかけた。
しかし、全集中の呼吸で毒の巡りを遅らせてはいるものの、先程食らった毒針は鈴の太ももと鎖骨の2箇所……特に鎖骨部分に刺さった毒針は、すぐに引き抜いたとは言え、心臓に近い場所だったため、思ったよりも毒の効果が現れるのが早いのだ。
〝あの子の事は音柱様に任せて、私は蝶屋敷へ向かわないと……〟
鈴がそう考えていた時だった。
おい、と口を開いた音柱が、むぎゅっと、突然鈴の頬を鷲掴み、強引に上を向かされた。そのまま鈴の瞳を覗き込んだ音柱は、‥‥はちみつ色…そうか、なるほどなー……と呟いたかと思えば、「お前、煉獄の女か?」と口を開いた。
「い、いぇ…違いますが「ア?簪、貰ってねーのか?」
「え……えっと、お断りしたので…その、」
「は?……ぶっ、はははっ!お前っ、断ったのか!!ぐふっ、ふははっ、ド派手な野郎だな」
何故か豪快に笑い声を上げ出した音柱に、鈴は戸惑いながらも頬が痛いと声を上げた。
しかし、全く此方の話を聞いてはいないのだろう。
スッと目を細め、顔を近づけてきた音柱は、あろう事か鈴の隊服を乱暴に引っ掴む。その衝撃で釦が二、三個引きちぎられ、胸元がチラリと顔を出す。
それには流石に鈴も戸惑いながら抗議したのだが、
「わっ、…ちょっと「なにが大丈夫だ、コラ?しっかり毒、食らってんじゃねーか!!」
「…‥すみません」
目敏く患部を確認されて、鈴は視線を泳がせた。そんな鈴を前に「ったく、しょうがねーなぁ」なんて呑気に呟いた音柱は、漸く鈴の頬から手を離したかと思いきや、次の瞬間には、鈴を米俵でも担ぐかのようにヒョイっと肩に担ぎ上げた。
「お、音柱様!……歩けます、大丈夫です」
「だー、耳元でピーピー喚くな!!うるせーわ!!」
鈴が悲鳴を上げようがお構いなしの音柱は、まだ何やら喧嘩をしている二人の隊士にチラリと視線を移した後、面倒臭そうに口を開いた。
「あーーお前、そのちんちくりんは任せたぞ?」
「え、……あ、はい。了解しました」
少年の隊士が頷けば、ちんちくりんって私の事!?なんて、彼女は再び喚いていた。
「じゃ、後は頼んだわ!!」
そう言って片腕を上げた音柱は、もの凄い速さで山道を駆けていく。
毒が全身を回り始めたのと、
あまりの揺れで酔ってしまったのと、
蝶屋敷に到着する頃には、鈴は真っ青な顔で、ぐったりしていたのだとか。