第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
〝任務前から一悶着あるだなんて、今日は余程ついていないのだろう……〟
鈴は小さくため息を落としながら、十名ほどの隊士達と隊列を作りながら山道を進んでいた。
今回、鈴達に言い渡された任務は、山に潜む鬼の首を斬れというものだ。
被害が急激に拡大したとの事で、近隣にいるすぐ集まれる隊士達に、伝令が言い渡された訳である。
勿論、突然の招集である為、隊士達の階級も様々。鈴のように経験を積んだ
鴉からの報告では、この山に送り込んだ数名の隊士は、既に消息をたった後だと言う。
この寄せ集めの顔ぶれで、怪我人を出さずに鬼を討ち取るとなれば、……人数が多い分、気を配る範囲もいつもの比ではないだろう。
その癖、相手の血鬼術も、これといった情報を持ち合わせていない。
鬱蒼としげるこの竹林が、余計に怪しさを増してみせる。それを進む隊士達にも、人数が多いからこその油断が見て取れる。
……この任務、いつも以上に用心するに越したことはないだろう。
険しい表情を浮かべた鈴は、いつでも飛び出せるようにと構えながら、最後尾を歩いていくのだった。
******
暫く進むと、何やらぽっかりと開けた場所が現れた。
如何にも、ここで争闘があったかのように、この周辺だけは竹がごっそりと薙ぎ倒されている。そんな異様な光景に、先頭を歩く隊士が思わず足を止めた時だった。
ブゥゥーン……と、虫が羽ばたくような音が聞こえたかと思った瞬間、
「ぐわぁっ!、……」
一人の隊士が苦しそうな呻き声を上げた事で、鈴は直ぐに刀を構えた。
「……大丈夫!?」
その隊士を庇うように、鈴が慌てて駆け出せば、それと同時にあちこちで仲間の悲鳴が上がり始める。
〝気配に気づかないなんて……〟
突然の奇襲に思わず表情を歪めながら、全神経を集中させれば、此方に向かって勢いよく飛んできた何かに気づいて、鈴は刀を振り抜いた。
ガキィィィン、と甲高い音を立てながら弾き飛ばしたものを目で追えば、一寸程にもなる長い針が地面に突き刺ささっていた。よく見れば、針からは薄ら紫色の煙が立ち込めており、瞬時に人体に害を及ぼすものだと判断する。
「へえ、……よく俺の毒針に気づいたな?」
そんな鈴の前に、羽を羽ばたかせるように姿を現した鬼は、蜂のような体をしており、ニタリと怪しい笑みをこぼした。
「俺の毒針を受けたものは、じわじわと毒に侵される……手足の感覚を失い始めたら最後、終いには呼吸すらままならなくなる」
その言葉に、数名の隊士が小さく悲鳴を上げたのを確認した鈴が、チラリと周りを伺えば、その毒針を受けた者達の幹部は、爛れたように真っ赤になっていた。
「手負いのものは今すぐ下山!!鴉で蝶屋敷に状況を知らせて……呼吸で少しでも毒の進行を遅らること!!」
「ハハハッ……お前、面白い事を言うなっ!!俺の毒を食らって、死ななかった奴は一人も「水の呼吸 参ノ型 流流舞」
ニタリと笑う鬼の言葉を遮り、鈴が斬撃を放てば、やけにあっさりと首を斬ることに成功する。それに一人の隊士が歓喜の声を上げたのだが……
「さすが鈴さん!!一撃で倒すなん「まだ気配が消えていない。油断しないで!」
鈴がその言葉をすかさず否定すれば、再び聞こえた羽の音。スッと目を細め、目を凝らせば蜂のような姿をした鬼が少なくとも20体は確認できた。
「俺たちは働き蜂……いくらでも代わりはいるのさ」
そう言って此方に飛んでくる大群に、鈴は迷わず駆け出していく。
……鬼の気配が薄い、……数は多いが、そこまで厄介な攻撃も仕掛けてはきていない。恐らく分身の類である事は間違いないが、毒針がある以上、数を減らさなければ再び怪我人が出るのは明らかだ。
残っている隊士は鈴を含めて四人だけ。
しかし皆階級も低く、震えながら刀を構える姿から、たまたま攻撃を避け切ったようだと判断した鈴は、彼らに近づけまいと、一人鬼の大群へと突っ込んだ。
******
あれからどれほどの時間が経ったのか、
鬼の毒針を避けながら、的確に首を落としていく鈴は、斬っても斬っても現れる鬼にうっすらと疲労を感じ始めていた。
チラリと視線を動かせば、ほかの隊士も鈴に続けといわんばかりに、懸命に刀を振るっているが……
いかんせん、数が多すぎるのだ。
〝……本体を斬らなければ、キリがないか〟
そう判断した鈴は、あらかたの鬼を片付けると隊士達へと口を開いた。
「本体の鬼を斬るまで、ここをお願い!」
「鈴さん、一人じゃ「私は大丈夫!!それより、鬼の毒針に注意して!!羽の音をよく聞けば、場所も大体掴めるはずだからっ」
そう言って鬼達が飛んできていた方向へと駆け出した鈴は、鬼の首を斬りながら進んでいく。
暫く竹林を進み続ければ、本体に近づいているのだろう……鬼の数も増えたが、漸く鬼の禍々しい気配を察知して、鈴は、その方向へとスピードを上げて駆けていく。
すると、竹林を抜けたその先で、
「おや?此処まで辿り着くなんて見込みがある……お前、強い鬼狩りだな?」
大きな蜂の巣の様なものから、身を乗り出した本体の鬼が姿を現した。
「だが一匹で来るとは、愚かなものだ。多勢に無勢……お前に勝ち目などないと言うのに」
先程同様、鬼の言葉を無視して、鈴は果敢に技を放つが……
「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」
「ほう…速い、速い!これは楽しめそうだ」
「うるさいっ……、」
その鬼は見た目こそ、先程までの鬼とは変わらないが、速さも硬さも分身よりも格段に上だった。それに加えて分身がうろちょろと辺りを飛び回るものだから、かなり厄介ではあるのだが鈴は屈する事なく技を放ち続けていく。
しかし、そこでふと、本体のその後ろ……、蜂の巣から分身が湧き出てきている事に気づいた鈴が、本体への攻撃と見せかけて、巣に向かって技を放った。
「き、貴様ァァァ〜ッ!!よくも俺の子供達をっ、」
先程までヘラヘラしていた鬼が、崩れた巣を見た途端、怒りを露わにして喚き出した。その怒りを表すように、力任せな単調な攻撃を仕掛ける鬼に、鈴は冷静に刀を振り続けた。
気づけば、あんなにいた分身もかなりの数まで減らせたし、怒りで我を忘れている今なら、その首も斬り落とせるだろう。
そう判断した鈴が、鬼に向かって飛び出した瞬間、すぐ脇道から、チラリと黒い隊服が飛び出すのを視界に捉えた。
それは任務前、鈴に突っかかってきた後輩隊士で、無謀にも鬼に向かって刀を大きく振りかぶっていた。
「……っ、来ては駄目「アンタにだけ、いい所を独り占めなんて、させないんだから!!」
鬼が振り向き毒針を放つのと、鈴が隊士の元へと回り込むのは、ほぼ同時……
「鈴さんっ!!」
それに遅れるように駆けつけた別の隊士の叫び声が、山の中で木霊した。