第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
先日、兄弟子の家で、煉獄をもてなしてからというものー……
「鈴!!良ければ一緒に甘味処へ行かないか?」
「い、いえ。……これから任務がありますので」
「むう、任務なら仕方あるまい……では、鴉を飛ばす。また日を改めよう!!」
「え、あー、はい。すみません……」
事あるごとに、煉獄は鈴の前へと現れた。
ある時は任務後の報告を隠にしている時、またある時は藤の花の家に寝泊まりをしている時、そして今日は任務に向かわんとする道中で出会した訳だ。
煉獄と出会ってから三ヶ月ー……、
彼からこうしてお誘いを受けた回数は数知れず……なんだかんだと強引な彼のお誘いに、食事を共にした事も数回ある。
勿論、任務で顔を合わさない時だってある訳だが、彼は時折、鎹鴉伝いに文を送ってきたりもしていた。
それはお誘いばかりではなく、鈴が怪我をしていないかと身を案じるものや、ただ単に今日起きた出来事や、弟の千寿郎の事を書き留めた文もある訳だが……
彼から届くそれらには、いつも鈴を気遣う優しい言葉が添えられていた。
「うむ、では気をつけて行ってくるように!!くれぐれも任務で無茶をして、怪我だけはしないようにな!!」
今だって鈴を気遣い、優しく目を細めた煉獄に、ふわりと頭を撫でられる。
彼を知れば知るほど思うのだが、強引ではあるものの本当に彼は面倒見のいい上司だと、つくづく思い知らされる。
彼の言うような感情ではないにしても、この三ヶ月の間で、鈴の煉獄に対する印象は好感を持てるものへと変わっていった。
「ありがとうございます。」
目の前で笑いかける煉獄に釣られ、鈴も自然と頬を緩めるのであった。
******
その後、煉獄に別れを告げ、無事に任務の待ち合わせ場所へと訪れた鈴は……、
「あんたなんかが、煉獄さんに近寄らないで!!」
姿を現すなりキャンキャンと喚き散らし始めた女性隊士に、頬を引き攣らせていた。
「ちょっと聞いてるの!?何とか言いなさいよ!!」
「……えっと、少し落ち着いて?」
「落ち着いて!!何っ?私の事、馬鹿にしてるの!?」
鈴の一言に、キッと目を吊り上げた隊士に鈴は、思わず頭を抱えたくなった。
今回鴉から言い渡された任務は、数名の隊士と合同で〝ある山に潜む鬼を打ち取れ〟と言うものだった。その中に鈴に対して、不満を抱く隊士……要は、煉獄を慕う女性隊士がいたようで、鈴が集合場所で待っていれば、顔を合わすなり彼女は鈴を罵倒し始めたのだ。
後輩であるにも関わらず、鈴に食ってかかる態度は褒められたものではないのだが、顔を赤らめながら、煉獄さんは凄い人なんだと語る少女は、年頃の女子らしくて可愛くも思う。
「煉獄さんはね、とっても強くて、かっこいいの!!あんたなんかが、平気で隣を歩いていい人じゃない!!」
しかし、目の前でキャンキャンと吠える少女に、……それは本人に直接言って欲しいものだと、鈴は心のなかで突っ込みを入れる。
他人事のように苦笑いで受け流す鈴に、少女の声もどんどん大きくなってきている気がするが、鈴にとってはその手の言いがかりをつけられる事が最近急に増えた為、もうそんな事にも慣れつつあるのだ。
……というのも、煉獄が鈴に思いを告げられてからというもの、何処でその噂を聞きつけたのか、鈴は事あるごとに隊士達から二人の関係について問いかけられていた。
煉獄さんと付き合っているのは本当か?と言った類のものが多い中、彼女のように、鈴へと敵意剥き出しで突っかかってくる女性隊士もちらほらといる。
やはり、強くて頼もしい柱はもてはやされるものだろう……どうしても敵わない鬼を前に、命の終わりを悟った瞬間、颯爽と現れて助けてくれた人に心奪われるのは当然のこと。それでいて、彼はきっと、その強さを自慢する事もなく、笑顔で怪我はないか?と仲間の無事を気にかけるのだろう。
〝……そりゃあ、恋に落ちるのも仕方ない、そうやって彼を慕う者が増えていくんだろうなぁ〟
なんて、鈴が物思いに耽っていれば、それまで傍目から傍観していた隊士の一人が、遠慮がちに口を開いた。
「おい、それくらいにしておけよ…… 尾上さんが困ってるだろ?」
「何?あたしが悪いって言うの!?」
「いや、そんな事は言ってないけどさ……」
「なんなのよ、もう。あんたの事も煉獄さんに言いつけて「そこまで」
他の隊士にまで当たり始めた彼女に、流石に鈴も静止に入る。
「私のことは好きに言って貰っても構わないけど、これから任務なのよ?そろそろ気を引き締めないと、痛い目を見るのはこっちよ?今回仲間が大勢いるとはいえ、追い詰められた時に、助けが入るとは限らないでしょ?」
「そんな事、言われなくても分かってる」
「そう、なら大丈夫ね?」
そう言ってニコリと笑った鈴は、他の隊士達にも騒いですまなかったと頭を下げた。
それには、頭に血が上っていた彼女も、漸く周りの視線に気づいたようだが、謝るつもりはないようで、ふんっと鼻息を鳴らしている。
〝随分嫌われたものだな……〟
そんな彼女を眺め、自傷じみた笑みを漏らした鈴は、彼女に向かって口を開く。
「それから、貴方がもし煉獄さんを慕っているのなら、彼を脅し文句として使うのは止したほうがいい」
「なっ、…そんなつもりじゃっ、」
「なかった?本当に?」
「……っ、」
「貴方がどれだけ煉獄さんを想っているかは、充分伝わったわ?それに、安心して?私が彼に見合わないことなんて当に気づいるから……」
そう言って目を伏せた鈴を視界に捉え、彼女はみるみる顔を赤くしていった。
「あんたに説教なんてされたくない!!……それに、鬼を斬るのだって自分で出来るんだから!!」
そう言ってズカズカと歩き出した彼女の背中を見つめ、鈴は大きなため息を落とすのだった。