番外編
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藤の花の家紋を掲げる家は、その昔鬼狩りに命を救われた一族だそうだ。
そのため鬼狩りであれば誰にでも、親切に食事や寝床の世話をしてくれる。
怪我を負えば医者も呼んでくれるし、依頼をすれば任務に必要な物品の提供までしてくれる。
鬼殺隊を支える影の功労者と言っても過言ではないだろう。
勿論、藤の花の家で生まれ育った茜はそのことを誰よりも理解しているし、いつも鬼殺隊を支えてくれる彼らには十二分にだって感謝している。
しているのだけれどー……、
「不死川様、この度は助けて頂きありがとうございました」
「……別に、俺は大した事してねェがなァ」
実弥に礼を言いながら分かりやすく頬を赤く染めた藤の家の少女に、茜は不貞腐れたようにそっぽを向く。
〝……私だって、あなたを助けたんですけどね〟
それから心の中で悪態をつくと、人知れず小さくため息を吐いた。
******
あれは、時を遡ること数時間前ー……
任務を終えた茜達の元へ、一羽の鎹鴉が降り立ったことから始まった。
「風柱ニ応援要請!!此処カラ西ノ町デ、鬼ノ被害ガ発生!直チニ迎エ!」
見覚えのない鴉は他の隊士の相棒のようで……。
鴉に応援要請を託すほど、緊急を要する状況に陥っているのかと、二人は瞬時に西へ向かって駆け出した。
そうして彼らがたどり着いた先は、深い木々に覆われた山の中でー……。
カァ、と一鳴きした鴉は、岩場にひっそりと佇む小さな洞窟に向かって羽を広げた。
「……ここかァ。狭そうだな、こりゃァァ」
「そうですね。人、一人がやっとでしょうか」
刀を振るのも困難だろう穴を二人で一緒に覗きこむが、その先は暗闇が広がるばかり。
この中で戦うとなれば、此方が不利であるのは間違いない。
……となれば、稀血の力を使って鬼を誘き寄せる方法が一番最適だと判断した実弥は、自身の腕に刃を当てがうが、直様隣から待ったが掛かる。
「実弥さん、私が行きます」
「はァァ、お前なァァ……」
「なんです?稀血にばかり頼ってる人にどうこう言われたくないですけど……」
「ア"?のこのこ餌になりに行く奴よりましだろうがァァ…」
いつもの言い争いが始まる前に、自分は小柄だし、柱と柱の間を掻い潜る稽古を伊黒さんからつけて貰った事もあるからと、茜は彼に説明する。
「チッ、しょうがねェなァァ…お前が行くなら、俺も「いえ!実弥さんは此処に残って下さい」
それを不満に思った実弥から声がかかるが、茜はそれすら遮って苦笑いで言葉を続けた。
「鬼の巣穴なら他に抜け穴があってもおかしくない。人質がいるかもしれない今、戦力は分散した方がいいでしょう?」
「そりゃァ、そうかもしれねェが……」
「私なら大丈夫ですよ。それに、洞窟の中だけが危険とは限らないんです。実弥さんの方こそ、油断して怪我したりしないでくださいね」
「はっ、誰に言ってやがる」
その言葉を鼻で笑い飛ばした実弥だが、その目はまだ判断に迷っているようで。
もう一度念押しで大丈夫だと伝えた茜は、くるりと背を向け歩き出す。
勿論静止する声も聞こえたが、それには片手を振り返し、ずんずん洞窟へと足を進めていく。
「……チッ、怪我したら承知しねェからなァァ」
「ふふっ、了解です」
洞窟に足を踏み入れる直前、最後にボソリと呟かれたその言葉に、茜は思わず笑みを溢す。
それからチラリと実弥へ目配せをすると、今度こそ鬼の巣穴へと足を踏み入れた。
******
洞窟の中は薄暗く、迷路のような造りをしていた。
普段闇夜で戦う茜ですら、手探りで道を進むような状態で。
流石にこれ程の暗闇で突然の奇襲があれば、こちらが不利である事は明らかだ。
できる限り息を押し殺し、壁伝いに奥を目指す。
そうして暫く進んだ先ー……
天井の隙間からぼんやりと明かりが照らす、開けた空間へとやって来た。
その明かりに茜は安心したように息を吐く。
しかし、そんな彼女の背後に怪しい影が近づいていた。
「……また、鬼狩りか?何人来ようと同じだぜ?」
その声に咄嗟に刀を構えた茜は、背後に迫る鬼の姿に顔を顰めた。
「うげぇ、
「ちがっ、俺たちは
「……俺たち?」
此方を見上げる鬼の姿は幼児程の大きさしかないが、辺りを伺えば知らぬまに同じ姿をした鬼達に囲まれていた。
〝……ざっと二十体……こんなに囲まれるまで気配を感じられないなんて……コイツらの血鬼術だろうか?それともコイツらは分身で……〟
考えを巡らせる茜に対し、鬼達は勝利を確信めいているかのような会話を口にする。
「俺たちの顎は強力だからな」
「ああ、さっき来た隊士も一瞬だったじゃないか!俺たちに敵う奴なんている訳ない」
「はははっ、それはそうだろう!あ、お前も安心しろよ!粘液で体をぐるぐる巻きにしたら、さっきの鬼狩りのように女王様の元へ運んでやるから!」
ジリジリと距離を詰める鬼達に対し、茜はふむ、と頷いた。
数で圧倒しているからと些か油断しすぎではないだろうか。
自分達の能力のみならず、仲間の居場所、……ましてや本体が別にいる事まで教えてくれるとは。
余りにも間抜けな鬼達に、茜は小さく笑みを溢す。
「風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風!!」
それから、勢いよくその場を飛び上がると、驚く鬼達には目もくれず、天井へと刀を振り抜いた。
その衝撃で天井は崩れ落ち土煙が辺りを包むが……
「有益な情報をありがとう」
「「「なっ、!!」」」
ぽっかり空いた穴からは、月明かりが差し込んでいて。
漸く身構えた鬼達の様子を捉えながら、茜は再び刀を振り抜いた。
「じゃあ、その女王様とやらに会いに行かせて貰おうかな!!」
******
ドカーッン、と鳴り響いた衝撃音に、実弥は思わず足を止める。
「…‥ 茜の奴、本当に大丈夫だろうなァァ」
茜に言われた通り、岩場を中心に自身も入れそうな抜け穴を探していた実弥は、眉間に深い皺を寄せるとボソリと一言呟いた。