第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
戦いから一時離脱した茜は、柱の後ろに身を隠すとすぐ様懐から救急道具を取り出した。
「実弥さん、傷を見せて下さい」
そんな彼女の隣で荒い呼吸を繰り返していた実弥は、自身で傷の手当てをしようとしていた手を止める。
いつもなら傷の手当てなど他人に頼むことはまずないが、気を緩めれば今にも臓物が飛び出そうなほどの深い傷。
それに加え、黒死牟の相手を悲鳴嶼一人にさせているこの状況は、あまりにもこちらの分が悪い。
一刻も早く戦いに戻らなければいけない判断をした実弥は、茜の提案を素直に受け入れた。
「……あァ、頼む」
「はい。少し痛みますが、我慢してください」
それにほっと息を吐いた茜は、手際よく傷口を縫い合わせていく。
そうして最後の傷口を処置した所で、戸惑いながら口を開いた。
「実弥さん、すみません。私のせいで……」
「あ?」
「だって……私を庇わなければこの傷は負わなかった筈……玄弥くんだって……「茜」
そんな茜の言葉を遮った実弥は、スッと目を細めると落ち着いた口調で彼女を諭す。
「反省は戦いが終わってからにしろォ。あの鬼をぶっ倒すには、気ィ締めていかねェと」
「……はい」
「俺たち全員でアイツを叩く。勿論茜の力も重要になるがァ……行けるか?」
「すみません……弱音を吐きましたがもう大丈夫です」
「あァ、頼りにしてる。手当てありがとな」
そう言って袷を正した実弥は、茜の傷の程度を確認し口角を上げる。
先程まで出血していた腹の傷も、彼女はこの時間を利用して呼吸で完璧に止血を施している。
珍しく弱音を口にはしているが、先程までの戦闘だって相手が茜だからこそ、こちらも好き勝手に大技を繰り出せていたのだ。
「お前が謝る事は何もねェよ。それに、玄弥も……アイツは俺の弟だァ。俺に似て頑丈だから、アイツはきっと助かる」
茜の頭に手を置いて優しく声を掛けた実弥は、それだけ言い残し柱から飛び出して行ってしまった。
その場に残された茜はというと、はっきりと〝弟〟と口にした実弥に一瞬呆気にとられる。
しかし、そうこうしてる間に、どんどん遠ざかっていく殺の文字に気づき我に帰る。
「しっかりしろ槙野茜!!」
それから喝を入れるようにペチンと両頬を叩いた茜は、迷う事なくその背を追いかけ駆け出した。
******
茜が実弥に追いついた時には、彼は既に黒死牟へと斬りかかっていて。
その頬には先程までなかった痣が浮かび上がっていた。
「今の世代の柱殆どが痣者か…」
黒死牟が口にした言葉にハッと悲鳴嶼を確認すれば、彼にも同じく痣が出現している。
『……力を手に入れる代わり、痣を出した者は皆、短命になるそうだ。恐らく二十五までも生きられない』
以前伊黒からその副作用を知らされていた茜は、彼らの覚悟を理解して刀をキツく握り直す。
そうして鬼へと斬りかかれば、実弥はその思いを感じ取ったように口端を吊り上げる。
「柱稽古しといて良かったなァァ、悲鳴嶼さんよォ」
「うむ」
その言葉通り、阿吽の呼吸で繰り出される二人の攻撃は確実に黒死牟の頸を狙い放たれていく。
空中で身を翻しながら派手な大技を繰り出す実弥と、鉄球と手斧の攻撃をまるで自分の手足のように完璧に使いこなす悲鳴嶼の攻撃。
先程よりも速さを増した二人の動きに、茜も必死で食らいついていく。
そして、その猛攻で鬼の片耳は中を舞い、纏っていた服をも斬り裂いた。
「まだだ!!畳み掛けろ!!」
「頸を、頸を斬るまでは!!頸をっ!!」
この機を逃す訳にはいかないと、二人の声に背中を押されながら茜が足を踏み出せば……
「……そうだ、その通りだ」
やけに冷静な黒死牟の一言が耳に届き、次の瞬間、体に激痛が駆け巡った。
〝っ、…何が起きた?鬼は一体何をした?大体こんな間合いで攻撃が届く筈は……っ〟
この一瞬で何が起きたのか理解できずにいた茜だが、黒死牟の姿を捉えて息を呑む。
「着物を裂かれた程度では……赤子でも死なぬ……
貴様ら
先程とはまるで違う形へと変貌を遂げた刀。
長く伸びた刀身には、左右に枝分かれするように刃が加わり、鬼の攻撃範囲の拡大を意味していた。
それを理解したのとほぼ同時。
茜の左肩からは血が溢れ出し、傷口はどくどくと脈を打ち始める。
ただでさえ手練れの二人についていくのがやっとな戦い。
鬼からも主戦力として数えられていないこの状況で、更に傷を増やしては足手纏いでしかない。
「不死川!槙野!」
悲鳴嶼に声をかけられて、ふらつく足に力を込める。
そうして実弥の様子を盗み見れば、あろうことか彼は指を数本失っていた。
痛みに顔を歪める姿に、思わず駆け寄りたくなるが茜はぐっと踏みとどまる。
主戦力として見なされていないからこそ、恐らくこの程度の傷で済んだのだ。
でなければ、反応すらできなかった自分に、今、命があるのは不自然で。
必死で考えを巡らせた茜は、ハッと顔を上げ呟いた。
「……奴の隙を掻い潜り、近寄る事ができれば」
この戦いでの自分の役割を認識した茜は、大きく息を吸い込んで迷わず鬼へと駆け出した。