第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
庭で一人、実弥が鍛錬をこなしていると、背後から声が掛かる。
「実弥さん、この後用事を済ませたらそのまま無一郎君との稽古に行ってきます。帰りも遅くなると思いますので、今日はそのまま夜の警備に当たります。実弥さんも、確か…冨岡さんと稽古の予定でしたよね?」
「あァ……、俺もそのまま夜の警備に就く予定だったから、こっちの事は気にしなくていい」
その呼びかけに振り向いた実弥は、手にした刀をそっと下ろし、茜の頭へと手を伸ばす。
「それより、気をつけて行って来いよォ。あんまり時透に迷惑かけんじゃねェぞ」
「……迷惑なんてかけませんよ」
それに頬を赤らめながら茜が返事を返すと、実弥はくくっと喉を鳴らした。
「それじゃあ、行ってきます」
******
近頃、隊士達への稽古もひと段落ついた柱達は、頻繁に柱同士で連携を取る為の手合わせが行えるようになった。
それは勿論茜にとっても同様の話で、今日もこの後霞柱邸で無一郎との稽古を控えている。
そんな多忙な日々の中、茜は時折時間を見つけては玄弥の元を訪れている。
今日だって、少し時間が空いたからと早めに風柱邸を出発した茜は、玄弥の鍛錬に付き合うべく山奥までわざわざ足を運んでいた。
「え?じゃあ、この後屋敷へは戻らないんすか?」
「そうだね。私は無一郎君との稽古があるし……実弥さんも今日は冨岡さんと稽古があるみたいだから、お互い帰るのは夜の警備が終わってからじゃないかな」
「た、大変なんすね……」
「大変……?って言うより、忙しい柱達と手合わせをこんなに頻繁に出来るなんて、とっても凄いことなんだから!」
「は、はあ……」
「ん?その顔は分かってないな?」
そう言って、この後行われるであろう無一郎との稽古について話し始めた茜は、彼の技術が如何に凄いかを熱弁し始める。
それには玄弥もたじたじで思わず苦笑いを浮かべてしまうが、同時に彼女もまた兄に並ぶ実力の持ち主だった事を思い出す。
普段から底抜けに明るくて誰とでもすぐ打ち解ける性格にふと忘れかけてしまいがちだが、風柱邸での乱闘騒ぎで唯一兄を制したのは彼女だったではないか、と……。
こうして数ヶ月、鬼の被害が出ないまま平穏な日常を送っているからこそ忘れてしまいがちだが、いつ戦いが始まるか分からない今だからこそ、兄も彼女も忙しなく鍛錬を積んでいるのだろう。
「……兄ちゃんの側に茜さんがいてくれるなら安心だな」
「え?なんか言った?」
「……いや、なんでもないっすよ」
〝優しくて強い茜さんが兄ちゃんの側にいてくれるのは安心だけど……側で支える事が出来る茜さんが羨ましい、なんてな……〟
茜に嫉妬してしまう気持ちは勿論あるが、それでも、なんでも一人でこなしてしまう兄の隣に優しい彼女がついていてくれる事が嬉しくて……
「そう?……それより今度来る時までにもっと強くなっておくから、玄弥君も私に負けないように力をつけておいてね!」
「ははっ、…了解です」
にこにこと笑う茜を眺めていた玄弥は、その笑顔に毒気を抜かれた様に小さく笑みを溢すのだった。
******
その後、普段通り無一郎との手合わせを終えた茜は予定通り、夜の警備に向かっていた。
いつもと同じ静かな道ー…
鬼の被害が出なくなってからというもの、誰かの悲鳴が鳴り響く事もなくなった町は、静寂に包まれている。
それはまるで嵐の前の静けさのようで不気味にも思えてしまう程。
「……これだけは幾ら鍛錬を積んでも慣れないな」
ぽつりと独り言を呟いて、茜は思わず苦笑いを溢した。
ー……カサ、
だが、ふいに誰かに見られている様な視線を感じ、茜はピタリと歩みを止めた。
そのまま辺りを見回すが特段変わった様子はない。
…‥思い違いか?
何処か引っ掛かりを感じるものの、いつ始まるか分からない戦いを前に考えすぎか…と自分に言い聞かせ、茜は小さくため息を吐いた。
しかし、その瞬間ー……
静寂を切り裂くようにバサリと聞こえた羽の音。
咄嗟に顔を上げた茜の元に、飛び込んできた
『緊急招集ーッ!緊急招集ーッ!産屋敷邸襲撃ッ……産屋敷亭襲撃ィ!!』
「なっ、!?」
その言葉を聞いた瞬間、茜は弾かれるようにして駆け出した。
お館様は無惨に狙われる存在だという事、それなのに護衛をつけていない事を柱達も皆、危惧していたというのに……
最悪の状況を想像して、拳を強く握り締める。
〝……早く、早くっ〟
一刻も早く辿り着くため、呼吸を使い全速力で駆け抜ける。そうして本部の屋根を視界に捉えた瞬間……
ドォーーンッ
「っ、……そんな……」
無情にも激しい爆発音と共に、立ち待ち屋敷は炎に包まれた。