第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
優しく笑う茜を直視できず、玄弥は視線を逸らすように俯いた。
彼女が自分を心配してくれている事も分かっているが、鬼を喰べなくなったら何が残るのだろうと玄弥は拳を握りしめる。
そんな玄弥の様子に気づいた茜は困ったように眉を下げると、優しく努めて声をかけた。
「ありがとう、玄弥君」
「いや、俺は……何も……」
そう言葉を濁した玄弥は、同時に鬼喰いを知った兄の表情を思い出す。
数年振りに顔を合わせたのだから驚かれる事は覚悟していたが、あんなに辛そうな顔をするなんて思ってもみなかった。
兄に会う事だけを考えて…出来るなら、また兄の側で今度こそ支えられるようにと強さだけを求めてきたが、結局あの日のことさえ謝れなかった……
そこまで考えて、ふとあれから何も話してこない茜に気づき顔を上げた玄弥は、優しく眉を下げる彼女に驚き動きを止めた。
「君たち兄弟は本当にそっくりだね」
「……え」
「何でも一人で抱え込んで……君には沢山仲間がいるじゃない。時には仲間を頼ったっていいんだよ?」
そう言って笑みを落とした茜は、全く…なんて憎まれ口を叩いた後、いつでも力になるからと笑いかける。
そんな茜の優しさに触れて、玄弥も無意識に口元を吊り上げるとポツリと小さく呟いた。
「茜さんって、少し変わってますね」
「え!?そうかな!?」
初めて刀鍛冶の里で出会った時もそうだったが、彼女は明るくて面倒見の良い人なのだろう。
それに、本人達から直接聞いた訳ではないが、彼女の話を聞いていて何となく気づいた事がある。
恐らく彼女は兄を慕っていて、きっと兄も彼女を大切にしている。
鼻のいい炭治郎も「二人からは互いを想い合う優しい匂いがする」と言っていたから、恐らく間違いではないだろう。
他の人を思って行動できる優しい彼女だからこそ、兄はきっとこの人に惹かれたのだ。
うんうん、と一人で納得して頷いていれば、そんなに変わっているかな…?なんて、目の前でオロオロとし始めた茜に、思わずクスッと笑みをこぼす。
「すんません、笑ってしまって……俺の為にこんなに親身になってくれる人中々いないので嬉しくて……槙野さん、色々とありがとうございます」
「……へ?」
「それに兄ちゃんの隣に槙野さんがいてくれて本当に良かったです。これからも兄ちゃんを宜しくお願いします」
そう言って頭を下げれば、茜は突然の行動にキョトンとした表情を浮かべた後、その意味を理解して頬を赤く染める。
「そんな、宜しくだなんてっ、…いつも支えて貰っているのは私の方だもの」
「俺にはそんな風に見えなかったっすけど……」
そんな彼女の様子に玄弥は、荒れ狂う兄を鎮めた先日の茜を思い浮かべ笑みを落とす。
他の隊士が投げ飛ばされる中、唯一彼女だけが兄の攻撃を受け流し冷静になれと声を荒げていた。
その勇ましい姿は今でもしっかり覚えている。
兄の為に身を挺してくれた事も、兄を心配してすぐに後を追ってくれた事も……
兄を想い、側にいてくれる彼女には感謝しかないのだ。
しかし、ふと刀鍛冶の里で茜が口にしてた事を思い出す。
『実弥さんと喧嘩してるなら、私が玄弥君の味方になってあげる!…‥と言っても、今、私が家出中みたいなものだけどね』
……彼女と対峙した瞬間、戸惑いを隠せなかった兄だ。
彼女が家を飛び出した時の衝撃は凄まじかっただろう。
「そう言えば、槙野さんはもう家に戻られたんすよね?」
「……?」
「前に家出がどうのって話をされていたので気になっちゃって。兄ちゃんが困ると思うんで、家出はほどほどにして下さい」
「げ、玄弥君〜……」
あの勇ましさは何処へやら。
真っ赤な顔で弱々しい声を上げる茜の姿に、玄弥は盛大に吹き出すのだった。
******
その後、玄弥とたわいもない話で盛り上がった茜は、当初の思惑通り悲鳴嶼と一対一の打ち込み稽古を交わして帰路についた。
「実弥さん、ただいま戻りました」
「おう。……どうだったァ、悲鳴嶼さんとの稽古はァ?」
「どうって言われても……いつものことながら、攻撃を受け流すので手一杯ですよ。流石は悲鳴嶼さんです」
その報告に耳を傾けながら、ふ〜ん……と興味なさそうに返事を返す実弥を茜はじっと見つめて首を傾げる。
「気になりますか?」
「ア?……なんの話だァ」
その問いかけにピクリと反応した実弥に、茜はくすりと笑みを落とす。
「玄弥君も頑張っていましたよ」
「……」
「悲鳴嶼さんも褒めていました」
「………そうかァ」
まるでお見通しだとでも言わん茜の言葉に、実弥は思わず苦笑いを浮かべるのだった。