第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
風柱邸で乱闘騒ぎが起きてから三日後ー……
茜は再び悲鳴嶼の
「悲鳴嶼さん、今日は口裏を合わせて貰ってありがとうございます」
「大した事ではない。それより不死川は大丈夫だったのか?」
「はい。実弥さんは……まあ、いつも通りです」
修行中の隊士達を眺めながら苦笑を浮かべる茜だが、今回は悲鳴嶼に稽古をつけて貰いにきた訳ではない。
まぁ、あわよくば手合わせを…とは考えているが、つい先日、茜は大岩運びを終えて悲鳴嶼から合格を言い渡されたばかりなのだ。
「あ、いたいた!玄弥くーん!」
そんな彼女は本来の目的でもあった隊士を見つけると、悲鳴嶼に礼を言い、ぶんぶんと大きく腕を振りながら笑顔で玄弥に駆け寄った。
「槙野さん、わざわざすんません……」
「そんな、全然気にしないで?というより、玄弥君こそ稽古で忙しいのに、時間を作ってくれてありがとう」
「……うす」
そんな彼女に対して、事前に鴉でやり取りをしいたと言うのに玄弥は律儀に頭を下げる。
それにクスクスと笑みを落とした茜は、こういう素直な所は是非見習って欲しいものだと、彼の兄を思い浮かべた。
因みに、今回は柱同士の稽古と銘打って屋敷を抜け出して来たわけだが、本当の目的を言ってあの兄弟子が素直に送り出してくれたかは不明である。
先日の一件の際に、彼に成り代わって玄弥を甘やかす等と公言はしていたが、実際あれから然程日も経っていないし、気持ちの整理には時間がかかるものだ。
実弥にこれ以上余計な心配をかけたくないというのが、茜の正直な気持ちである。
それに最近では隊士達の稽古の合間を見計らい、柱同士の手合わせも頻繁に行われている。
それは柱補佐の茜にも当て嵌まる話で……
痣うんぬんの話は、結局実弥から許しを貰う事がないまま今日まで来てしまったが、柱達との稽古に関しては特段何も言われなくなった為、こうして堂々と悲鳴嶼の許に来れたのだ。
「実弥さんに殴られたところ、まだ痛んだりする?」
「いえ、……大丈夫です」
先日の乱闘騒ぎを思い出し肩を落とす玄弥に、茜は優しく笑いかけると、近くにあった大きな岩へと腰掛けた。
それに習い玄弥もその近くへ腰を下ろしたのを確認すると、茜は言葉を選ぶように静かに口を開いた。
「鴉から聞いてると思うけど、今日は玄弥君と話をしたくて」
「……はい」
「実弥さんの事、悪く思わないでほしいの……玄弥君のこと凄い気にしてた。俺を追って、玄弥まで隊士になるなんてって……本当は玄弥君が何よりも大切なのね」
その言葉に玄弥は何も返答できず、ただ俯いて拳を握る。
あの日、命をかけて守ってくれた兄ちゃんに俺はひどい言葉を浴びせた。嫌われる程の事をしてしまったのだ。
それなのに、彼女は兄ちゃんが今でも俺の事を思っているような……まるで俺が隊士になったことすらも自分の責任だと感じているような言い方をしている。
兄ちゃんにあの日の事を謝りたくて……
兄ちゃんを今度こそ支えられる弟になりたくて努力してきたのに……
茜の話を聞いて、玄弥は自分の無力さを思い知り、打ちひしがれていた。
しかし、そんな玄弥の心境を分かっているかのように、茜は…でもね?と言葉を続けた。
「どんなに玄弥君を思っていたって、無理矢理鬼殺隊を追い出そうとするのは良くないと思うの。結果、沢山の隊士が犠牲を被ったわけだし」
「あ、はい…すんません」
「ん?ああ、玄弥君を責めてるわけじゃなくて……ほら、不器用すぎる実弥さんにも原因があるのかなって事!」
「は、はぁ……」
段々と彼女が言おうとしている事が分からなくなってきて、玄弥は困ったように眉を下げる。
「要はもっと話し合うべきだと思うんだけど、……ほら、実弥さんは言い出すと聞かないでしょ?自分を犠牲にしてまでなんでも一人で抱え込んで……柱だか何だか知らないけど、こっちの心配も考えて欲しいよね?」
「え、えっと……」
そう言って語尾を荒げた茜は、戸惑う玄弥を前に、感情が入りすぎてしまったと苦笑いをする。
それから自分を落ちつかせるように一つ咳払いをすると、真剣な表情で玄弥へと問いかける。
「刀鍛冶の里で私は気を失っていたから、玄弥君がどんな戦い方をしていたのかは知らないんだけど……実弥さんが言ってた〝鬼を喰べる〟っていうのは本当?」
「それ、は……」
じっと見つめてくる茜にこれ以上隠し通す事は不可能だと観念した玄弥は、自分が上手く呼吸を使えない事。それどころか日輪刀の色すら変わらなかった事を話し始めた。
その戦い方はかなり特殊で、普段は日輪刀と南蛮銃を使用している事。それでも、倒せない敵に至っては鬼の力を逆に利用していたと打ち明けた。
「だから俺には鬼を喰べることしか……っ、」
「本当にそうなのかな?」
だが、深刻な話だと言うのに茜は不思議そうに首を傾げていて……
悔しそうに顔を歪めていた玄弥も、思わずキョトンとしてしまう。
その様子に、茜は小さく笑みを溢すと、彼が思いもしなかった言葉を口にする。
「悲鳴嶼さんに聞いたの。玄弥君は修行を積んで反復動作を習得したんだよね?それに、こうして厳しい柱稽古もこなして来た訳でしょう」
「……はい」
「それは確実に君の身になってるし、今までよりもずっと強くなった筈よ?自信を持って」
劣等感を抱えていた玄弥は、その言葉にハッとする。
しかし、真剣に此方を見つめる瞳に気づき、思わず小さく息を呑んだ。
「その上で聞いてね?……玄弥君のこれまでの努力を否定するつもりはないけど、私もその戦い方には賛成できない。……実際、鬼を喰べる事が玄弥君の身体にどんな影響を及ぼすかなんて、誰にも分からないでしょう?」
「……でも、」
「玄弥君。君が実弥さんを思うように、実弥さんも君を大切に思ってる。だからこそ、危険が伴う戦い方をしてる玄弥君を放っておくことは出来なかったんじゃないかな」
完全に口を閉ざしてしまった玄弥に、茜は困ったように眉を下げると、出来るだけ優しい声色で言葉を紡ぐ。
「玄弥君は私にとっても大切な仲間なの。勿論危険には晒したくないし、これ以上実弥さんが傷つくところも見たくはない」
「……」
「だからお願い。これから先、鬼を喰べる戦い方だけはしないと約束して?」
まるで自分の事のように真剣に向き合ってくれる茜の姿に、玄弥は何も口にする事が出来ず俯いた。
その瞬間、先日の怒った兄の顔が脳裏に過り、くしゃりと顔を歪めると……
「ありがとう、玄弥君」
拳を握りしめながら小さく頷く玄弥の姿に、茜は安心したように、ほっと息を吐くのだった。