第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ちゅんちゅんと聞こえ始めた小鳥達の囀りに、茜の意識はゆっくりと浮上する。
〝朝の稽古が始まる前に、朝飯の支度をしないと……〟
だが頭では分かっているものの、体はまだ眠っていたいと訴える。
肌寒い季節は布団から抜け出すのにどうしても苦労するものである。
「ん〜…もうちょっとだけ……」
「くくっ、」
だが、無意識に温もりを求めて体を動かせば、すぐ近くから聞こえた笑い声に茜はピクリと反応する。
独り言を呟いた筈が、何故近くから声がするのか。
それにこの温もりの正体は何なのか。
その疑問を確かめるべく恐る恐る瞳を開いて、茜の意識は急速に覚醒した。
「なんだ?まだ寝るんじゃねェのかァ」
「な、な、なっ…!」
なんで!?と続くはずの言葉が出ないほど、彼女の頭は混乱していた。
なんで同じ布団で寝ているのか。
いや、そんなことより先程まで実弥さんの胸元に擦り寄って暖を取っていたのか、私……
オロオロと慌て始めた茜に、実弥は優しく眉を下げるとその頬へと手を伸ばす。
「それだけ元気なら心配いらないかもしれねェが……体は平気か?昨日は無理をさせちまったからなァ」
「……へ?」
肩肘をついて此方を見つめる実弥と見つめ合うこと数秒ー……
眠りに落ちる前の出来事を思い出し、茜の顔は一瞬で赤く染まる。
確かに柱稽古でクタクタな上、あの乱闘騒ぎと夜の警備で体は疲れ果てていた。
疲れ果てていたが、まさかあの流れで寝てしまうなんて……
無意識に身なりを確認すれば、きちんと寝巻きに身を包んでいて。
あの後実弥が後処理までしてくれた事を理解して、茜は更に頭を悩ませた。
〝心配して様子を見に来たくせに、実弥さんに世話を焼かせてどうするのよ……〟
耳まで赤く染まったかと思えば、今度は青褪めながら頭を抱え始めた茜に、実弥は小さく笑みを溢す。
一人で百面相する彼女の考えがなんなとく分かってしまうのは、長い付き合いだからこそ。
そんな事気にしなくていいと伝えるように、そっと抱き寄せ背中にポンポンと手を置いた。
「昨日はそばに居てくれてありがとなァ」
「え、…いや…その……」
「茜のおかげで、ぐっすり眠ることも出来たしなァ」
そう言って彼女をゆっくり離すと、実弥は布団から起き上がる。
「どうせ隊士達の稽古には付き合ってくれるんだろ?今日くらい、朝飯の支度はいいからゆっくり寝てろォ」
そう言って優しく目尻を下げた実弥は、固まる茜を置き去りに一人部屋から出て行った。
その背中を呆然と見送った茜は布団を頭まで被り直す。
「…うう〜……不甲斐なし」
高鳴った心臓が落ち着くまでは布団から出られそうもないし、今日は稽古に集中出来るかすら分からない。
赤く染まった頬を隠しながら、茜は小さくため息を漏らした。
******
それから数時間後ー……
「オラ!!いつまで寝転んでやがる!!死にてェのかァァ!!」
「「「ぎゃぁぁっ!!」」」
今日も今日とて、風柱邸には隊士達の悲痛な叫び声が響き渡っていた。
その傍らで怪我を負った隊士達の世話を焼く茜は、チラリと実弥を盗み見る。
何人もの隊士が彼へと挑んでは薙ぎ倒され、また立ち上がっては投げ飛ばされる。
その度隊士達に怒号を飛ばす実弥の姿は、まさに鬼のようではあるが……
やはり惚れた弱みとでも言うのだろうか。
そんな姿ですら、男らしくて格好いいと思ってしまうのだから恋とは凄いものである。
そんな事を考えながら稽古の風景を眺めていれば、突然此方へと振り向いた実弥と視線がぶつかり合う。
その瞬間、思わず今朝のやり取りを思い出し茜はドキッと肩を揺らす。
それに対して実弥は何故だか不満そうにムッと眉間に皺を寄せると、オイ!と声を張り上げた。
「テメェはいつまで休んでやがる」
「す、すみません!!」
「茜もコイツらを甘やかすんじゃねェ」
そう言ってプイッと逸らされた視線に、茜はしゅんと肩を落とす。
まるで浮ついている自分の考えを見透かしていたかのようなタイミングに〝まだ柱稽古真っ只中なのだからしっかりしなきゃ〟と茜は自分に喝を入れる。
しかし、実際のところ実弥の本音は全く別のところにあった。
「……チッ、さっきからあの野郎ォ……茜にくっつき過ぎなんだよ」
ぶつぶつと恨み言を呟きながら鬼の形相を浮かべる彼が、まさか介抱されている隊士達に嫉妬しているだなんて、茜は気づきもしないのだった。