第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
隊士を鍛える余裕が出来たとは言え、柱やその補佐を任されている茜達には、毎晩担当地区の警備がある。
それは例え、激しい柱稽古の後だろうが……はたまた怪我人を出す程の乱闘騒ぎを起こしていようが関係はないのだ。
「……あ、もう帰って来てる」
夜の警備を終わらせて、風柱邸へと漸く足を踏み入れた茜は、玄関に綺麗に揃えられた履き物を見て安心したように一息吐いた。
思えば、悲鳴嶼さんの稽古を終え、三日ぶりに帰宅して直ぐにあの騒ぎ……
慌ただしい一日だったと苦笑いを浮かべながら、その隣に自分の草履も並べて置く。
こうしてひと段落着くと、何だかどっと疲れが湧いて来て、今すぐにでも横になりたい体に喝を入れ急いで自室へと向かう。
その途中、風呂場が暗いのを確認し、これ幸いと眠気が襲う前に風呂場へと急いだ。
******
手早く湯浴みを済ませ、行儀は悪いが濡れた髪を適当に手拭いで拭いながら茜は足早に廊下を進んでいた。
だが、そんな時、ふと昼間見た実弥の表情が脳裏に過ぎる。
初めて聞かされた彼の過去。
家族を守れなかったと話す彼は、辛そうに顔を歪めていて……その表情を思い出すと、急いでいた筈の歩みも自ずと止まる。
「……実弥さんはもう寝たのかな」
普段ならば、帰宅する旨を鴉を通じて伝えることはあっても、わざわざこの時間に顔を出す事はない。
警備後ということもあり時刻は当に日を跨いでしまっているし、そもそも茜の部屋は、実弥の部屋とは真逆に位置している。
それはこの屋敷に迎え入れられた時、年頃の娘なのだからと、半ば強引に実弥が決めた事でもあるが、それもあって任務後に顔を合わす事は滅多にないのだ。
しかし口に出してしまえば、何だか心配になってくるというもの。
あの強がりな彼の事だから、もう平然と眠りについているかもしれないが、それならそれでいい。部屋の近くまで行って変わった様子がなければ戻って来ればいいだけの話だ。
そう思い立った茜は、くるりと向きを変え実弥の部屋を目指して静かに歩みを進め始めた。
だが、こういう時の勘というものは当たるもので、暫く進んだ先で目にした光景に茜は思わず苦笑いを浮かべた。
「まだ起きていたんですか?」
「あァ?……お前こそ、こんな時間にどうした?なんか急用でもあんのかァ?」
そう言って此方へと振り返った実弥の横顔を、月の灯りが静かに照らす。
縁側に腰掛ける彼の手にはお猪口が握られていて、珍しく一人で晩酌をしていた事を物語っている。
そして隣に置かれた酒瓶の一本が既に空に近い事を窺い見ると、困ったように笑みをこぼした。
「たまには一緒に呑むのもいいかなって」
「……お前が酒を呑んでる所なんて見た事ねェぞ?」
「え?そうですか?」
怪しむような視線を送る実弥を無視して、彼の隣へと腰掛ける。
そのまま彼の手元をじっと見つめれば、呆れたようにため息を吐かれる。
「一人で呑む予定だったから器はこれしかねェんだよ……ったく、それだけ呑んだらさっさと寝ろよォ」
そう言ってお猪口に酒を注ぎ直した実弥は、茜へそれを手渡すと視線を空へとそっと移す。
「今日は悪かったなァ、心配かけちまってよォ」
「……悪いと思うなら、こんな風に一人でやけ酒なんてしないで下さい。言ったでしょ?実弥さんが大切だから、好きでこうして側にいるんですよ?」
「……茜」
「いつでも弱音を吐いていいんですから」
悪戯に笑いながら、照れ隠しのように酒をぐいっと流し込んだ茜に、実弥はふっと口元を吊り上げる。
「そうだったなァ……お前がいてくれるなら百人力だな」
それから彼女の頭に腕を伸ばしそのまま顔を覗き込めば、慌てて視線を逸らされる。
しかし、その頬はほんのり赤くなっていて、恐らく酒の影響ではないだろう。
可愛らしい反応をする茜に、やさぐれていた心が満たされていくような感覚を覚える。
「茜?」
彼女の名前を優しく呼びながら、頬へと手を滑らすように移動させれば戸惑いながらも茜がゆっくりと顔を上げる。
そして至近距離で見つめ合う茜の瞳が、ゆっくりと閉ざされていくのを眺めながら、実弥は彼女へと口づけた。
触れるだけの口づけを何度か送り、その柔らかい唇を堪能する。
しかし、直ぐに焦ったくなってその唇に吸い付くように接吻を繰り返す。
「……実弥さっ、ん」
段々と深くなっていく口づけに堪らず茜が口を開けば、待っていましたと実弥は彼女の口内へと侵入する。
「……んっ、…」
歯列をなぞり、優しく舌を吸い上げれば、その刺激に茜がピクリと体を揺らす。
苦しそうに甘い息を漏らす茜だが、それでも遠慮がちに舌を絡ませてくる姿に、実弥は優しく目尻を下げた。
「大丈夫かァ?」
漸く離れていった唇に、茜は肩で大きく息を吸う。
初めて交わした彼との接吻は、優しくて、気持ち良くて、クラクラした。
そんな茜を気遣い優しく笑いかける実弥に、茜はこくりと頷くと、照れ隠しのように彼の胸元へと顔を埋める。
それに小さく笑みを浮かべた実弥が、茜に聞こえるくらいの小さな声で問いかける。
「茜、お前を抱きたいが……いいかァ?」
「………そんな事、言わせないでよ」
「ククッ……悪い、そうだよなァ……じゃあ、」
そう言って更にしがみついて来た茜に、実弥は耐えきれずに豪快に吹き出すと、そっと彼女を抱え上げ、うんと優しい声で囁いた。
「今から茜を抱くからな」