第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
実弥の隣に腰掛けて、茜は黙って彼の話に耳を傾ける。
育ての元で、出会ってから数年ー……。
共に死闘を潜り抜け、口喧嘩だって数えきれないほどして来た筈だ。
だけど、彼の心の傷に直接触れたのは初めての事で、彼が今までどれほどのものを背負って戦ってきたのかを思い知らされた。
玄弥のことだって、つい先日、たまたま訪れた刀鍛冶の里で知ったばかりで、それまで彼に兄弟がいる事自体知らなかったが……
彼が口にした弟への思いには、後悔や憤り、葛藤なども隠れていた。
だけど、そのどれもが弟を大切に思うからこその優しさだと知っている茜は、不器用すぎる実弥にのやり方に、困ったように眉を下げた。
「玄弥君が大切だと伝えてあげればいいのに……」
「んな事出来るかよォ……アイツは真面目な性格だからなァ。隊士として認めちまえば、兄貴を支えるとかなんとか、言いかねねェだろ」
「だからって、乱闘騒ぎは良くないけど……」
困ったように笑いながら、その場にゆっくりと立ち上がった茜は、実弥を見下ろし優しく眉を下げた。
「実弥さんが素直になれないなら、私が代わりに玄弥君の力になるよ」
「…… 茜」
「実弥さんの大切な弟だもん。うんと甘やかしちゃうんだから!」
そう言って、悪戯な笑みを浮かべた茜に、実弥は弱々しく眉を下げ、最後にポツリと呟いた。
「……ありがとなァ」
「ふふっ、任せてよ!」
******
その後、ひとまず隊士達の元へと戻る事を告げた茜は、実弥と別れ、その足で庭までやって来ていた。
「皆んなごめんね?とりあえず、また明日から稽古は仕切り直すだろうから……今日は体をゆっくり休めて明日からの稽古に備えて欲しい」
隊士達に、一旦帰宅するように伝えながら、茜はぐるりと辺りを見渡した。
当然、彼方此方で怪我を負っている隊士はいるものの、先程と比べれば、随分と落ち着きを取り戻した様子の隊士達に、茜はほっと肩を撫で下ろす。
そんな茜の元へ、バサリと羽を鳴らしながらタイミングよく実弥の鴉が近づいて来た。
『伝令!伝令!直チニ騒ギヲ鎮メ、怪我人ノ治療ニ当タレ……』
どうやら鎹鴉は、この乱闘騒ぎを本部へ報告して戻って来たようだ。
茜に指示を飛ばすと、数名の隊士を名指しして罰則を伝え始めた。
と言っても、乱闘騒ぎを起こした張本人……実弥と炭治郎に接触禁止が言い渡されたのと、その原因を作った玄弥にも、これ以上実弥からの稽古はなしという判断が下されたのみだが。
その知らせに一人……眉間に皺を寄せ不満そうに鴉を見つめる隊士に、茜は思わず苦笑いを浮かべた。
「……玄弥君」
結局、茜が実弥の思いを知ったところで、兄を思うが故に隊士にまでなった玄弥を咎める事など出来るはずもなく……
声を掛ければ、不安そうに此方に視線を移した玄弥に、茜は徐に口を開く。
「色々思うところはあるだろうけど、今日はとりあえず帰った方がいいと思う」
「‥…うす。……すみません………槙野さん、あのっ!……兄貴は?」
心配そうに問いかけて来た玄弥に、茜は困ったように眉を下げた。
兄弟揃って、互いのことばかり気にかけて……
やっぱり彼の弟なんだな、と小さく口元を吊り上げると、出来るだけ明るく努めて口を開く。
「ふふっ、実弥さんなら大丈夫。ほら、あの人少し不器用なところがあるでしょう?素直になれないだけで、根は優しいから……って、玄弥君の方がよく知ってるか。お兄ちゃんなんだもんね?」
「いや、……俺は…」
「少し落ち着いたら、私から玄弥君を訪ねてもいいかな?前はあんまり話も出来なかったし、ゆっくり話でもしようよ」
そう言って優しく笑いかける茜に、玄弥は曖昧に頷くと、静かに頭を下げた。
「槙野さん、兄貴を頼みます」
「勿論!これでも柱補佐だからね?先輩隊士として玄弥君からの頼み、しっかり聞き届けた」
にこにこと明るく笑う茜と、先程まで自分を殴ってきた威勢は何処へやら……しゅんと肩を落とした玄弥の隣で、善逸は思わず明後日の方向を見てボソリと呟く。
「根は優しい……」
〝……あのおっさんの何処らへんを見たら、そう思えるんだろうか〟
茜の信じられない言葉を耳にして、善逸は頭の中で自問自答を繰り返し、乾いた笑みをこぼすのだった。