第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
結局、悲鳴嶼の柱稽古に三日もの時間を費やした茜。
そんな彼女は一日目に醜態を晒した事で、もう同じ手には乗るまいときつく心に誓い、残りの二日を乗り切った。
そしてその間、普段なら風柱邸へと毎日帰っていたのを、山奥での稽古を理由に、近くの藤の家で寝泊まりをしていた。
勿論鴉を通じて実弥に伝達はしていたが、その本当の理由は恥ずかしくて口には出来ていない。
というのも、あんな恋人同士のようなやり取りをした後で、どんな顔をすればいいのかと悩みに悩んだ末、言い訳をして逃げた……という訳である。
まぁ、あのやり取りを思い出し醜態を晒した訳だから、当然と言えば当然の選択ではあるのだが。
「…‥実弥さん怒ってるかな」
しかし、子供のような理由で二日も家を不在にしてしまったのだ。
時刻は昼過ぎー……、
彼は今頃、隊士達に鬼のような形相で厳しい稽古をつけている事だろう。
「「……っぎゃー、……めろって、」」
庭から聞こえる叫び声を耳にしながら、数日ぶりに顔を合わす実弥を思い浮かべ、茜は少しだけ緊張した面持ちで風柱邸を見上げてため息を漏らした。
******
しかし、そんな茜が風柱邸に帰り着く少し前ー……、事件は既に起こっていた。
「どういうつもりですか!!玄弥を殺す気か」
「殺しゃしねぇよォ。殺すのは簡単だが隊律違反だしよォ」
いきなり屋敷から飛び出してきた三人を、庭に横たわる隊士達は呆然と眺めていた。
玄弥を背に庇いながら大声を上げた炭治郎に、皆が首を傾げる中、睨み合う実弥が口を開く。
「……再起不能にすんだよォ。ただしなァ、今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやる」
その地を這うような低い声に、数名の隊士が飛び起きると同時ー……、
炭治郎が再び反論した事で実弥の怒りは爆発する。
「そうかよォ……じゃあまずテメェから再起不能だ」
その一言を皮切りに始まった乱闘騒ぎ。
中心では鬼の形相を浮かべる実弥と、ボコボコになりながらも必死で彼にくらいつく炭治郎の姿。
周りにいた隊士達も必死で彼らを宥めようと試みるが、実弥によって掴まれては投げ捨てられ……を繰り返している。
そんな中、炭治郎に任されて、怯えながらも玄弥を連れ出そうと奮起した善逸は、玄弥へと振り返り眉を下げる。
「アレお前の兄貴かよ!?完全に異常者じゃん、気の毒に…」
しかし、その一言に今度は玄弥が怒りに震え、助けようとしてくれた善逸に殴りかかる。
「俺の兄貴を侮辱すんな!!」
「っ、俺味方なのに……」
「………玄弥君に、善逸君。二人とも何してるの?」
「「え?」」
そこへかかった第三者の声。
突然現れた茜に驚きの声を漏らした二人は、ピタリと動きを止める。それを茜がキョトンと見つめれば、先に我に帰った善逸が茜に助けを求めた。
「あのおっさん本気で……炭治郎が死んじゃうよォォオ」
「善逸君、ちょっと落ち着いて」
「槙野さん、炭治郎は悪くないんだ……兄ちゃんを……兄貴を止めてくれ!!」
わんわんと泣きつく善逸を宥めようと茜が口を開けば、それに続くように玄弥も口を開いた為茜はまさか…と表情を曇らせる。
あの柱合裁判が原因で、二人が互いに抱く印象が最悪である事を知る茜は、脳裏に最悪の状況を思い浮かべ、慌てて庭の方へと駆け出した。
「なっ、……」
そして、彼女がそこで見た光景は想像通りの……いや、それ以上の乱闘騒ぎで。騒ぎを起こす二人は勿論だが、それを止めに入る隊士達にも死人が出そうな程の騒ぎになっていた。
「…ちょ、ちょっと待って!実弥さんやり過ぎよ!!」
その中心へと茜が飛び入り、ふらふらの炭治郎を庇うように身を滑らせば、すかさず実弥から怒号が上がる。
「茜!邪魔だ、どけェ!!」
「……っ、ちょ、もう駄目だってば!」
「邪魔だっつーのが聞こえねェのか!!?」
そのまま、怒りに身を任せて実弥が茜に蹴りかかれば、それを受け流した茜も彼に向かって声を荒げる。
「聞こえない訳ないじゃない!!隊律違反になるから止めてあげてんでしょ!!」
「んな事ァ、関係ねェェッ」
「関係あるに…っ、決まってんじゃない!!」
次第に激しさを増す二人の取っ組み合いに、口を挟める隊士はいない。茜の背後では既に炭治郎が気を失い、駆けつけた善逸が涙を流しながら介抱している。
その状況に、実弥は苛立ったように舌打ちを鳴らすと、茜に向かって口を開いた。
「チッ……勝手にしろォ」
そう一言吐き捨てると、実弥は此方に背を向けズカズカと歩き出した。
その背を見送った茜は、彼が屋敷の角を曲がり姿が見えなくなった所で、ため息を一つ落とす。
「ごめんね善逸君……実弥さんの事が気になるから、ここを任せてもいいかな?」
「ふぇ…?」
突然問いかけられた善逸は、素っ頓狂な声を上げる。
しかしすぐに、茜から彼を心配する音が聞こえてきて、善逸は戸惑いながらも頷いた。
「ありがとう」
だが、そう一言笑いかけて茜の背中も遠ざかっていくと、それを見送りながら善逸は〝この戦場と化した庭を一体どうしろと……〟と本気で頭を悩ませるのだった。