第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
細められた双方の瞳に、茜は思わず固唾を呑む。
「俺に聞きたい事だと?」
「あ、の……実弥さんが隠している何か……伊黒さんなら知ってるんじゃないかと思って……柱稽古を早く終わらせて直接本人にも聞くつもりではいますが……もし心当たりがあるならお願いします。教えて下さい。」
柱稽古に参加すると決めてから、兄弟子の事を聞くなら彼しかいないと思っていた。
だからこそ、こうして漸く彼の元で稽古をつけて貰える番になり、聞きたい事を矢継ぎ早に問いかけたと言うのに……
「成る程。貴様の言いたい事はよく分かった。だが……そうか、俺の稽古を早く終わらせるつもりなのか」
「い、伊黒さん。それは言葉の綾で…」
「ふーん。つい先日まで寝込んでいた癖に、随分と舐められたものだな」
余計な一言が原因で、彼の機嫌を損ねてしまったことに気づく。
蜜璃の稽古も一日で合格を貰い、順調に柱稽古をこなしてきたのに……
ここにきて、最大の難関が立ち塞がる。
「立て……貴様の望み通り休憩は与えない」
「ひぇ…」
「早く柱稽古を終わらせたいのなら、休んでいる暇はないだろう」
顔を青褪める茜を、じとりと睨みつける蛇柱。
そして、それを震えながら見守る隊士達。
こうして始まった蛇柱による太刀筋矯正の訓練は、まさに地獄のように過酷を極めた。
******
床に突っ伏して、ゼェゼェ…と荒い呼吸を繰り返す茜を見下すように、伊黒は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
あれから数時間、本当に休憩なしでひたすら打ち込みをさせられた。
それは勿論、茜と共に稽古に訪れていた隊士達にも同じ事で。先に根を上げた他の隊士達は、伊黒によって次々に壁やら柱やらに縄で括り付けられていく。
「伊黒さん……それは、何してるの?」
「何?見て分からないのか?コイツらに罰を与えているんだが」
「罰って……なんの?」
「弱い罪……覚えない罪……イラつかせる罪……」
その光景を見兼ねた茜が恐る恐る尋ねれば、罪、罪、罪……と言葉をつづけた伊黒は最後に茜へと視線を向けた。
「さぁ、稽古を続けるぞ」
「……この状況で、ですか?」
「障害物を避けて攻撃すればいいだけだ。問題無かろう」
それにさーっと顔色を青褪めた茜と、縄で括られた隊士達。そんな彼らに構う事なく、伊黒は打ち込み稽古を続けたのだ。
そもそも、この稽古に漕ぎ着けた隊士達は、鬼殺隊の中でも割りかし力を持っているものが多い。
二週間の遅れをあっという間に埋めた茜の実力は言わずもがな、まず宇髄の稽古で足止めを食らう隊士が多い中、ここまで淡々と稽古を進んできた彼らもまた、かなりの力を身につけてきている。
しかし、そんな隊士達とて、変幻自在に木刀を操る伊黒の前では、為す術がない。
仲間を傷つけるわけにはいかないと精神を研ぎ澄ませ、ひたすら打ち込み稽古を繰り返す。
そして……一人、また一人と道場の柱や壁に括り付けられる隊士が増えていく。
肉体的にも、精神的にもかなり疲労したのは言うまでもない。
だが、そんな状況でも伊黒の太刀筋は素晴らしいもので、隊士達の顔面スレスレを掻い潜り、茜へと何度も攻撃を繰り出した。
正に蛇のように自在に曲がる、それだけでなくスレスレを狙う精密さ。そのどれもが彼の技術の素晴らしさを証明している。
『技とは腕力ではない』
稽古をつけて貰っていた時、伊黒は何度もそう言っていたが……
ここまで極限に追い込まれた稽古は初めての為、茜の腕にも力が入る。
曲がる攻撃を既の所で身を交わし、何度も伊黒へと攻撃を繰り出す。上手く避けきれなかった攻撃が体に青痣を作っていくが、構わず何度も攻撃を仕掛け………
「ふん。これしきで情けない」
今に至るのだ。
ゼェゼェ……と床に突っ伏している茜を見下ろし、呆れたように呟いた伊黒だが、最後にしっかりと茜からの一撃を受けた為、それ以上の小言はぐっと呑み込む。
「早く呼吸を整えろ、戯け者」
「は、はいっ……」
そして、柱やら壁やらに括り付けられた隊士達を一睨みすると、少しはコイツを見習えと言葉を落とし、くるりと道場の出口へ振り返る。
「行くぞ」
「………へ?」
「なんだ?俺に話があるんだろう………それとも何か、もう疲れすぎて動け「わー!!行きます、行きます」
伊黒の一言に茜がキョトンと小首を傾げれば、再び始まりかけた彼の小言。
それを慌てて静止した茜は、ぴょこんっと飛び起きその背を追いかける。
その動きは先程までの疲労がまるで嘘のようで……
「
「「「ひぃぃ……!」」」
道場から出て行く二人の背中を見つめ、悲鳴を上げた隊士達は……もう、なるべくなら帰って来ないでくれ、と心の底から思うのだった。