第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌朝。
茜はいつも通りに食事を作り、洗い物を済ませ、洗濯物を庭で干していた。
そんな茜の背中を見つめ、小さくため息を吐いた実弥は、ボソリと小さな声で口を開く。
「………茜、まだ稽古に行かなくていいのかァ?」
気まづそうに視線は逸らしているものの、今まで頑なに反対していたはずの実弥から、まさかそんな言葉をかけられるとも思ってもみなかった茜は、驚いたようにパチパチと瞬きを繰り返す。
つい先日まで柱稽古は出なくていいと言っていたのに、どういう風の吹き回しだ。思わず警戒してしまう程の変わりようである。
しかし、実弥の心中も複雑なようで……
やはり茜が柱稽古に参加する事自体、反対な事には変わりない。
他の柱達から痣の話を聞き出されるのも困るし、そもそも茜は、他の柱達から稽古をつけてもらっていた事だってある。
どんな稽古を、どんな頻度で受けていたのかまでは定かじゃないが……
茜を継ぐ子にする前の柱合会議では、他の柱と顔を合わす度に彼女の名前が上がっていたのだ。恐らく稽古をつけて貰った回数も一度や、二度ではない筈だ。
最後の決戦に備えて皆が力をつける中、茜だけ特別扱いするわけにはいかないが……
少しでも強くなって、茜がこれからの戦いに生き残れるように、自分の手で鍛え上げてやりたい。そう思っての言動でもあったのだ。
しかし、素直に言う事を聞かないことは、随分前から知っている。そもそも、そんな従順な性格であれば、とっくに鬼殺隊なんて辞めていた事だろう。
となれば、残された道はただ一つ。
「……他の柱の稽古なんて一瞬で終わらせて戻って来い」
無駄口を聞く暇もない程、柱稽古にのめり込ませ、最速で自分の元へと帰らせる。
それが実弥の出した一番の解決策だった。
そして、その一言にピクリと反応を見せた茜に、実弥は口元を吊り上げる。
「帰って来たら、死ぬほど稽古をつけてやらァ」
「………はいっ!!」
それに満面の笑みで返事を返した茜は、最後の洗濯物の皺をパンッと伸ばすと、籠を小脇に抱えて振り返る。
「ありがとう、実弥さんっ!!行ってきまーす!!」
上機嫌で口を開き、こちらの返事も待たずにバタバタと駆け出した茜に、実弥は思わず呆れ返る。
口答えはするし、言う事もろくに聞かない茜だが、こう言う素直なところがあるからこそ、彼女を憎めないのだろう。
「……ったく、分かりやすすぎんだろうがァ」
嬉しそうに頷いた茜の表情を思い出し、実弥は頬を緩ませるのだった。
******
その後。
やる気満々で恋柱邸へとやってきた茜を、蜜璃は満面の笑みで出迎えた。
「茜ちゃん、もう怪我は大丈夫なの?」
「ありがとう。おかげさまでもうバッチリだよ!」
それに茜が嬉しそうに頷けば、蜜璃も安心したように息を吐く。
完全に追い抜かしてしまった訳だが、茜は蜜璃が鬼殺隊に入る前からいた先輩隊士。
奇抜な隊服や派手な髪色をよく思わない隊士が多い中、彼女はそんな事気にしなくていいと笑い飛ばしてくれた隊士なのだ。
今では立場が変わり、上官とそれを支える補佐となってしまったが、彼女は信頼できる先輩隊士であり、大切な友人な事には変わりない。
「蜜璃ちゃんの稽古はどんな感じなのかな?楽しみにしてたんだ!」
そして、そんな大切な友人だからこそ、稽古にも熱が入るというもの。
「ふふっ、ありがとう〜!!じゃあまずはこれに着替えてね?」
「……えっ!!」
「さあ、やるわよ〜!!」
手渡された衣装に目を落とし茜は完全に動きを止めた。
しかし、そんな事には気づきもせず、蜜璃はやる気一杯といった様子で、腕をぐるぐると回すのだった。
******
そこからはひたすら羞恥心に耐える時間が続いた。
蜜璃にピンク色のレオタードを渡された茜。
周りを見れば、皆も恥ずかしそうにそれを着用しており、自分だけ我儘は言えないと一応それに袖を通す。
だが、こんな格好をした事もない為、茜は終始顔を真っ赤にさせながら、なんとか指示された踊りをこなす。
〝これは何の訓練なのか……〟
あまりの恥ずかしさに、茜の思考は明後日の方向へすっ飛んでいく。
「はーい、そこまで!」
そんな中、蜜璃の掛け声でハッと我に帰った茜だったのだが………
「それで、不死川さんは何て?」
「……実弥さんはって、痛いっ!痛いっ!蜜璃ちゃん!痛いって!!」
今度は蜜璃による力技の柔軟体操に、体が……筋肉が悲鳴を上げた。
蜜璃は流石の柔らかさで、力一杯茜の脚を左右に引っ張りながら、にこにこと会話を続けていく。
そんな茜の姿を青褪めた顔で見る者や、鼻の下を伸ばしている者、さまざまだが……
「あー……いてて」
「ふふっ、茜ちゃんお疲れ様!それでさっきの続きは?」
「ん?」
目に涙を溜めながら何とか地獄の柔軟を耐え抜いた茜は、そのやり取りを思い出したのか、嬉しそうに頬を染めた。
「帰ったら、死ぬほど稽古をつけてくれるって」
「ふふっ、良かったわね」
キャーキャーと盛り上がる女性陣二人を、遠巻きに眺める隊士達。
嬉しそうに頬を染める茜は、勿論とても可愛らしいが、皆一様に顔を歪める。
〝〝……風柱の稽古………しかも死ぬほどって、絶対死ぬじゃん!!〟〟
その稽古を想像して、背中をぶるっと振るわせる。
「不死川さんは茜ちゃんがよっぽど大切なのね」
「やだ、蜜璃ちゃん。そんなんじゃないから」
そんな隊士達は蜜璃の言葉を偶然耳にして、顔面蒼白で動きを止めた。
〝〝風柱が大切にしてるって……茜さんのこんな姿見たってバレたら俺らヤバいんじゃ………〟〟
額に青筋を浮かべる実弥の姿を思い浮かべ、隊士達は絶望し、怯えたように悲鳴を上げた。