第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日。
勝手にしろと言われたのだから、やりたい様にやらせて貰う。そう開き直って蝶屋敷を出発した茜は、早速音柱邸へと足を運んだ。
ここでは柱稽古の最初の難関、宇髄監修の元〝地獄の基礎体力向上訓練〟が行われている。
他の隊士に遅れる事ニ週間。
この遅れを取り戻す……いや、追い抜いてみせると意気込んで、茜は意気揚々と宇髄の元へと駆け寄った。
「よお、槙野!久しいな!!お前もド派手に上弦と渡り合ったんだって?」
「……宇髄さん、痛いです」
つい昨日まで療養していた茜の背中を、宇髄はバシバシ叩きながら豪快な笑い声を上げている。
その加減のなさには、茜も思わず頬を引き攣らせる程だ。
「……渡り合ったのは無一郎君で、私は少し悪あがきをしていただけです」
「ふーん。悪あがきねぇ……まあ、クナイだけで鬼に立ち向かうなんて、お前は相変わらず派手に男前だな!」
そう言って再び豪快に笑った宇髄に、茜は不貞腐れたように彼を見上げる。
予想はしていたが、元忍びの彼には最早説明は必要ないのだろう。きっと情報は筒抜けなのだから。
なんなら実弥に怒鳴られた一件も、彼なら知っているのかもしれない……
そんな事を考えながら、茜は周りでヒーヒー言っている隊士達を見回すと、よしっと気合いを入れ直し、彼に向かって頭を下げた。
******
それから山道を駆け登り、駆け降りる。ただひたすらそれの繰り返し。体が自ずと悲鳴を上げる。
「オラァ槙野!!テメェもっと早く走れんだろうが!!」
「ギャァッ!宇髄さん私丸腰なんですから、そんなの振り回して追いかけて来ないで下さいよっ!!」
悲鳴を上げながら、沢山の隊士を追い抜いていく茜に、宇髄は竹刀を遠慮なく振り下ろしていく。
茜の実力を知るからこその特別待遇だが、それを目撃した隊士達は皆、一様に顔を青褪める。
片腕だろうが圧倒的な実力を持つ元音柱。それに加えて笑いながら丸腰の隊士を追い回すその鬼畜さ。
そしてそれを平然と避けながら、自分達をあっという間に追い抜いていく茜の後ろ姿。
……目の前で繰り広げられるその光景に、隊士達は頬を引き攣らせ、完全に引いていた。
そして、そんな稽古を丸っと三日行うと、宇髄は茜に合格を言い渡したのだ。
〝やはり、風柱の継ぐ子なだけあって、あの人も別次元の人だったんだ……〟
未だに合格を貰えない隊士達は、やはり少し引き攣った頬でそれを静かに眺めていた。
******
翌日。
今度は霞柱邸を訪れた茜を、無一郎は笑顔で出迎えた。
「茜さん、もう怪我はいいの?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
心配そうに眉を下げる無一郎に、茜は大きく頷くと、恥ずかしいそうに頬を掻く。
「回復にこんなに時間がかかるなんてまだまだよね。やっぱり無一郎君も、蜜璃ちゃんも凄いな〜」
「そんな事気にしているの?僕は茜さんも十分強いと思うけど……」
それにキョトンとして首を傾げる無一郎は、茜の知る今までの彼とは違っていて。思えば上弦と対峙していた時は随分と毒舌だったような気もしたが……
やはり本来の彼は、こうして人の心を思いやれる優しい少年なのだろう。
「無一郎君には手合わせして貰った事がないから楽しみにしていたの」
茜は嬉しそうに目を細めると、無一郎に宜しくお願いしますと軽く頭を下げるのだった。
******
夕暮れ。
ヘロヘロになりながら風柱邸へと帰宅した茜は、どかっと玄関先に腰を下ろすと先程までの稽古を思い出し、思わず苦笑いを浮かべていた。
無一郎の稽古は、彼に何度も打ち込みを行い、相手を翻弄する速さを身につける、正統派の稽古だった。
どんなに必死で打ち込もうが、彼は軽々と受け流す。その動きは洗練されていて、まるで無駄がない。
流石、最年少で柱に上り詰める程の実力者である。
しかし、それ以上に茜を驚かせたのは……
「茜さんの動きは単調で読みやすいんだよ。もっと相手を翻弄しないと」
「そ、んな事、言われてもっ、」
「口より手を動かしてね?………あ、そうだ。茜さん、柱補佐なんでしょう?なら、全力でいいよね」
「へっ!?ちょ、ちょっと待って……わぁっ!」
「ほらほら、もっとしなやかに動かないと!柱補佐の実力ってこんなものなの?」
あの可愛らしい顔から放たれる毒舌の数々は、茜の痛いところをグサグサと突いてきた。
やっぱり刀鍛冶の里で見た彼の口の悪さは間違いではなかったのだ……
それに加えて、受け流すだけだった彼の動きが、途中から急に激しさを増し、知らぬ間に此方が受け流す側へと変わっていた。
無一郎の打ち込みの速さ。足捌き。
どれをとっても一級品で、それについていくだけでかなりの鍛錬になった事は間違いないが……
確実に他の隊士よりも扱かれていた自覚はある。
だが全力でと言いつつ、相手の動きを把握し的確な指示を出す辺り、無一郎にはまだまだ余裕があったという事か。
肉体的にも精神的にもボロボロになりながら、茜は小さくため息を吐いた。
そんな中、突然がらりと音を立てた扉に、茜は驚きながら振り返る。
「……帰ってたのか」
「あ、はい。今帰ってきた所です」
玄関先でばったり鉢合わせした兄弟子に茜はパチパチと瞬きを繰り返す。
そんな茜に、実弥は気まずそうに視線を泳がせた。
あの日、蝶屋敷で勝手にしろなんて突き放した筈の茜だが、翌日から彼女は風柱邸へと当たり前のように戻って来ていた。
以前のように朝飯を作り、家事をこなしてから稽古に向かう。
夕暮れにはこうして再び戻ってきては、今日の稽古を報告する。
「実弥さんも柱合同の稽古でしたか?」
「……ああ」
「それはお疲れ様です。私は今日無一郎君の稽古でして……」
ニコニコと今日行った稽古の話や、無一郎の凄い剣術について語る茜に、実弥は無言で考えを巡らせる。
ここまで普通に接されると、臍を曲げている自分の方が何とも滑稽に思えてくる。
「……なんとか1日で合格を貰いましたが、体の節々がまだ悲鳴をあげています。明日は蜜璃ちゃんのとこかぁ〜……」
そう言って苦笑いを浮かべる茜を見つめ、実弥は話を逸らすように口を開く。
「…‥疲れてんだろうがァ、先に風呂に入って来い」
「え!?いいですよ!実弥さんこそお先にどうぞ」
「チッ、俺は後でいい……余計なこと考えてねェーで、早く入って来い」
「ふふっ、…ではお言葉に甘えて、お先に失礼します」
ありがとうございますと頭を下げると、茜は嬉しそうに目を細め、パタパタと自室へと走り去っていく。
その背中を見送ってー……、
「………どうしたもんかねェ」
実弥は小さく呟くと、人知れずため息を漏らすのだった。