第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
隊服新調事件から今日で丸三日。
茜は傷の具合を診て貰うべく、しのぶの部屋を訪れていた。
「はい、服を直していいですよ」
可愛らしく微笑む友人を、茜は期待の眼差しでじっと見つめる。
「そんなに見つめられると照れてしまいます」
「え、あ、ごめんっ!それで……傷の具合はどうかな?」
「ふふっ、相変わらず素直な方ですね。……うーん、まぁ、いいでしょう。傷の治りも良好ですし、これなら柱稽古に合流しても問題ないと思います」
それにパァッと表情を明るくした茜に、しのぶは分かりやすくため息を落とすと、無茶だけはしないようにと苦言を呈す。
「貴方が怪我を負うたびに不死川さんが大暴れするんですから……全く、屋敷の扉が破壊されるのも時間の問題ですよ」
その言葉に茜は〝少し大袈裟ではないか……〟と口を開きかけて思い止まる。
あの兄弟子は、実際に扉を壊すほどの勢いで病室に飛び込んできた事もあれば、全くその逆。口喧嘩の末に病室を飛び出していく事もある。
意図して暴れている訳ではないが、記憶に新しい揉め事と言えばつい先日の
……隊服を新調すると吐かした隠をボコボコに締め上げた……うん、この話は内密にしておいた方がいいだろう。
そんな事を思い出しながら茜が乾いた笑みを浮かべれば、しのぶは顎に手を置き考え込むようにして口を開いた。
「まぁ、それはさておき……茜さんは先日の柱合会議の内容を何処までお聞きしてるんです?」
「‥‥何処まで」
可笑しな聞き方をするしのぶに、茜はピクリと反応する。
「刀鍛冶の里での討伐報告と、柱が直々に隊士達に稽古をつける事。あとは柱同士でも連携を取る為の稽古をするって聞いたけど………」
「ふむふむ」
「議題はきっとそれだけじゃないよね?実弥さんが何か隠してるのは確かなんだけど……しのぶちゃんなら教えてくれる?」
そう言って困ったように笑う茜に、しのぶはこてんと小首を傾げた。
「さあ?私が聞いた話と何ら変わりはありませんが……あまね様も、不死川さんだけに特別何かお願いしている様子もありませんし……」
「……そう、なんだ」
気のせいでは?と可愛らしく笑うしのぶに、茜は何処か納得しない表情で頷いた。
それを視界の端に捉えながら、しのぶはそっと考えを巡らせる。
先日の柱合会議。彼の言動を思えば、痣うんぬんの話を茜に伏せているだろう事は容易に想像出来たが……
これを軽々しく自分が伝えてしまうのは、何だか間違っているような気がした。
勿論、それは鬼舞辻を倒す為なら必要な力で……
彼女にも痣が出せるように鍛錬して貰った方がいいとは思う。
しかし、あの不器用な同僚が、一生懸命‥‥それこそ命をかけて守ろうとしているものを、自分なんかが簡単に壊していいはずもない。
「それより柱稽古で羽目を外して、此方に戻って来るような事がないように……気を付けてくださいね?」
「え、……も、勿論分かってるよぉ」
……願わくば、どこまでも互いを思い合ってすれ違う彼らに、せめて人並みの幸せが訪れますように。
目の前で慌て始めた茜を眺めながら、しのぶは人知れずため息を落とすのだった。
******
その日の昼時、蝶屋敷に姿を現した実弥に茜は怪我が完治したことを報告していた。
「ふ〜ん。まぁ良かったじゃねえかァ」
「はい!しのぶちゃんからも了承を得ましたし……これで漸く私も柱稽古に参加できます!」
「………ア?今なんつったァ?」
「へ?」
眉間に皺を深く寄せ、険しい表情で問いかけてきた実弥に、茜はそう言えば参加しなくていいなどと言われていたなと思い出す。
しかし、それに従うつもりがない茜は、あっけらかんと言い放つ。
「皆に遅れを取りましたがご安心を!全力で稽古にも励みますし……実弥さんの継ぐ子として、最速で柱稽古も突破しようと思ってますから!」
「んなこたァ、聞いてねえよ!!」
「……他に何か気になることでも?」
キョトンと小首を傾げた茜に、実弥は苛立たしげに、他の柱からの稽古なんぞ今更必要ないだろうと言葉を続けた。
「必要ですよ!……今回の一件で自分の無力さを思い知りました。このままじゃ鬼舞辻どころか上弦とも渡り合えない」
「そんなもん柱に任せておけばいいだろうがァ!!テメェはいつもでしゃばりすぎなんだよ!!」
「……そこまで頑なに拒む理由は何ですか?……例えば、他の柱に何か聞き出されたら不味いことでもある、とか?」
「んなっ、!」
まるで何かを知っているような物言いに、実弥はぐっと言葉に詰まる。
その態度が正に答えであると受け止めた茜は、スッと目を細めると淡々と口を開く。
「まあ何を隠しているのかは知りませんし、教えて貰えないのなら仕方がありませんが……柱稽古に参加する権利なら私にもある筈です。実弥さんに何と言われようが参加はしますので、悪しからず」
「何が悪しからずだ……ふざけてんのかァ?」
「いいえ?全く……実弥さんこそふざけてるんですか?」
「ア"?どういう意味だァ……」
「そのままですよ。私は柱補佐ですから、勿論情報の共有はして頂かないと…‥もし柱でなければ聞かされない内容でしたら、今更ですがお館様に頼み込んで柱にさせて貰います」
「テメェ舐めてんのかァァッ!?んな簡単に柱になれる訳ねえだろうが!!そんなに言うなら柱稽古だろうが何だろうが勝手にしやがれェェ!!」
そう怒鳴り散らすと、実弥はズカズカと茜に背を向け歩きだす。そのまま病室の扉に手を掛けると、物凄い音を立てながら病室を飛び出て行った。
「……あーぁ。しのぶちゃんに注意されたばっかりなのに」
その後ろ姿を見送って、茜は寂しそうに眉を下げるのだった。