第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今回負った怪我も順調に回復して、あと三、四日もすれば柱稽古に参加してもいいと許可が出たその日ー……
茜の病室に眼鏡をかけた隠が訪れた。
「槙野さん、この度隊服を新調させていただきます、隠の前田と申します」
「あ、ご丁寧にどうも…‥」
ぺこりと頭を下げた隠に茜も釣られて頭を下げる。
しかし彼の口にした言葉に違和感を感じ、……新調ですか?と首を傾げた。
「はい。近頃鬼の被害もめっきり減って、私共が隊士の方々に割ける時間も増えてまいりました。この機に、より細部にまでこだわった隊服を新調させて頂こうと思いまして……」
「そうだったんですか!わざわざすみません」
「いえいえ、こんな事ぐらいしかお役に立てませんので」
そう言って目を細めた前田は、まずは療養中の隊士から順を追って、新調していくことにしたと説明する。
鬼の出現はなくなったと言えど、現在は柱稽古の真っ最中。
採寸しようにも、柱も隊士達も皆忙しい。……という訳で、先ずは手が空いている療養中の隊士達から優先に行っていくのだとか。
「先日、上弦との戦いでお怪我を負ったと聞きましたが、その後、お体の方は大丈夫ですか?」
「心配して貰っちゃってすみません……もう傷も大分塞がりましたし、あとはしのぶちゃんの判断待ちと言ったところです」
「そうですか。それは安心致しました……しかし!今後は少しでも隊士の皆様が動きやすいような隊服を作りますので、ご期待下さい!」
採寸を行いながら熱く語り始めた前田に、一瞬ポカンとした表情を浮かべた茜は笑みを落とす。
「ありがとうございます。隊服楽しみにしていますね」
そう言って頭を下げた茜に、前田がにやりと眼鏡の奥で目を細めていたなんて、この時は全く気づきもしなかった。
******
翌日、再び茜の病室に現れた前田は、嬉しそうに口を開いた。
「槙野さん、大変お待たせ致しました!新しい隊服を持って参りました!!」
「もう?随分と早いんですね。ありがとうございます」
キョトンと小首を傾げた茜の問いかけに、前田は上機嫌で頷いた。
それから、茜の隊服を一番に作ったのだと自慢げに説明した彼に、茜は申し訳なさそうに眉を下げる。
「一番だなんて…なんだかすみません」
「いえ!槙野さんは以前から一目置いていた逸材ですので、どうしても一番に届けたかった!!風柱が稽古に集中している今が好機なのです!!」
「は、はぁ……?」
「今回の隊服は、上弦相手でも動きやすいようにと軽量化致しました!!是非試着してみて下さい!!」
「え、今ですか?」
「ええ、そうです!!何か不備があっては困るので!!」
そう言って新しく新調された隊服を手渡すと、古い物は此方で処分させていただきますと有無を言わせぬ物言いで、前田はズズイっと近づいた。
それに圧倒されながらも茜が予備の隊服を手渡すと、前田はくるりと背を向けた。
「では私は病室の外にいますので、試着できたらお声掛け下さい」
******
手渡された隊服を広げ腕を通す。
それから釦を留めようとしたところで、茜は隊服の違和感に気がついた。
「……ん?」
明らかに生地が足りていないのだ。
息を止め、何とか努力をしてみても第四釦がなんとか留るのみ。
これは明らかな採寸違いではないだろうか……
急いで仕上げてきてくれた所申し訳ないが、これはもう一度作り直しをお願いしよう。
そう思いながら隊服の上着の釦に手を伸ばしたところで、上が間違っていたのだから下も確認した方がいいだろうと思い直す。
そうして
「これは………」
洋袴だと思っていたそれが、蜜璃の履くような短いすかーとだったからだ。
一応試着してゆとりを見てみるが、すかーとの丈は置いといて、腰回りの寸法は問題ないらしい。
………が、やはり普段着ている隊服と比べると、上も下も完全に布が足りていない。
飛び跳ねれば見えてしまいそうなスカートの丈はスースーしていて落ち着かないし、上に至っては完璧に胸の膨らみが顔を出し、無理やり閉めた釦のせいで谷間が際立っている始末。こんなんじゃ鬼との戦いで大きく呼吸をした瞬間、たちまち第四釦が弾けるだろう……
これじゃあ、上弦どころか任務にも集中できない。
軽量化にも程があると思わず頭を抱えてしまう。
「………前田さん。言いにくいんですが、寸法が間違っているようで……」
「おや?可笑しいですね。私の見立てではピッタリの筈なのですが……」
扉越しで声をかければ、不思議そうな声色で返答が返ってきて、ゆっくりと扉が開かれる。
「え!!?ちょ、ちょ、ちょ……なんで入ってくるんですか〜!!?」
突然病室に入ってきた前田に茜は思わず声を上げる。だが、鼻息を荒くした前田が近寄って来て、胸元を押さえて後ずさる。
「ピッタリじゃないですか!!やはり貴方は素晴らしい逸材だ!!私の見立てに狂いはない!!」
「はぁ!?狂いまくりでしょ!?これの何処がピッタリなの!?」
ふごふごと鼻息を荒立てる前田に、遂に敬語すら忘れて声を上げた茜は、すかーとの裾を下に引っ張り不満を口にする。
「これじゃあ鬼殺に集中できないじゃない!!」
「何を仰いますか!風に揺れ、見えそうで見えない……これが正に美学と言うもの!!」
「何言ってんの!?この変態!!!………あ!さっきの隊服返して」
何を言っても嬉しそうに頷く前田に、ハッと思い出し問いかける。
「あ、それなら先程庭で燃やしました」
「はあぁぁ!??」
しかし、悪びれる様子もなくあっけらかんと言い放つ前田に、怒りでワナワナ震え出す。
この場合、殴り飛ばしたら隊律違反に問われるのだろうか……
茜が本気でそう考え始めた時、前田の後ろに見知った人影が現れた。
「よお眼鏡ェ……お前此処で何してやがる?」
それにギギギ…とまるで機械音でも鳴りそうな程に恐る恐る振り返った前田は、此方を睨みつける実弥の姿に悲鳴を上げた。
「ひぃっ、……風柱様、これには深い訳がありまして」
「ア?深い訳って何言って、や、がる……」
前田が振り返った事で、それまで前田の影に隠れていた茜の姿が露わになる。
「………」
「………」
「………オイ、眼鏡ェ」
その瞬間、前田は自分の死を悟った。
「テメェは茜になんてもん着せてやがる!!死にてェのかァァ!?」
「ヒィィィ……すみません、すみません、すみません」
胸ぐらを掴まれ、至近距離で怒鳴られる。
あまりの恐怖に前田が喉をヒュッと鳴らせば、正式な隊服を今すぐ持って来いと命じられる。
「そ、れは……些か厳しいと申しますか…」
「ア"?」
「いえ、はい。直ぐにお持ちいたします」
顔を真っ青に染めた前田は、実弥の言葉にブンブンと首を縦に振り、一目散に病室を飛び出して行った。
その一部始終を目撃していた茜がポカンとした表情を浮かべていれば、くるりと振り返った実弥に羽織を無造作に押し付けられる。
「ぶっ、ちょっと!」
「テメェは馬鹿かァ!!なんであんな眼鏡野郎の言いなりになってやがる!!」
「ちがっ、……だって新しい隊服をって言うから」
「だからってなァァ、女が体を冷やすんじゃねェェ」
早く病衣に着替えろ!と真っ赤な顔で怒鳴り散らしズカズカと病室を出て行った実弥に、茜も思わず頬を染めた。
〝クソ、さっきの茜の姿が頭から離れねェ……どんな顔して接すればいいんだァ……〟
〝わぁぁ〜ん……こんな姿実弥さんに見られるなんて〜、……恥ずかしい〟
互いに姿が見えなくなったその瞬間、顔を覆ってズルズルとその場に蹲った二人は、互いの反応を思い出し悶々と頭を悩ませるのだった。