番外編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
刀鍛冶の里が上弦二体に襲撃されてから、数日ー……
「……ほらよ」
「え?なんです突然?」
今日も今日とて、茜の病室には当たり前のように見舞いに訪れる実弥の姿があった。
そして、そんな彼の手には可愛らしい髪飾りが握られており、茜はキョトンと彼を見上げた。
「……やる」
「やるって、……これ私が貰っちゃっていいんですか?こんなに高そうなもの」
「あァ?そんな大したもんじゃねーよォ」
「でも……ほら私、こんなに髪だって短いのに……」
「だァーから、いいって言ってんだろーがァ!!もたもたすんじゃねェェー」
そしてそれは次第に、毎度お馴染みと言っても過言ではない、二人の痴話喧嘩へと発展していく。
「あのなァ、人が折角買ってきてやったんだから、もう少し可愛らしい反応が出来ねーのかァ」
「なっ、…‥ちょっと驚いただけじゃない!!可愛くないなんて、そんな言い方‥‥失礼ですよ!!」
「はァァ!?そんな事言ってねーだろうがァ!!」
まさに、売り言葉に買い言葉である。
茜の短くなった髪に合わせて、実弥がわざわざ髪飾りを選んで来たのだから、もっと甘い雰囲気になっても可笑しくはないのだが……
この二人にかかれば、この通りである。
恥ずかしさからか素直になれない実弥と、あまりに唐突だった為戸惑いを隠せず断った茜。
まあ、どっちもどっちではあるのだが……
些細なきっかけで、頭に血が昇り言い争いを始めてしまった二人は、お互いムキになってしまっているようだ。
……こうなってしまっては、第三者が止めに入る他、解決策はないだろう。
普段なら蝶屋敷の主が出てきて呆れたように口を開くところではあるのだが、今日はいつもと違っていた。
ちりん、ちりん……
何処からか聞こえて来た風鈴の音に、二人はピタリと動きを止めた。
それから此方に近づいてくるその気配に、二人して扉を凝視していれば、無遠慮に突然開かれた扉の先に、ひょっとこのお面が顔を覗かせた。
「……刀鍛冶か。なんかコイツに用かァ?」
そんな訪問者にすかさず実弥が問いかけるが、あろう事か柱でもある彼の言葉を全く無視して、彼は茜の寝台へと近寄っていく。
「おい!テメェェ、聞いてんのか」
「あ、あの〜……」
それには茜も思わず戸惑いの声を漏らした訳だが、ひょっとこの面を見つめる事数秒、確か炭治郎君の担当の……と小さな声で問いかけた。
「茜、誰だこの無作法な野郎はァ?」
「え、えっとー……刀鍛冶の里で一緒に……戦った………鋼鐵塚さんです」
眉を吊り上げる実弥に簡単に説明をしたものの、一緒には戦ってはいない……正確に言えば、彼はその場に居ただけで、ひたすら刀を研いでいたなんて色々とややこしくなりそうで口を閉ざす。
すると漸く動きを見せた鋼鐵塚は、茜を指差し髪をどうした……なんて震えながら聞いてくるものだから、あの時周りで起きていた出来事を全く把握していないのかと、茜は呆れながら曖昧に返事を返した。
「まぁ、色々あって……ところで何か御用ですか?……あ、もしかして炭治郎君のお見舞いです?病室お教えしましょうか?」
そんな茜に返事を返すこともなく、急にガサゴソと自身の荷物を漁り始めた鋼鐵塚は、小さな箱を手にすると茜の前へと差し出した。
「約束通り刀を打ってきた」
「へ?……刀なら、鉄穴森さんからもう貰ってますし……それにこれ」
刀にしては小さな箱に戸惑いを隠しきれない茜だったが、箱を開けた瞬間、あれ?と小さく首を傾げた。
「短刀、ですね」
「ああ。茜が日輪刀も持たずクナイで戦ったと聞いたから、もしもの時の護身用で小刀を打ってきた」
「……あ、ありがとうございます」
しかし突然饒舌に語り始めた鋼鐵塚に圧倒されて、茜は頬を引き攣らせ始める。
その間もうっとりと刀の特徴を説明し続ける彼に、完全に置き去り状態である。
「茜の為に不眠不休で作った、俺の最高級の刀だ」
「はぁ、……それは、凄いですね。あははは……」
だから、今までお前としか呼ばれていなかったのに、名前で呼ばれた事にも気づかない。
「早く握って見せてくれ」
「…え、ああ。はい、すみません」
完全に主導権を握られた茜は、戸惑いながらも刀を手にした。
すると彼女の日輪刀同様、綺麗な翠色に変貌した小刀に鋼鐵塚は鼻息を荒くした。
そのままの勢いで更に茜へと詰め寄ると、後ろからずいっと手が伸びて来て、鋼鐵塚の体が引き離された。
「オラ、要件は終わったんだろうがァ。さっさと離れやがれ」
「……誰だ、お前?」
「なっ!風柱の不死川だ!さっきから此処にいただろうが!!んな事いいから、茜から離れやがれェ」
「…‥なぜ貴様の指図を受けないとならん」
「はァァ!?俺がそいつの師で、そいつが俺の継ぐ子だからだ!」
突然目の前で口喧嘩を始めた二人に茜は困ったように眉を下げる。
その間も「茜を守れるのは日輪刀だ」とか「テメェが渡した小刀に出番はねーよ」とか、程度の低いやり取りが続き、茜は小さくため息を漏らす。
そして、何やらガサゴソと引き出しから手鏡を取り出すと器用に少量の髪を手早く編み込んでいく。
そこに実弥から貰った髪飾りを宛てがうと、二人に向かって口を開く。
「あのお二人とも」
「「なんだ……」」
「素敵な贈り物をありがとうございます。大切にしますね」
そう言って嬉しそうに目を細めた茜に、二人はピタリと動きを止めた。
実弥は目を見開き動きを止めているし、鋼鐵塚の耳はほんのりと赤く染まっている。
それにクスクスと小さく笑みを漏らせば、二人からも気にするな…と控えめな言葉が返ってきた。
「ああ、それはそうと鋼鐵塚さん。さっき実弥さんが蝶屋敷の皆にって和菓子の詰め合わせを持ってきてくれたようで……調理場にみたらし団子があるかもしれませんよ?」
「なにィィィー!?」
さっきまで惚けていた癖に、茜の言葉を聞くや否や、鋼鐵塚は鼻息を荒くさせ病室を飛び出して行った。
それを確認した実弥は、大きなため息を落とすとドカッと椅子に腰掛けた。
「お前は本当に変な奴に好かれるなァ。何処でひっかけてきやがる」
「‥‥引っ掛けてませんよ、もう」
呆れたように返事を返した茜は、思い出したように顔を上げる。
「実弥さん、似合ってます?」
にこにこと嬉しそうに見上げてくる茜を前に、うっと言葉を詰まらせた実弥は、照れ臭そうに視線を泳がせた。
「あァー……まあ、あれだ。いいんじゃねーかァ」
「ふふふっ、ありがとうございます。大切にします」
それにクスクスと笑みを漏らした茜は、髪飾りにそっと手を伸ばし幸せそうに頬を染めた。
鮮やかな翠色のリボンに銀色の美しい糸が編み込まれた髪飾りが、茜の笑顔によく映えている。
そんな茜をチラリと見遣り、実弥も小さく息を吐く。
そして、久々に感じる穏やかな時間に自然と口元に弧を描いた。