第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「胡蝶っ!!」
蝶屋敷に実弥が駆け込んで来た瞬間、しのぶは待ち構えていたかのように姿を現した。
「あらあら不死川さん、随分お早い到着ですね」
「そんな事より、茜の怪我の具合はどうなんだァッ!!ちゃんと生きてんだろうなァ!!」
「………不死川さん、少し落ちついて下さい」
詰め寄ってきた実弥にしのぶは困ったように眉を下げると、今回は重症者が大勢いますが…‥と口を開き、その中で言えば軽症の方ですねと苦笑いを浮かべた。
「腹部の傷はかなり深いですが、ここに運び込まれる前にご自身で止血されたようですし……今は意識も取り戻して、病室で反省しているところです。」
「あ"?反省だァ?……アイツはまた何やりやがったァ」
『反省』という一言に、実弥がピクリと反応する。
地を這う様な低い声で問いかけられたそれに、しのぶも何処か呆れたような表情で頷くと、実弥が思いもしなかった言葉を口にした。
「刀もないのに、クナイだけで上弦に挑んだようですよ……全く、何を考えているんでしょうね」
「………は、」
「それに自分で髪を……って、不死川さん。茜さんの病室お分かりなんですか?」
話し終える前にズカズカと廊下を進み出した実弥に、後ろからしのぶは声をかける。
「廊下の突き当たりを右に曲がって下さい。奥から2番目のお部屋ですから……て、聞こえたんでしょうか、あの人」
継ぐ子が継ぐ子なら、師範も師範である。
師弟関係を結んだからと言って、彼らが人の話を聞かない似た者同士な兄弟弟子なのは変わらない。
その事を理解しているしのぶは小さくため息を漏らす。
〝まぁ、お説教は不死川さんにお任せしましょう〟
くるりと背を向け歩き出したしのぶは、これから訪れるであろう喧騒を想像し、思わず苦笑を浮かべるのだった。
******
しのぶと別れた実弥はズカズカと歩みを進め、茜の病室の前まで来ていた。
そして苛立ちながら、ガラリと病室の扉を開け放てば、
「さ、ねみさん……」
部屋の主は驚いた表情で此方を見つめていた。
だが、それ以上に実弥も目を見開いて、茜を指差し口を開く。
「…おい、お前………その髪はどうしたァ」
「…………切った」
「切ったァ?自分でか?んなサラッと言いやがってェェ………チッ、まぁその話は後だァ………」
そう言って目を細めた実弥が、一歩一歩と歩みを進めれば、茜は怯えたようにそれを見つめる。
「胡蝶から聞いた話によれば、上弦と戦ったんだってなァ」
「……え、いや。戦ったのは無一郎君で……私は気絶してただけって言うか……なんて言うか……」
「ほう。俺が聞いた話では刀も持たずに
「そ、れは……」
「それは、何だァ?違うのかァ……」
実弥の問いかけに茜はオロオロと視線を彷徨わせる。
しかし、間違いのない事実である為、反論も出来ずに顔を青ざめる。
その表情で全てを悟った実弥は、茜の目の前までくると、茜を見下ろし口を開いた。
「そうか、そうかァ……クナイ一本でなァ……そんなもんで鬼が倒せるとは、よっぽど腕に自信があるんだなァ……」
「……さ、三本です」
「は?」
「クナイ……は三本あった、から……」
「そう言う問題じゃねーだろうがァァ!!
馬鹿かテメェェ!!何年隊士やってんだ!!
鬼は日輪刀で首を斬らなきゃいけない事も分かんねーのかァァ!!」
そして、余計な一言を口にした茜に、実弥の怒りは遂に爆発した。
「なんでテメェは俺の言いつけも碌に守らねェんだ!!」
「ご、ごめんなさい……」
「無茶ばかりして……俺の知らないところで怪我なんて負ってんじゃねェよ……」
そう言ってドカリと椅子に座った実弥は、俯いたまま拳をぐっと握りしめる。
寝かされている茜から見えるのは、実弥の頭頂部のみで……
しかし、表情は見えなくても実弥がどんな顔をしているのかなんて茜には簡単に想像できた。
そしてきっとまた自分の事のように胸を痛めているであろう兄弟子に、茜は小さく笑みをこぼす。
「テメェ……何笑ってやがる……」
「だって、私なんかより実弥さんの方が全然辛そうだから……なんか可笑しくって」
「………」
実弥がギロリと睨みを効かせれば、肩をすくめた茜は母親が子供に言い聞かせるように、優しい声色で口を開く。
「私は実弥さんを一人になんてしませんよ?」
「………」
「貴方が大切なんです。誰よりも側にいて、私が一番に支えようって決めたから……例え腕が一本になろうが、必ず私は実弥さんの元に帰ってきますよ」
「……腕が一本なんて………んな事あってたまるかァ」
「ふふっ、私が寂しがり屋の実弥さんを置いて、先に逝く訳ないでしょう?」
そう言っておどけて見せた茜に、実弥は静かに顔を上げる。
それからくしゃりと顔を歪ませると小さい声で呟いた。
「‥‥勝手に屋敷を出ていくなァ」
「すみません」
「…‥そんでもって俺より先に死ぬんじゃねェ」
「はい」
「……それから……隣でいつも通りヘラヘラ笑ってろォ」
「はい、はい」
「………はいは一回だろうがァ」
「ふふ、はい。もし実弥さんに嫌だって言われも離れません。ずっと私はお側にいますよ?」
そう言ってクスクスと笑う茜を見つめ、実弥は優しく目尻を下げる。
「はっ、一丁前の事言いやがってェ……」
そのまま茜へと手を伸ばし、ぎゅっと掌を握りしめた。