第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
茜達を庇い、体のあちこちに鬼の針を食らった無一郎に、玉壺は小馬鹿にしたように口を開いた。
「どうです?毒で手足がじわじわと麻痺してきたのでは?
本当に滑稽だ。つまらない命を救って、つまらない場所で命を落とす」
その言葉に、一瞬動きを止めた無一郎。
……『つまらない命』その台詞が脳内で木霊する。
霞がかった記憶の中で、誰かに同じことを言われた気がすると考え込む。
『いてもいなくても変わらないような、つまらねぇ命なんだからよ』
〝……誰だ?……思い出せない〟
そんな風に、無一郎が物思いに耽っている間にも喋り続けている玉壺に、無一郎が口を開く。
「うるさい……つまらないのは君のお喋りだろ?」
そう呟いた次の瞬間、無一郎は鬼に向かって駆け出した。
すぐ様、それに気づいた茜が、その背に向かって手を伸ばすが……
「ま、待って無一郎君!!」
無情にも一瞬で離れて行ったその背中は、鬼の首に向かって、迷わず刀を振り抜いた。
「血鬼術
しかし首を捉えたかと思われた次の瞬間、玉壺は新たな壺を取り出して、無一郎を水の球体へと閉じ込めた。
それにはすかさず無一郎も、刀を一突きして反撃を繰り出すが、思ったよりも頑丈な水の膜は、柱の彼の技ですらびくともしない。
「窒息死は乙なものだ、美しい。そして頸に刃を当てられてヒヤリとする感じ……これはとてもいい……」
「っな、…無一郎君!!」
そんな彼の元へ慌てて駆け寄った茜が、手にしたクナイを振り上げれば、背後から頭がぐっと引っ張られる。
「痛ッ、……」
「さあ、貴方はどのような作品にして差し上げよう」
高い位置で結った髪束を鷲掴み、ニタリと口元を歪めた玉壺に、茜は振り向き様に迷う事なくクナイを振るう。
その切っ先はブチブチと鈍い音を立てながら、乱雑に茜の髪を切り捨てた。縛るものがなくなった髪紐は、重力に従い地面に落ちていく。
その瞬間、それまでニタニタと笑っていた筈の玉壺が、眉を吊り上げ怒り出す。
「髪を引きちぎるなんて、……折角の芸術がっ」
「何が芸術よっ!あんたの言う事全てが、気色悪い!!芸術家気取りもいい加減にして!!」
そう言って声を荒げた茜は、背後にチラリと視線をやる。
そこには必死に無一郎を助け出そうとしている小鉄の姿……、彼が水球に駆け寄るのを確認すると、茜は時間を稼ぐ為にと玉壺に向かって走り出した。
だが、その直後……
「ぐっ、……」
茜の腹部に鋭い痛みが走り、何をされたか確認する暇もなく、水が茜を包み込む。
無一郎同様に水の中に閉じ込められた茜の腹には、彼女が初め投げつけたクナイが、腹にめり込むほど深く突き刺さっていた。
なんとか止血を施そうにも、水の中では呼吸も上手く使えない。
どんどん赤く染まっていく球体に、玉壺はうっとりと目を細めた。
「水に広がっていくこの赤はなんとも美しい‥‥ヒョッヒョッ、作品名は〝血に溺れた鬼狩りの少女〟にしよう」
「茜さんっ!」
そう呟きながら、壺へと姿を消した玉壺は、どうやら鋼鐵塚達がいるであろう小屋の中へ消えていった。
「死なせない!!茜さん、時透さん頑張って!!絶対出すから!!俺が助けるから!!」
そんな中、空気が初めに尽きたのは先に技をかけられていた無一郎だった。抵抗することもなく、命を諦めようとする彼に、小鉄は必死で声をかける。
その背後に玉壺の金魚が迫っているのには気づきもしない……
水中から無一郎も必死で逃げろと呼びかけるが、その声は届く筈もなく、あっという間に小鉄は鳩尾へと攻撃を受ける。
「君じゃだめなんだ、どうしてわからない!君にできることはない!」
それを目にした無一郎が、小鉄も死んでしまうと悟っても尚、小鉄は無一郎を助けることを諦めなかった。
しかし、隊士でもない小鉄が、水の膜を取り去る術はない。
それでも!とよろよろと近付いた小鉄は、そっと水の膜に口をつけると、ブウ……っと空気を送り込む。
〝自分ではない誰かを救うため〟
……その思いが、無一郎ですら思いもよらぬ発想を生み出した。
無一郎の脳内で、炭治郎の姿をした幻覚が、そっと彼に語りかける。
『人は、自分ではない誰かのために信じられないような力を出せる生き物なんだよ?無一郎』
「……うん、知ってる」
それに頷いた無一郎は、刀を強く握りしめる。
「霞の呼吸 弐ノ型
小鉄から受け取った一息分の空気で放った技で、水の膜を切り裂いた無一郎は、そのまま茜を包む水にも切り掛かる。
「っ、……ごほっ、」
やっとの事で水から解放された茜は、ゲホゲホと激しく咳き込んで、地面にだらりと投げ出された。
〝……ここで意識を手放したら、戦いの邪魔になる〟
霞む意識を何とか呼び戻す茜だが……
彼女の腹部は赤黒く染まり、小さな血溜まりを作っていた。