第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小鉄の案内の元、鉄穴森と合流した無一郎は、彼らが指差す小屋の前でピタリとその歩みを止めた。
「良かった!!魚の化け物はいない!!あの小屋で作業してたんです。中には時透殿に渡す刀もあります。それを持ってすぐに里長の所へ向かってください」
「いや駄目だ」
それを他所に、小屋へと一目散に駆け寄ろうとしてた鉄穴森たちを、無一郎が少々手荒なやり方で制止する。
それには小鉄もすかさず反論するように声を荒げたが、無一郎の一言で口を閉ざした。
「…‥来てる」
そう言って小屋を睨みつけた無一郎に、二人が不思議そうに首を傾げていれば、小屋の影から気味の悪い顔が現れる。
その先を目で追うと、にょろりと出てきた体は壺へと繋がっていて……益々、不気味なものに思えた。
そしてその額には〝上弦〟の文字ー……
二人が冷や汗を流し始める中、鬼は楽しそうに話し出す。
「よくぞ気づいたなあ。さては貴様、柱ではないか。
そんなにこのあばら屋が大切かえ?こそこそと何をしているのだろうな」
だが、話しかけられた無一郎はというと、全く興味がないのだろう。上弦を前にしても驚くこともせず、冷たい視線を送っている。
そんな三人を前に、ニタニタと笑みを浮かべた上弦はぺこりと軽く御辞儀をし、饒舌に語り始めた。
「ヒョッヒョッ…初めまして、私は玉壺と申す者。殺す前に少々よろしいか?」
嬉しそうに目を細めた後、作品を観てもらいたいと続けた玉壺に、無一郎が何を言っているのかと問いただす。
すると、待っていましたとでも言いたげに、玉壺はパンパンと手を叩き……
「ではまずこちら〝鍛人の断末魔〟でございます」
そう言って、直ぐそばの壺から酷い姿となった里の者達を出現させた。
「っ金剛寺殿……、鉄尾さん…、鉄池さんっ、鋼太郎」
「ああぁぁ……、鉄広叔父さんっ」
余りの衝撃に、鉄穴森と小鉄は思わず息を呑む。
そんな二人の姿に、玉壺は高らかに笑い声を上げ、更なる残忍さを見せる。
「そう!!おっしゃる通り!!この作品には五人の刀鍛冶を贅沢に!!ふんだんに使っているのですよ!それほど感動して頂けるとは!!そして極めつけはこれ……」
そう言って、玉壺が彼らに突き刺さる刀をぐにゃりと捻り上げれば、仲間の口からは悍ましい悲鳴が漏れる。
まだ辛うじて息の根がある者がいるのだろうが……
それにしたって、こんな状態の彼らを玩具のように扱うなんて、なんて
それを目にした小鉄は、涙を流しながら叔父に駆け寄ろうと手を伸ばし、それを必死で宥める鉄穴森もまた、怒りと悲しみで声を震わせた。
そんな中、無一郎がピシャリと言い放つ。
「おい、いい加減にしろよ糞野郎が」
そして、刀を振り抜こうとした瞬間ー……
今正に玉壺がいたであろう場所目掛けて、黒い何かが飛んできた。
瞬時に壺の中へと身を隠した玉壺に、それが当たる事はなかったが、
「ほう、女子の隊士とは珍しい……是非とも私の作品に加えよう!!」
姿を消したその瞬間、ドスッと音を立てて背後の木に突き刺さったそれは、よく見ればクナイだった。
そして直ぐ後に木々の間から姿を現した茜に、玉壺が嬉しそうに目を細める。
「茜さんっ、よくご無事で……」
「小鉄君……鉄穴森さんと一緒に身を隠して」
そんな会話をしている合間にも、茜の直ぐ横に壺が出現する。
それに飛び退いて距離を取ろうとした茜の後ろにも壺が現れたのを確認して、小鉄が思わず声を上げれば、そのたった一瞬の間に無一郎が鬼の壺を叩き割る。
そのまま屋根の上まで逃げた玉壺を追いかけ、無一郎が飛び上がると、それまで陽気に話していた玉壺が眉を吊り上げ言い放つ。
「よくも斬りましたね……私の壺を……芸術を!!審美眼のない猿が!!」
そして、額に青筋を浮かべた玉壺は壺から金魚を出現させた。
当然ただの金魚ではないと隊士二人は身構えたが……
「千本針 魚殺!!」
無一郎に……、
そしてその後直ぐに鉄穴森と小鉄の二人に、無数の針が襲いかかる。
それにいち早く気づいた茜が、彼らを庇うように身を滑り込ませれば、そんな三人の前に既のところで無一郎が駆けつける。
「刀を持たないなら足手纏いだよ……邪魔だから隠れておいて」
幾らかは防いだようだが、茜達を庇った無一郎の顔のあちこちには防ぎきれなかった針が無数に刺さって痛々しい。
だが、それらを気にせず再び駆け出したその背中に、茜は思わず手を伸ばす。
「……ま、待って無一郎君!!」
伸ばされたその手は届くこともなく、小さな背中は、あっという間に遠ざかっていった。