第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小鉄と並んで歩く茜は、ふと違和感を感じて歩みを止めた。
まさか此処は人里離れた隠れ里の筈。幾ら鬼が活動する夜の時間帯だろうと、隊士にすら居場所を隠しているこの里が簡単にバレる筈もない。
それなのに何故こんなに胸騒ぎを覚えるのだろう。
「茜さん、どうかしたんですか?」
「……いや、なんか今」
その時、微かに聞こえた爆発音に、茜は開きかけていた口を閉じ、今まさに歩いてきた道を振り返る。
その様子に、小鉄は不思議そうに首を傾げるばかり。
……一体どうしたというのだろう。
そんな事を思いながら、ふと道の先を眺めていれば、見覚えのない壺が置いてある事に気がついた。
「あれ?あんなところに壺なんて置いてあったかな?」
「………壺?」
それに吸い寄せられるように近づいていく小鉄に茜が気づいたその瞬間、壺が不自然に揺れたのを茜は視界の端に捉えた。
「待って、小鉄君!!」
瞬時に駆け出した茜は、隊服に忍び込ませたクナイを取り出し、小鉄の体を突き飛ばす。
「痛ッ、何するん、です……か」
不自然に途切れた言葉に応える事もなく、茜は必死に声を荒げた。
「小鉄君、走って!!……誰か呼んできて!!何でもいいから、日輪刀持ってきて!!」
「……茜さん、…でもっ、」
「いいから、早く行って!!」
先程小鉄が近づいた壺からは、見たこともない魚の顔をした化け物が飛び出してきていた。
それとクナイを片手に応戦する茜が、振り返る事なく続けた言葉。その余裕のなさが、彼女の置かれた状況を物語っているようだった。
「でも、茜さん……刀もないのに、」
そんな危機的状況に小鉄が一瞬たじろいでいれば、それにチラリと視線を寄越した茜は小さく口元に弧を描く。
「大丈夫。私これでも結構強いから、時間くらい稼げるよ?それに此処だけじゃないかも……もしも里全体が襲われてるなら助けに行かなきゃ!!だから、お願い。何でもいいから刀を貰ってきて!!」
「は、はい!!」
その言葉に、今度こそ大きく頷いた小鉄は、なりふり構わず走り出す。
それを見送った茜は、ふっと小さく笑みを漏らすと、困ったように眉を下げた。
「……って言っても、刀なしじゃっ、…結構キツイかも!!」
そんな弱音を吐きながらも、クナイでなんとか攻撃を受け流した茜は、鬼から一旦距離を取る。
茜はクナイを相手に向かって投げる鍛錬は積んでいても、それを使って斬りかかるなんて鍛錬はしたことも無い。
それに加えて、常備しているクナイは三本。しのぶに貰った毒も、今は一本分の小瓶しか残っていない。
「ははっ、……これは、また実弥さんからお説教かなぁ……本当に、もう!勘弁してよ!!」
そんな言葉を吐きながら、茜は再び鬼へと駆け出すのだった。
******
一方、茜と別れ、必死で助けを呼びに行った小鉄もまた、
「うわぁぁぁ、来るなぁぁ!!」
森の中で、再び鬼に遭遇していた。
先程、偶然発見した鉄穴森に事情を説明しようとしたところ、再び鬼に襲われて、彼とも離れ離れになってしまったのだ。
〝このままじゃ……、茜さんに刀を届けに行かないと行けないのに……〟
「ギャッ」
ついに化け物に体を掴まれ、小鉄は短い悲鳴を漏らした。
目の前に迫る化け物に、小鉄が顔を真っ青にしながら死を悟った瞬間、突然木々の合間から見知った青年が顔を覗かせた。
「邪魔になるから、さっさと逃げてくれない?」
それに小鉄が驚く暇もなく、瞬く間に、化け物の首を斬り落とした無一郎は、勢いそのまま壺を破壊して見せた。
「うわあああ、ありがとう〜!!死んだと思った。俺、死んだと……怖かった、うわぁぁぁ〜。昆布頭とか言って悪かったよぅ……ごめんなさい〜!!」
「……昆布頭って僕のこと?」
「わぁぁん、すみませぇん。嫌いだったんです」
そんな無一郎に飛びつき、わんわんと涙を流す小鉄に、無一郎はキョトンと小首を傾げた。
しかし、次の瞬間には我に返り、小鉄に向かって口を開いた。
「こんなことしてる場合じゃないや。僕はもう行くから勝手にして」
「ま、待って!茜さんと、鉄穴森さんも襲われてるんです……鋼鐵塚さんが刀の再生で不眠不休の研磨をしてるから、……どうか助けてください。少しでも手を止めてしまうともう駄目なんです、どうか……」
「いや、僕は……」
そんな小鉄に、無一郎は断りを入れるつもりで口を開いた。
しかし、途中でふとお館様に言われた言葉を思い出し、無一郎は動きを止めた。
『君は必ず自分を取り戻せる、無一郎。混乱しているだろうが今はとにかく生きることだけ考えなさい、生きていればどうにかなる。
失った記憶は必ず戻る、心配いらない。きっかけを見落とさないことだ。ささいな事柄が始まりとなり君の頭の中の霞を鮮やかに晴らしてくれるよ?』
その言葉を思い出した無一郎は、開きかけた口を閉ざし、代わりに先程とは真逆の言葉を口にした。
「じゃあその、……茜?と、鉄穴森……と誰だったけ?その人のとこへ案内して?」
「あ、ありがとう〜〜!!茜さんには刀も必要なんです」
「……刀?その人、もしかして隊士なの?」
「はい。でも今は刀を打ち直してもらっている所で……」
ふぅ〜ん、まあいいや。そう言って口を開いた無一郎に、小鉄はあっちだと指を指す。
「まずは鉄穴森さんと鋼鐵塚さんを助けに行きましょう!!」
そう言って意気込んだ小鉄に、無一郎は無言でこくりと頷くと、ヒョイっと小鉄を肩に担いだ。
「……え?」
突然変わった視界に、小鉄が戸惑いの声を漏らしたと同時に、無一郎はものすごい勢いで走り出す。
うわあああぁぁぁ…ぁ………ぁ…………
彼らが通り過ぎた山道には、小鉄少年の怯えきった悲鳴が鳴り響いていた。