第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カァ〜ッ、カァ〜ッ
鎹鴉の鳴き声に茜がゆっくり顔を上げれば、任務を伝えに来たのだろう…… 茜の鴉が近づいてきた。
「茜、任務ッ!任務ッ!」
「はぁ〜……またなの椿〜っ?やっと長期任務が終わると思ったのに」
「残念ダッタナ、諦メロ……鬼ノ被害ガ出テイル、今カラ現地ニ迎エ!!至急迎エ!!早クシロ!!」
鴉にそう言われてしまっては、茜もそれに従うほかないのだが、せめてもの抵抗としてガクリと肩を落として見せた。
「分かったよ、椿……もうっ!分かったから突かないで!!」
「フンッ」
茜の鴉〝椿〟は、雌のくせに随分と口が悪く、気も強い。
普段から柱相手に伝言をよく託す茜にとっては、相手に気後れしない椿の性格に助かっていたりするのだが……些か乱暴すぎるのがたまに傷である。
はあ、と一つ大きなため息を吐いた茜は、椿に急かされながら新たな任務地へと歩みを進めるのだった。
******
それから更に一週間程経った頃、漸く茜は使い慣れた借家へと帰ってきていた。
「や、やっと終わった……長かった……」
そう口にした茜は、一ヶ月にも渡る長期任務から今の今、やっと帰宅しようというところで、自宅を視界に捉え珍しく情けない声を上げていた。
思えば今回の任務は一週間程の任務だと聞いて旅立ったというのに……
鬼を討ち取ってすぐに、近くで鬼を見かけたと早々に任務が入り、やっとの思いでその鬼を見つけ出し討ち取れば、今度は救援要請が入る。
その際駆けつけた先で怪我を負った隊士を藤の家まで運んでやれば、運悪くそこに居合わせた音柱に捕まって、何故か合同の任務についた。
まあ、雑魚鬼が群れを成していただけで合同任務もすぐに片付き漸く家に帰れると思いきや、またしても鬼の目撃情報が入ったのだ。
そして最後の任務を漸く終えて、茜はこうして帰路に着いたのだ。
さすがに一ヶ月もあらゆる場所を転々とし、中には宿にすら辿り着けず、藤の花のお香を焚き野営をしたりもしていた茜は、疲労困憊で呟いた。
「椿、………今日はもう任務はないよね?」
「安心シロッ、今日ハ……休ミダ」
………何、その間?
そう思って茜がじっと睨みつければ、椿は素知らぬ顔で飛びたった。その先を目で追った茜は、自宅前に見知った人影を見つけて驚いた。
「冨岡さん、こんにちは。こんな所で会うなんて奇遇ですね?」
「………ああ」
「あはは。実は此処が私の家なんです〜、……では冨岡さん失礼しますね」
相変わらず反応が薄い冨岡に、愛想笑いだけ浮かべた茜は早々に撤退を決めたようだ。
顔を見かければ「稽古をつけて欲しい」と付き纏う普段の茜とはかけ離れている行動だが、今回ばかりは仕方ない。それ程までに彼女の疲れはピークに達していた。
「槙野、今から少し大丈夫か?」
だが、そんな茜に対し、冨岡も普段と違った行動に出る。
なんと目の前を横ぎった彼女の腕を掴み、彼から話しかけてきたのだ。今日の彼はいつもと一味も二味も違っている、らしい……が
茜にしたら今日
疲労の所為で隠しきれていない表情のまま、茜は戸惑ったように口を開いた。
「冨岡さん、申し訳ないんですが……私一ヶ月にも及ぶ長期任務から、今帰ったばかりなんです」
「そうか。………胡蝶から聞いたんだが」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
何故か茜の話を無視して言葉を続ける冨岡に、慌てて静止の声を上げるが……なんだ?と逆に聞き返されてしまう。
「えっと、何って言うか?今日はその疲れてまして……」
「……そうか」
「あ、はい。すみません……」
「…………」
だが返事をしたものの、冨岡は此方を見つめたまま微動だにしない。それどころか何処かその視線が悲しげである。
それには、流石の茜も悪いことをしている気になってしまい、思わず再び声をかけてしまった。
「あ、あの。ちなみにご用件は何だったでしょう?」
その言葉にピクッと動きを見せた冨岡は、
「胡蝶から稽古をつけるように言われている。……屋敷まで着いてきてくれ」
彼女を絶望へと落としていった。
******
広い庭で向かい合って、竹刀を構える二人。
「いくぞ」
「………はい」
小さな声でつぶやいた茜は、竹刀を握りしめ、ため息を落とした。
〝……来てしまった。今すぐにでも休みたいのに……あぁ、あったかい布団で横になりたい〟
この場に立っているだけで、彼女の心はここに在らずである。
結局あの後、茜は断ることを諦めて、水柱邸へと足を運んでいた。冨岡は無言で歩き続け、屋敷に辿り着けば直ぐに竹刀を手渡してきた。
引き攣った笑みでそれを受け取った茜だが
「ぐはっ、……」
開始早々に鳩尾に激しい攻撃を喰らい伸びていた。
「……槙野?おい、槙野!!」
初めて聞く冨岡の大声を聴きながら、茜は完全に意識を手放すのであった……