第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
キャッキャッと浮かれ出す少年達に、茜は妖刀じゃないかと顔を青くして呟いた。
しかし、大興奮の彼らにはその言葉も届かぬようで、少なくとも三百年以上前の刀だと鼻息を荒くした小鉄は、その事実に軽く取り乱しながら、炭治郎へと口を開く。
「これ炭治郎さん貰っていいんじゃないでしょうか!?もももも、貰ってください、是非!!」
「ややややや、駄目でしょ!!」
それに炭治郎まで、吃りながら返事を返すものだから、側からみればかなり可笑しなやり取りである。
しかし、偶々居合わせた茜は茜で、未だに青褪めた顔で、触らない方が……呪いが……なんて呟いているのだから、それに突っ込む程の余裕を持ち合わせてはいなかった。
「今まで蓄積された剣戟があって、偶々俺の時に人形壊れただけだろうし、そんな……」
「炭治郎さん、ちょうど刀が打ってもらえず困ってたでしょ?いいですよ、持ち主の俺が言うんだし」
「そんな、そんな!!?君、そんな……」
「戦国の世の時代の鉄は凄く質がいいんです、貰っちゃいなよ」
「いいの!?いいの!!?」
その間にもどんどん話は進んでいき、最終的にはちょっと抜いてみます?と口にした小鉄に、炭治郎も好奇心が優ったようで、その提案に結局は頷いた。
その背後で、それはやめた方が…なんて呟いている茜は完全に置いてけぼりで、彼らはドキドキしながら、その刀を引き抜いた。
しかし、………
その刀はすでに錆びてしまっていた。
「……す、すみません。ぬか喜びさせて」
それには、すかさず小鉄も謝罪を口にしたのだが、気にしていないと返事を返す炭治郎は、明らかに無理をした笑顔だった。
「大丈夫、気にしてないよ……」
「うわぁぁあ、炭治郎さん!!炭治郎さ……ごめんね」
涙を流す炭治郎と、必死で謝り倒す小鉄……
そのやり取りに、漸く冷静さを取り戻し始めた茜は、彼らに向かって声をかけた。
「小鉄君も炭治郎君も、少し落ちついた、ら?
……ズン、 ズン、 ズン、
な、何……?ってギャァァー!!出たぁー!!」
だがその瞬間、茜の背後から軽い地響きと共に現れたひょっとこのお面に、茜は大きく飛び退いた。
ヤダヤダヤダー、何あれ!!怖いー!!完全にパニックに陥っている茜は、炭治郎に抱きつきながら恐怖に顔を歪めていたが、
「話は聞かせてもらった、後は任せろ」
その男がいきなり炭治郎から刀を持ち去ろうとした為、茜はパチクリと瞬きをした。
突然現れたムキムキなひょっとこに驚きはしたものの、炭治郎や小鉄はどうやら彼を知っているようで「鋼鐵塚さん」と何度も名前を呼んでいる。
そんな男は、二人から説明を求められても「俺に任せろ」の一点張り。碌な説明もないまま、無理やり刀を奪いにかかるものだから、茜はどうしたものかと、呆然とそのやり取りを見つめていた。
「少年たちよ、鋼鐵塚さんの急所は脇です」
しかし、そこに突然鉄穴森が現れて、その男の脇をくすぐっていく。すると先程までの横暴が嘘のように、身を捩りながらぎゃはは!と叫び声を上げた男は、その後暫くぐったりしていた。
「鉄穴森さんお久しぶりです。」
「ああ、茜さんじゃないですか!随分とご無沙汰しております」
そんな中、茜は漸く見知った人物の登場にほっと胸を撫で下ろす。
「……新しい日輪刀、遅れてしまってすみません」
「いえ、元はと言えば私が折ってしまったのが原因なので……」
そう言って頭を下げた鉄穴森に、茜は怪我の療養も兼ねて来ているから時間は大丈夫だと眉を下げる。それと同時に、例の厄介な刀鍛冶がこの鋼鐵塚と言う男だと理解した茜は、鉄穴森がし始めた説明に黙って耳を傾ける。
「炭治郎さん、鋼鐵塚さんを許してやってくださいね?山籠もりで修行していたんですよ。君を死なせないようもっと強い刀を作るために……、素直に言わないけれどね」
「俺のため……」
「君はずっと鋼鐵塚さんに刀をお願いしてるでしょう?嬉しかったんだと思いますよ、この人剣士さんに嫌われて担当外されること多かったから」
そして漸く炭治郎の担当の刀鍛冶だと気づいた茜は無意識に口元に弧を描く。
〝優しくて素直な炭治郎君だからこそ、こうして皆に愛されるんだろうな……〟
そんなことを考えながら、嬉しそうに目を細めていれば、いつの間にやら復活した鋼鐵塚が再び同じ言葉を口にした。
「この錆びた刀は俺が預かる……鋼鐵塚家に伝わる日輪刀研磨術で見事磨き上げてしんぜよう」
「ふっ、ふふ……」
「「「……?」」」
その言葉に思わず茜が笑みを漏らせば、皆は不思議そうに首を傾げる。それに再びクスリと笑いかけた茜は、炭治郎に優しく声をかけた。
「炭治郎君の担当の刀鍛冶さんは、全然厄介な人じゃなかったのね?ふふっ、ごめんなさい」
「え?……い、いえ!」
「それどころか、私たちのような隊士の為にここまで努力してくれる素敵な人だったんだもの!!きっと素敵な刀が出来上がるわね?」
そう言って可愛らしく笑った茜に、その場の者はほんのり頬を赤く染めた。
そして、それはあの刀しか興味がないと思われた鋼鐵塚も同じだったようで、ズカズカと茜に近づいた彼は震える声で問いかけた。
「お、お前……名前は?」
「え?……ああ、すみません。挨拶がまだでしたね!私、炭治郎君と仲良くさせて貰ってます、槙野 茜です。」
それにペコリと頭を下げ、炭治郎君のこと、宜しくお願いしますね?と続けた茜に、彼は思いもよらぬ言葉を口にする。
「茜……お前の刀もこの俺が打ってやる」
「「「……え!!?」」」
それには、茜以外の三人が驚いたように声を上げたのだが、当の本人はキョトンとした表情を浮かべた後……
「へ?あ〜……、ありがとうございます。でも大丈夫です!私の担当の鉄穴森さんも、素晴らしい刀鍛冶さんなので!!」
ピシャリと断りを入れた彼女に、鋼鐵塚は何〜!?と鉄穴森を睨みつける。
しかし、突然茜から褒められた鉄穴森が嬉しそうに頭を掻いているのを確認すると、ムキーッと鼻息を荒くして八つ当たりするかのように炭治郎から刀を奪い取り、また地響きのような足音を立て去って行く。
「では茜さん、数日中には刀をお作り致しますので…私はこれで」
「はい、すみません。宜しくお願いします」
それを鉄穴森が追うように駆け出していけば、その背を見送った茜が、くるりと振り返り口を開く。
「良かったね、炭治郎君!刀用意して貰えるって」
そう言って呑気に笑った茜を前に、残された少年二人は何故か顔を見合わせて、曖昧な笑みを浮かべるのだった。