第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ふん、ふん、ふ〜ん♪」
刀鍛冶の里に着いた翌日、長に教えて貰った温泉へと、茜は呑気に鼻歌を口ずさみながら歩いていた。
「怪我も帳消し、秘湯の湯ぅ〜〜♪性格の歪みにも効くらしい〜〜♪」
上機嫌で腕をぶんぶんと振り回す茜は、今頃置き手紙を発見して、怒り狂っているだろう実弥の姿を想像して、くすくすと笑みを漏らしていた。
……骨折していようが、物だって普通に運べるし、家事だって普段通りにこなす事も出来る。それなのに、あの兄弟子ときたら、頑なに何もやらせてくれないものだから、この数日間、茜はとても窮屈な思いをしていたのだ。
これくらいの我儘は、許して欲しいものである。
しかし、茜は全く気づいていないのだが、実弥も実弥で、何を言っても言う事を聞かない茜の対応には、心底手を焼いていた。
叱っても駄目、稽古なんてつけようものなら喜び出してしまうような茜の態度に、……だったら何もさせないのが、一番効果的ではないかと思い至った実弥の考えが、今回は正解だったという事だ。
……勿論、それが原因で茜が屋敷を飛び出すところ迄は予想していなかったのだが。
とまぁ、そんな事など全く知らない茜は、実弥の監視から逃れた解放感で、えらく上機嫌になっていた。
それはもう、周りなんてお構いなしで、鼻歌を口ずさんでしまう程には。
だから……
だ……だ…だ、だ、だ、だだだだッ
「茜ちゃーーん、久しぶりっ!!」
「へぶっ、」
ものすごい勢いで、背後から迫ってきた蜜璃の存在に全く気づく事もなく、いきなり飛びつかれた茜からは、蛙がつぶれたような声が飛び出した。
「…み、蜜璃ちゃん!?」
驚きながら振り返った茜を、蜜璃はキャッ、キャッと興奮した状態で力一杯抱きしめた。ご丁寧に、豊満な胸を押し付けて。
それには、同性である茜も思わず頬を染めたのだが、いかんせん息が出来ず、すぐに顔を青ざめ始める。必死で蜜璃の腕をトントンと叩き、漸く解放された時には、ゼーゼーと必死で息を吸い込んだ。
そんな茜の様子などお構いなしで、蜜璃はニコニコと満面の笑みを浮かべて口を開いた。
「茜ちゃんがいるって聞いて、飛んできちゃった。今から温泉に行くところ?一緒に行ってもいいかしら〜?」
「………蜜璃ちゃん、一瞬お花畑が見えたよ」
「え?お花畑?どこ?どこにあるの?」
「……いや、うん。こっちの話……それより温泉楽しみだなー、あはは」
見当違いの返答に、茜が思わず苦笑いを浮かべていれば、
「茜ちゃんは、ここの温泉初めてかしら?と〜っても気持ちがいいのよ」
そう言って、可愛らしく小首を傾げた蜜璃の言葉に、当初の目的を思い出す。
〝早く怪我を治して、任務復帰しなきゃだなぁ〟
そう自分を鼓舞させて、茜は再び温泉を目指し、意気揚々と歩みを進めるのだった。
******
「それで、不死川さんとの暮らしはどうなの!!?」
「暮らしって……別に普通だよ?」
あの後、無事に温泉にたどり着いた二人は、仲良くお湯に浸かりながら、話に花を咲かせていた。
というのも、以前蝶屋敷に見舞いに来てもらって以来、二人は久々に顔を合わしたのだ。時折、鴉を使っての手紙のやりとりはあったものの、先日、茜が柱補佐に就任した際も鴉伝いの連絡だった。その為、顔を合わしたのは、実に五ヶ月ぶりだったのだ。
そんな蜜璃は、お湯に浸かるなり「聞きたいことが沢山あるの!」と興奮ぎみで口を開き、茜が実弥の継ぐ子になってからの生活を、根掘り葉掘り質問してきた。
「え、でもでも!!あの不死川さんが、茜ちゃんの為にご飯を作ってくれるのよね!?」
「……そうだけど、それは私が怪我をしたからで……それに、ああ見えて、実弥さんは家事が得意なの」
「そうなのね〜!茜ちゃんの為に家事をこなす不死川さん…‥素敵だわぁ!!」
「だから違うってー!!ふふっ、もう蜜璃ちゃんたらっ」
キャーキャー言いながら、頬を染める蜜璃に対し、茜もなんだかんだと楽しそうに頬を緩めた。
そんな茜を眺めながら、蜜璃はずっと思っていた事を、少し戸惑いながらも、ここぞとばかりに聞いてみた。
「……茜ちゃんは、不死川さんのことが……好き、なのよね?」
「うん、そうだけど?」
「……え?……ええ!?そうなの!!?そうよね!!そうだと思ったの!!」
自分で聞いておきながら、驚いたように声を上げた蜜璃に、茜はくすくすと笑みを溢す。
そんな茜の様子に、蜜璃は、ぽぽっと頬を染めると、大興奮で口を開いた。
「私ずっと思ってたの!!不死川さんと茜ちゃんがお似合いだって!!」
「ふふっ、そうかな?ありがとう」
「それで、もう想いは伝えたの?もしかして、もう恋仲なのかしら!!?」
そう言って詰め寄る蜜璃に、茜は曖昧に笑みを浮かべた。
「想いは伝える気はないの。まぁ、それらしい事は仄めかしちゃったりもしたんだけどね?」
「え……でも、」
その言葉に、自分の事のようにシュンと落ち込み始めた蜜璃の姿に、茜は小さく笑みを浮かべた。
「だけどね?私、今がとても幸せなの。……私なんかまだまだだけど、やっと実弥さんの力になれる所まで来れたの」
「茜ちゃん」
「実弥さんの隣に立てる事が、とっても嬉しい」
蜜璃が思う、男女の関係とは少し違うが……
優しく笑いかける茜が、本当に幸せそうに笑うものだから、蜜璃も釣られて笑みをこぼした。
「やっぱりお似合いだと思うわぁ」
「ふふ、ありがとう蜜璃ちゃん」
その後、恋の話に盛り上がりすぎた二人が、長湯のしすぎでのぼせてしまったのは……言うまでもない。