第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
茜が、隠に折れた日輪刀を手渡してから、四日ー……。
「では、これから刀鍛冶の里までご案内致します」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた隠に、茜はへにゃりと笑みを浮かべた。
******
先日の任務で刀を折られ、自身の利き腕にも怪我を負ってしまった茜は、実弥から事あるごとに過保護な叱言を受けていた。
「お前は何やってやがんだ、コラァ……稽古は怪我を治してからだろうがァ」
「……す、すみません」
そんな言葉から始まったお叱りは、まだまだ序章に過ぎなかった。それから半刻、昼飯の準備の為に左腕で米を研ぐ茜を前に、実弥は眉を吊り上げた。
「おい茜!!お前なァ、怪我人の癖に何してやがる?飯くらい俺がやるっつってんだろうがァ」
「……これくらい大丈夫ですよ」
「あァァ?まだ腕すらまともに動かせらんねェ奴が、何言ってやがる」
「………」
また翌る日は、右腕を添えながら、ほぼ左腕のみで洗濯を行なっていた茜に、実弥は慌てて駆け寄って来て声を荒げた。
「テメェェ、全然分かってねーじゃねェか!!」
「わっ、ちょっと実弥さん!洗濯くらい出来ますから!!」
「チッ、もうお前は何もすんなッ!!あんまり動き回るんじゃねェ!!んでもって、怪我を早く治せェ!!」
「えー………」
とまぁ、それ以外も多々あるが、日々の鍛錬だけでなく、炊事、洗濯といった雑務まで細部に渡り口出しする兄弟子に……茜は文字通り、あの日から何もさせて貰えずにいた。
因みに、折れてしまった骨は、まだまだ修復に時間がかかるが、パックリ切れてしまった傷口は、あの日の内に駆けつけた隠に縫ってもらったおかげで大事にも至らなかった。それでなくとも、左腕は普段通りの動きができるというのに、全く何もさせて貰えない。
それには、流石の茜もお手上げ状態に陥っている訳だが、かと言って、以前の様に蝶屋敷へと手伝いに行くのも、今は自殺行為である。
しのぶに背筋が凍る様な笑顔を向けられ、小言を淡々と吐き捨てられる。それだけならまだしも、下手をすれば無駄に痛い注射や、吐き気を催す程苦い薬を貰う羽目になるかもしれない。……想像するだけでゾッとして、茜は思わず口元を引き攣らせた。
兄弟子の目の届くところは駄目、蝶屋敷なんて以ての外。
……となれば、だ。
むむむ、と険しい表情で考え込んでいた茜は、何かを思いつたようにハッと顔を上げた。
〝新しく打ち直してもらう刀を、刀鍛冶の里まで取りに行くのはどうだろうか?……もしかして名案なんじゃない?〟
そんな事を考えていれば、以前、音柱邸で稽古をつけて貰った際に、宇髄と彼の嫁達が「刀鍛冶の里には、傷にいい温泉があるらしい」と話していたことも思い出す。
〝療養ついでに、刀を取りに行くんだもん!これなら、実弥さんも口出しできない筈っ!!〟
そう思い至った茜は、鎹鴉を呼びつけ、早速、刀鍛冶の里へ行く許可をお館様から取り付けた、という訳である。
******
そして場面は冒頭に戻る。
しかし、嬉しそうにする茜に対し、それを見つめる隠は何処か不安げな表情を浮かべていた。
「……あの、槙野様?」
「はい、何でしょう?」
「えっと、……大変申し上げにくいのですが、その……本当に、風柱様にお伝えしなくて宜しいのですか?」
「ああ、その事なら大丈夫ですよ?ちゃ〜んと、机の上に置き手紙を残しておきましたから」
ね?と可愛らしく小首を傾けた茜に、隠の後藤は〝それの何処が大丈夫なんだよ!!全然説得力ねェェわ!!〟と頭の中で突っ込みを入れた。
「じゃあ、後藤さん。よろしくお願いしますね?」
そんな後藤の思いになんて微塵も気がついていない茜は、にこりと笑った後、上機嫌で目隠しの布を頭に巻き付け始めた。それを視界に捉えた後藤は、明後日の方向を見上げ、参ったようにため息を漏らしたのだが……、
彼はすぐに思い至る。
今は屋敷にいない様だが、鬼よりも恐れられているあの風柱が、いつ帰って来るか分かりゃしない。こんな状況で鉢合わせになれば、此方までとばっちりを受ける事は間違いない、と……。
そして、鬼殺隊本部で、炭治郎や茜を怒鳴りつけた姿を間近で見ていた彼は、あの光景を思い出し、サーっと顔色を青くした。
「……さ、さあっ、槙野様先を急ぎましょう!!」
そう口を開くや否や、いそいそと茜を背に背負い走り始めた後藤に、茜は不思議そうに首を傾げた。
******
それから一時間程経った頃ー……
「おい茜!偶々おはぎが手に入ったから一緒に食うかァ?……って、何だこりゃァ?」
偶々…、なんて言いながら、本当はわざわざ並んで買って来た大好物のおはぎを片手に、上機嫌で帰宅した実弥は、机の上に置かれた紙に気がついた。
そして、それに目を通した瞬間、ワナワナと震え出し、突然怒鳴り声を上げた。
「……はぁぁー!?何がちょっと行って来ますだァ!!茜の野郎、ふざけやがってェェ!!」
そう。後藤の読み通り、勝手に刀鍛冶の里へと向かった茜に、実弥は完全にキレていた。
『実弥さんへ
傷の治りが良くなる温泉があると聞いたので、怪我の療養がてら、刀鍛冶の里までちょっと行って来ます。
茜』
たった今読み終えた手紙をぐしゃりと握りしめた実弥は、ドスの効いた低い声で呟いた。
「あの野郎ォ、帰って来たらタダじゃおかねェ……」
「あれ?後藤さんどうかしました?」
「……い、いえ。なんだか寒気がしただけで」
「え、大丈夫ですか?風邪ですかね?」
その念を、何故か彼女ではなく、彼女を連れ出した後藤だけが感じ取るかのように、顔を青ざめていたんだとか。