第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
柱の補佐となってからのこの二か月、茜はバタバタと慌ただしい日々を過ごしていた。
新たに任された管轄地区の警備、
家に帰って仮眠を取ると兄弟子からの過酷な稽古、
その間ながらに家事をこなし、
手が空く時間を見つけては蝶屋敷へと足を運んでいる。
「伊之助さんは、三日前に目を覚まされたのですが…」
「そう……炭治郎君は、まだ目が覚めないのね。とりあえず伊之助君に会いに行ってくるね!ありがとう、なほちゃん!」
あれからもう二か月も経つというのに、あの任務で重症を負った隊士達は、まだ蝶屋敷で怪我の療養中なのだ。
その為、吉原の任務を断った責任を、いまだに何処か感じている茜は、こうして足繁く蝶屋敷へと見舞いに訪れているという訳である。
……しかし、あの過保護な兄弟子がそれを黙っておく筈もなく、最初の頃はぶつぶつと小言を言われたものだ。
『それくらいでへばる隊士の事なんて、ほっとけェ…』
『あんまり後輩を甘やかすんじゃねーよォ。そんなんだから、ますます隊士の質が落ちていくんだろうがァ』
『……テメェが宇髄の任務に行かなかったから何だァ?終わった事をうじうじ考えるんじゃねェ』
そんな言葉は可愛いもので。この短期間で、幾らお叱りを受けたのだろうか……と頭を抱えるくらいには、彼から小言を言われている訳だ。
だが、実弥のそれを受けても尚、こうして忙しい時間の合間を縫って見舞いに行く茜に、最近は彼も何も言わなくなった。まぁ、呆れたような視線は送ってくるのだが……
因みに、数ヶ月前のあの日……
〝隣に立てて嬉しい〟と告白まがいの爆弾を落とした茜だが、それから特に何を言う事もない為、実弥とは相変わらずの毎日を送っている。
元々茜は、実弥とどうこうなりたいと思っていた訳じゃない。自分の事など二の次にしてしまう彼を支えたい、誰よりも幸せになって欲しいと思っているだけなのだ。
その為には、いつのまにか抱いた彼への恋心は邪魔なものでしかない。
そう思って、今まで蓋をしていた筈の感情が、あの時は……ついポロっと口から溢れてしまっただけなのだ。
だから、その事について触れる事もなければ、その後数日、何か言いたそうにしていた実弥にも、わざと気づかなかいフリをして過ごしていた訳である。
「……伊之助君、まだじっとしてないと駄目だよ」
もう何度も通い慣れた病室の扉を開けた茜は、呆れたように呟いた。
「ぬおっ!!茜、丁度いい所に来たな!!今から稽古をつけてくれっ!!今日こそ俺が勝つッ、なんたって上弦を倒した山の神だからな!!」
数日前まで素面で寝ているだけだった癖に、もう調子を取り戻したかのように、頭にトレードマークの被り物を被った伊之助が声を上げるものだから……
それに大きくため息を吐いた茜は、「はいはい、怪我が治ったら幾らでも」と苦笑いを浮かべながら相槌を打つ。
皆んなが目覚めたとして、……もしまた彼らに稽古をつけてやるなら、当分蝶屋敷と風柱邸を行き来する日が続きそうだ。
『あんまり後輩を甘やかすんじゃねーよォ』
脳内で兄弟子の一言が鳴り響き、茜は再びため息を落とした。
******
それからさらに数日後、茜の元に鴉を通じて、炭治郎が目を覚ましたとの一報が届いた。
しかし、それを受けて蝶屋敷へと駆け込んでくるかと思われた茜は、
「あーー、しのぶちゃんにも怒られちゃうかもなー……どうしようかなぁ」
その文を手に険しい表情を浮かべていた。
というのもー……
昨晩の警備の際、彼女は盛大なミスをやらかし、片腕を折る程の怪我を負っていたのだ。
昨晩彼女が出会したその鬼は、鎧のような体をしており、兎に角体が岩のように硬かった。
その癖、茜を見るなり「お、鬼狩りかぁ……?」なんて呟いたかと思えば、背を向け逃げ出すものだから、その首へ力任せの攻撃を打ち込んだのだ。
しかし、うまく首を捉えたかと思った攻撃も、身を丸めたその体に弾かれて……
同時にパキンと音を立てて折れた日輪刀と、それに驚き一瞬動きを止めた茜に、振り向き様に鬼からの一撃を食らったわけだ。
まぁ、その後は宇髄の嫁直伝のクナイの先端に、此れまたしのぶから頂戴した藤の花の毒を塗りたくり、何とか鬼にとどめを刺した訳だが……
勿論、逃げ出す鬼を前に完全に油断していた茜には、その後、……貴方は何処ぞの蛇柱様ですか?と思うほど、ネチネチと長い、実弥の説教が待ち受けていた。
これから刀も打ち直して貰わないといけないし、骨がくっつくまでは警備をするなとも怒られた訳だ。
ちなみに、幾ら何でも日輪刀なしで鬼と対峙するつもりもないのに……と、曖昧に頷いた茜に、その態度が癪に触った実弥が再び怒鳴り飛ばしたのにはー……
刀鍛冶の里まで刀を運ぶ為に呼び出された隠でさえも、顔を青ざめていた。
とまあ、これ以上聞きたくないほどに、お説教を受けた茜だが、これがしのぶの耳に入れば……いや、あの隠に怪我の原因を知られたのだ。あれ程までに隠が出入りする屋敷の主が知るのも、時間の問題である。
となれば、実弥以上に精神をやられるお叱りを受けるかもしれない。
……それは何としても阻止せねば!!
そう結論づけた茜は、自身の鴉を呼びつけて、炭治郎宛の文を託す。
『怪我の具合はどうかな?炭治郎君が目覚めたと、聞いて安心したよ。
私は野暮用ですぐには其方へ行けそうにないんだけど、無理はしないように、しっかり怪我を治してね?』
そう綴った文を手渡し、最後に鴉へと囁いた。
「……くれぐれも、しのぶちゃんに見つからないようにお願いね?」