第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
うねうねと、まさに蛇を思わせるような軌道を描くその剣術。
それに必死に食らいついた茜だったが、彼女の体はもうボロボロで……何度か攻撃をもろに食らった茜は、最後の打ち込みで道場の壁に激しく背中を打ちつけた。
そんな茜に対し、稽古をつけてやっている伊黒はいつも通りの涼しい表情で、彼女を上から見下しながら口を開いた。
「槙野、お前はそれでも甲の隊士か?……その程度の力量で、よく今まで生き残ってきたものだな」
痛たたた…と、その小言に対して気に留めることもなく立ち上がった茜は、ヨロヨロとした足取りで彼に近づき口を開いた。
「伊黒さん!最後の技、初めて見ましたっ!!あれはどうやってるんですか?うねうね〜って……本当に同じ竹刀ですか!?」
「…………」
「うーん、最後の攻撃にも辛うじて反応できた気がしたんですが……まだまだですよね。でも、何回か防げた攻撃もありましたよね!?今日の動きはどうでしたか!?」
体はボロボロで足取りも覚束ない癖に、キラキラとした表情で問いかけてくる茜に、伊黒は呆れたようにため息を吐いた。
「……お前の動きは無駄が多い。確かに何とか攻撃を防げていた時もあったようだが……防戦一方でどうする?そんな戦い方で鬼の首が斬れるのか?」
「た、確かに……」
「それにこの程度で体力が底を尽きてしまうようでは、まだまだ鍛錬が足りないんではないか?」
「ははっ、ほんと仰る通りです……」
そう言ってガクリと肩を落とした茜に、フンと鼻を鳴らしてみせた伊黒は、慣れた手つきで竹刀を拾い上げ背中を向けて歩き出す。
そんな彼の背中が遠ざかり茜が慌てたように動き出せば、二、三歩進んだ先で伊黒は徐に足を止めた。そして極端に小さな声で「だが、まぁ……最後の攻撃。空中で身を捻りながら避けた動きは、それなりだった」と呟くものだから、茜は再び目を輝かせた。
「本当ですか!?わぁ〜、伊黒さんに褒めて貰えるなんて、夢みたいです!!」
「調子に乗るな。それに褒めたわけじゃない。それなりと言っただけで、まだまだ改善しなければいけない事ばかりだろう」
「はーい!!分かってまーす!!」
スタスタと歩く伊黒に続き、ニコニコと笑みを浮かべた茜がその背を追いかけ走り出し、後ろ手に道場の扉を閉めた。
******
「で、今日は何の情報だ?」
「えっとですね〜……」
そう言って懐から手帳を取り出した茜は、ペラペラとページを捲りながら口を開いた。
「この間新しい定食屋が出来たとかで、そこのカツ丼がとても美味しいと言っていました。」
「成る程……場所は把握してるのか?」
横目でじっと此方を伺う伊黒に、茜は口角を上げた。そして手帳から一枚、ページを破った彼女は満面の笑みで口を開く。
「勿論ですっ!!抜かりありません!!」
それにはご丁寧に店の名前から番地。更には周辺の地図が書かれており、受け取った伊黒もそれに目を通して
「……よくやった」
小さく労いの言葉をかけた。
普段はツンケンしている彼だが、色事になるととても臆病になってしまうのを知っている茜は、嬉しそうに目を細めた。
「ああ、そういえば……靴下すごく喜んでましたよ?嬉しそうに〝伊黒さんに貰ったの〟って、蜜璃ちゃん自慢してましたから!」
「……そうか」
それにふっ、と小さく笑みを漏らした伊黒は珍しく今日は機嫌がいいようだ。
いつもなら稽古が終われば、蜜璃の行きたい店や興味のあるものなどの情報を聞き出し、さっさと茜を追い出してしまうのに……
「……それで、
「そう、ですね……どちらかが折れるまでは変わりませんよ。………と言っても、私は鬼殺隊を辞める気なんてさらさらありませんから、和解するのは難しいかもしれないですね」
今日の彼はいつもと違い、どうやら茜とお喋りをするつもりのようだ。
そんな彼に〝お前達〟と言われただけで、誰の事かを理解した茜は困ったように眉を下げる。
「……不死川もこんな妹弟子がいれば、心配くらいするだろう。そんなに気に病む必要はないのではないか?」
そう言ったっきり、伊黒は口を開かなくなったが、茜には彼の優しさが充分に伝わっていた。そしてそんな彼の気持ちに同調する様に、首元の鏑丸も身を乗り出し擦り寄って来るものだから、茜は思わず笑みを溢す。
「じゃあ、心配されないように強くならないといけないですね……という事で、また暇な時は稽古をつけて下さいね?」
「………そうやってすぐに調子に乗るな。それは、情報を得てからの報酬だろう」
悪戯に呟いたその言葉に、伊黒が呆れたように返事をするものだから……
「ふふっ、はーい!」
茜は楽しそうに返事をするのだった。