第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「では、茜には……柱の補佐をお願い出来ないかな?」
「補、佐……?」
そう口にして笑いかけた耀哉を前に、茜はピタリと動きを止めた。
「…補佐と言っても、そんなに難しい事ではないんだよ?茜も既に周知のように、先の任務で柱の席は空席となってしまってね。それを穴埋めするには今の柱達だけでは、負担が大きくなってしまうんだ」
「……それは…理解できますが……具体的には、私は何をしたらいいのでしょう?」
「茜には、柱達の手が回らない地域での、夜の警備をお願いしたい。それから、他の柱達とも密に連絡を取り合って、今後また上弦との戦いが起きた際には、互いに協力して欲しいんだ。……きっと今回の事で、鬼達の動きも激しくなるからね」
……お願いできるかな?そう続けた耀哉の言葉に、彼の奥方やご子息の視線が、自然と茜に集まった。
それに暫し考え込むような素振りを見せた茜が、漸く口を開こうとした瞬間、彼女よりも先に、再び実弥が口を開いた。
「お館様っ、……例えお館様のご命令とあっても、それには納得できません」
そう言って顔をぐしゃりと歪めた実弥は、無意識に、自身の拳を、血が滲むほどに握りしめた。
……いくら尊敬しているお館様からの頼みであろうと、茜を今よりも危険に晒すような立場に立たせるなんて、実弥にとっては論外だった。
そもそも、数ヶ月前に死にかけた茜を、こうして自分の継ぐ子にしたのだって、彼女が死なないように…、これ以上傷つかないように…、自分の手で鍛え上げてやるしかないとの苦渋の決断だった。
今だって、隊士を辞めて親元で幸せに暮らせるなら、………それに越した事はないとすら思っている。
それがまさか、柱の補佐。しかも補佐とは名ばかりの、煉獄や宇髄の抜けた穴埋めを……柱と代わらぬ危険な立場に、茜を置こうだなんて……。そんな話、実弥には納得できる筈もないのだ。
「すまない……勿論、実弥の気持ちは理解しているつもりだよ?」
「でしたらっ、「でもね?誰かがやらなければ、立ちあがらなければ、鬼の被害は収まらないだろう?」
お館様の言葉は、確かに正論……ではあるだろう。だが、茜がその為に犠牲になる必要はない筈だと、それでも実弥は耀哉に食ってかかる。
「こいつが補佐になんてならなくても、俺が代わりに警備の範囲を「このお話、お受けします」
「なっ!お前っ、……何勝手なこと抜かしてやがる!!自分が言っている意味を理解してんのかァァ!?」
険しい表情で、言葉を続けていた実弥だったが、それを遮るように茜が耀哉に頷いて見せた為、お館様の前だと言うのも忘れて、実弥は茜を怒鳴りつけた。
だが実弥に怒鳴られる事になんて慣れっこの彼女は、然程驚く事もなく、けろっとした表情で「分かっていますよ?」なんて口にした。
「私は柱の皆さんに、強くなる為に今まで散々、稽古をつけて貰っていたんです。……やっと皆さんの為に、こんな私ができる事を見つけたんです。」
「………」
「実弥さんが言う通り、実力不足は否めないかもしれないけど、………それでも、こんな私でも皆の力になれるなら、私は喜んで補佐になりますよ」
実弥をまっすぐ見据えて、そう口を開いた茜に、それ以上彼が言葉を返す事はなかった。
それには耀哉も困ったように眉を下げたが、「では茜、頼んだよ」と最終的に、実弥が一番望んではいなかった決定を下し、今日の処はお開きとなった。
******
本部からの帰り道ーー、
日は沈みかけ、これから二人は、各々に任された任務地へと向かう、そんな道中でー……、
チラリと先を行く兄弟子の背中を見つめ、茜は小さくため息を吐いた。
〝…‥怒ってる、よね。絶対………〟
あれから、完全に口を閉ざしてしまった実弥に、なんて言葉をかければいいかと、茜は頭を悩ませていた。
しかし、きっと今何か言った所で、喧嘩になってしまうのは目に見えているだろう。そう考えた茜は、このまま任務地まで向かう旨だけ伝えて、とっととこの場を去る事にした。
「実弥さん、私はこのまま東に「おい、」
「……はい」
しかし、すぐに実弥に呼びかけられて、茜は内心びくつきながら返事をした。
それからピタリと歩みを止めた実弥に習って、茜も自ずと足を止め、彼の背中を不安げに見つめる。
「……お前まで、こっちに来る必要はなかったんじゃねーかァ……補佐なんて名ばかりだろうがッ。今まで以上に危険が伴う任務に着くかも知んねーのに、嬉しそうにしやがってェェ……」
振り返る事なく、そう小さく吐き捨てた実弥に、茜は困ったように眉を下げた。
いつだって、自分を犠牲にして……、自分を悪者にしてまでも、彼は必死で茜を守ろうとしてくれたのだ。それは、彼を近くで見てきた茜が一番知っている。
〝本当に、なんて不器用で……優しい人なんだろう〟
自分の為に心を痛めているであろうその背中を見つめ、茜は小さく呟いた。
「‥‥嬉しいんです」
「アァ?」
すみません……なんて、いつもの様に返ってくると思っていた実弥は、茜の予想外の言葉を聞いて振り返る。
すると、睨みつけるつもりで見つめた相手が、それは嬉しそうに笑いかけるものだから、実弥は一瞬ポカンと口を開けた。
「私、嬉しいんです。……強くなって、隣に立ちたかった人がいるんです。支えて上げたい、幸せになって欲しい人が…」
「……」
「その人、何でも自分でやろうとして、いつも無茶ばかりで。平気で傷だって増やしてくるんです……その癖、人の事ばかり気にかけて、私には〝隊士を辞めろ〟だなんて言うんですよ?……もっと自分を大切にして欲しいのに、参っちゃいますよね」
そう言ってふわりと笑った茜は、「やっと隣に立てるのが嬉しいんです」と言葉を続けた。
それに、暫しの間、間抜けにも口を開けたままだった実弥は、気まずそうに頭をガシガシと掻いた後、小さな声で呟いた。
「……そんな奴の為に、何無茶してやがんだァ」
「ふふっ、無茶はお互い様ですから」
ドギマギし出した実弥に、クスクスと可愛らしく笑みを溢した茜は、それ以上彼に何を言う事もなく、
「では、私は任務で東に向かいます。実弥さんも、気をつけて」
そう一言言い残し、颯爽と彼に背を向け走り出す。
その背中を見つめ、真っ赤な顔で頭を掻き乱す実弥の姿は、普段の彼とは、随分かけ離れたものだった。