第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
日も傾き始めた夕暮れ時ー……。
茜は、鎹鴉からの伝達を受け、鬼殺隊本部へと訪れていた。
その後ろには、今回呼び出しこそ個別に受けてはいないが、彼女を心配してついて来た実弥がおり、そんな二人を出迎えたあまねは、深く頭を下げて口を開いた。
「槙野様、不死川様、お待ちしておりました。急なお呼び立てを申し訳御座いません。」
「いえ、これぐらい大した事では……あまね様、頭を上げてください」
そんな彼女に、茜が慌てて声をかければ、眉を下げて美しい笑みを落としたあまねは、再び徐に口を開いた。
「ありがとうございます。……お館様がお待ちです。どうぞ此方へ…」
そう言ってくるりと向きを変えた彼女が、ゆっくりと歩みを進めれば、二人は神妙な面持ちを浮かべながら、黙ってその後ろを着いていく。
宇髄達による上弦の陸討伐の知らせから、たった数時間足らずでの呼び出しに、実弥は嫌な予感がしていた。
煉獄に続き、宇髄までもが隊士を引退するとなれば、必然的に柱の席が空いてしまう。
〝この状況で茜を呼び出す理由なんて………〟
脳裏にチラつく最悪の展開に、実弥は険しい表情を浮かべ、先をいく茜の背中を見つめるのだった。
******
それから暫く、長い廊下を進んだ先で、あまねがぴたりと足を止め、襖の奥へと声をかけた。
「お館様、槙野様と不死川様をお連れ致しました」
「……ありがとう、… 茜、実弥…入っておいで……」
部屋の中からかかった声は、いつも通りの、穏やかで優しい声だが、普段より弱々しくも感じられる。
それに少し戸惑いながらも、茜はスッと背筋を伸ばし、徐に襖に手をかけた。
「…二人とも……よく来てくれたね……」
その襖の奥、優しく目を細めて笑う耀哉の姿に、二人は悲しそうに眉を下げた。
「この様な姿で、すまないね…… 茜と実弥の顔を見て話したいから、…今日はこのままで失礼するよっ……」
その言葉を口にするや、軽く咳き込んだ耀哉を、彼の娘達が甲斐甲斐しくその背をさすってやる。
それから漸く呼吸が整った耀哉は、娘達に支えられながら、茜達に向かって口を開いた。
「茜、‥‥まずは大怪我を負っても尚、再び隊士として任務に戻ってくれた事……感謝するよ」
「い、いえ。感謝だなんて……それに、あの任務では…私は何も出来ませんでしたから」
「そんな事はない筈だよ?…… 茜だけじゃない。炭治郎や伊之助、善逸も……皆が力を出し合ったからこそ、被害はとどめられたんだ」
「………はい」
「杏寿郎は凄い子だからね。茜が杏寿郎の影を追うのは当然かもしれない……そう心配していたんだが、茜は茜の意思でこうして再び戻ってくれた……それが何よりも嬉しいんだ」
「……お館様」
耀哉の言葉に、思わず弱音を漏らしそうな口元を噛み締めた茜に、彼は、杏寿郎も今の茜を見れば安心するだろうね?なんて笑いかけた。
そして口を閉ざした茜に対し、耀哉は、優しい声色で言葉を続けた。
「今日はね、……茜にお願いがあって来て貰ったんだ」
その一言に、お願い……?とだけ呟いて、彼を見つめた茜の表情は、少し険しいものだった。
それに穏やかな笑みで頷いた耀哉が、再び口を開きかけた時、今まで口を閉ざし、二人のやり取りを傍観していた実弥が声を上げた。
「お館様、差し出がましいとは思いますがっ、…… 茜は、風柱の継ぐ子として強く育てて行くつもりです。柱がかけてしまったからと言って、実力不足の茜を当てがうのはァっ、……得策ではないと思います」
「……実弥」
彼を慕っているからこそ、実弥は普段よりも歯切れ悪く、言葉を濁す。
しかし、実弥の予想が正しければ、彼は茜を柱へと押し上げようとするのではないか……と。それだけは……、 茜を危険な場所へ放り込むようなことだけは、幾ら尊敬するお館様の指示だろうと、頷く事は出来ないのだ。
そんな実弥の思いに気づいているのか、眉を下げた耀哉は、優しい口調で……、だけどしっかりとそれに応えていく。
「茜の実力については、何も心配していないよ。……そもそも茜は、十二鬼月を倒している実績があるからね?」
「っ、しかし……」
「それから茜の事を、……実弥が師として支えてくれたのだろう?…継ぐ子になったと聞いた時は、安心したんだよ?」
ありがとう、実弥……と続けた耀哉の言葉に、どう返事をするべきかと悩んだ実弥は、その言葉に曖昧に頷いた。
それに、優しく笑いかけた耀哉は、今度こそ茜に向かって問いかけた。
「茜?……以前、茜に柱をお願いした時を…覚えているかな?」
「………はい」
「あの時茜は、〝風柱はもう既にいるから〟と言っていただろう?……それは今も変わらないし、… 茜の師範は凄い子だからね。これからも…実弥が鬼殺隊を率いてくれる事には、変わりないだろうね?」
「……そう、だと思います」
彼が言わんとする事が理解できず、茜は戸惑いながらも呟いた。
そんな茜に、笑みを深くした耀哉は、彼女が予想していたものとは違う提案を口にした。
「では、茜には……柱の補佐をお願い出来ないかな?」
「補、佐……?」
その一言に顎に手を置き、動きを止めた茜に対し、実弥は苦しそうに顔を歪める。
……補佐とはどの様なものかは知らないが、今より危険が伴う立場となるだろう事は明らかである。
状況が状況な為、下手な言い訳も出来ない現状に、実弥は苦虫を噛み潰したように、ぐっと眉間に皺を寄せ、隣で未だに考え込む、茜を心配そうに見つめるのであったー……。