第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
茜が実弥の継ぐ子になって、早三ヶ月。
体の調子も完全に取り戻した茜は、以前にも増して任務に打ち込むようになっていた。
「オラァ!どうしたァァ、茜!!……こんな攻撃も防げねェから、一ヶ月半も寝込むんだろうがァ!!」
「うっ……もう!痛いとこっ、ついて来ないで下さい、よっと!!」
そして任務をこなした翌朝は、こうして早朝から実弥による、激しい打ち込み稽古をひたすらにこなす毎日を送っていた。
茜が実弥の継ぐ子になったからといって、柱とそれに継ぐ甲の実力を持った二人が、合同で毎回同じ任務に着くはずもなく、彼女が死なない為にと、実弥の稽古にも自然と熱が入っていく。
毎度の事だが、全力で茜を吹っ飛ばし、早く体制を立て直せと今日も茜に喝を入れる。
「チッ。今のは、踏み込みが甘いだろうがァァ!!ふざけてんのかテメェェ……」
「ぎゃーー!!危なっ!!……これでも、こっちは必死なの!!……っあ、」
その瞬間バキッ、と鈍い音を立てて折れた竹刀は、もう何本目なのだろう……。
だが、それをポイッと放り投げた茜は、ニヤリと怪しく笑みを浮かべた。そして、何を思ったのかそのまま丸腰で真っ正面から突っ込んでいく。
そんな茜を、奇異な目で見ていた実弥は、呆れたように丸腰の茜に向かって竹刀を振り抜いたのだがー……、
ヒュンッ!
次の瞬間、風を斬る音のみがその場に響いた。
その直後、ガクン…と足に感じた衝撃に、実弥は眉間に皺を寄せる。
〝糞、……油断したッ〟
実弥の一撃を、足元まで一気に屈んで避けた茜が、そのまま実弥の足を払い除けていたのだ。
それには流石の実弥も驚き悔しそうに顔を歪ませたのだが、直ぐに思考を巡らせて次の一手へと動き出す。
倒れかかる体を、片手をつき、体を捻りながら体制を整える。風を斬るような音ともに、素早く臨戦態勢に入った実弥に、茜は勢いよく足を振り上げた。
「食らえ!宇髄さんの奥さん直伝っ、回し蹴り!!」
「…チッ、調子にのるんじゃねェェ!!」
………パシッ、
だが、蹴り上げた筈の足を掴まれて、茜は思わず悔しそうに顔を歪めた。
しかし、その体制のまま何故か実弥は動きを止めた。それどころか、何処か一点を見つめて、眉間に皺を寄せた実弥に、茜がその視線の先を追えばー……、
「槙野、今のは惜しかったなー?中々、悪くない動きだった」
「え!?宇髄さん!?」
「よお、不死川!!槙野!!」
何故か人様の屋根の上で、足に肩肘をついてこちらを眺めている宇髄の姿があった。
「チッ。……テメェ、人の屋敷の屋根で何してやがる」
「いや、槙野がお前んとこの継ぐ子になったって聞いたからな、少し偵察をと思ったんだが……なんだお前ら。甘い朝でも過ごしているかと思えば、こんな早朝から鍛錬か」
「……うるせェッ!ほっとけ!!」
キャンキャンと噛み付くように声を荒げた実弥の横で、「‥‥…甘い朝」なんて呟いて苦笑いを浮かべた茜に、宇髄はほっと肩を撫で下ろす。
今まで何度となく稽古をつけてやった少女が、目の前で仲間を失い、自らの命も危機に瀕していると聞いた時は、心配こそしていたが……
「宇髄さん、久しぶりですねっ!!雛鶴さん達は元気ですか?」
にこにこと笑顔で聞いてくる茜の姿に、宇髄は小さく笑みをこぼした。
「おう!今嫁達は、任務先に潜入してもらっているところだ」
「‥‥潜入?……それって、大丈夫なんですか?」
その一言に、分かりやすく顔を歪めた茜は、むむっと暫く考え込む。
「で?偵察どうこうで来たわけじゃねェーだろ。要件は何だァ?」
それを視界に捉えながら、実弥が徐に口を開けば、宇髄は漸く本題を口にした。
「用事があんのはお前じゃねーよ!……おい、槙野!お前、今日はまだ任務は入ってないか?」
「え、ああ、はい……まだ、こんな時間ですし」
「なら丁度いい。女の隊士が必要だったんだわ!!お前、これから一緒に来い!!」
「はい、分かりまし「ちょっと待てェ…」
とんとん拍子で会話は進み、任務への同行を了承しかけた茜だったが、そばでそれを聞いていた実弥が、険しい表情を浮かべて言葉を遮った。
「……おい宇髄、なんで女の隊士が必要なんだァ?」
「あ?……鬼がいるだろう場所に潜入するには、女の方が都合がいいんだよ」
「女の方が都合がいい場所だと……それは何処だァ?」
「……何処だっていいだろ?」
「何処だって聞いてんだァァァ!!」
「チッ、……吉原だ」
「ア?」
「だァーッ!もう面倒くせェッ……遊郭だよ、吉原遊郭!!っくそ、時間がねェーんだよ!!槙野借りてくぞ」
「……っんな所に行かせる訳ねェーだろうがァ!!馬鹿か、テメェェッ!!他を当たれ、他をっ!!」
任務地を聞いた途端、実弥が怒鳴り出した為、宇髄はガシガシ頭を掻きながら面倒臭そうに呟いた。
「まぁ、そうなるわなー……」
「分かってんなら最初から来んじゃねェェ!!」
「まぁ、今回はしょうがねェーな……諦めるわ!!」
「……当たり前だッ」
そう言って、スタッと立ち上がった宇髄の様子に、茜は遠慮がちに問いかける。
「…‥宇髄さん、その、…大丈夫ですか?どうしてもって言うなら、私「テメェは黙ってろ!!」
茜の言葉を遮るように、遊郭がどんな場所か知ってんのかァァ!?なんて、ぶつぶつと苦言を漏らす実弥に、宇髄は呆れたような視線を送る。
それから心配そうに此方を見つめる茜に向かい、ニカッと笑って見せた宇髄は、片手を上げて唾を返す。
「他にも当てがあるからな、安心しろ!!じゃあなー槙野!!」
そう一言言い残し、一瞬で姿を消した宇髄に、茜はキョトンと首を傾げた。
〝他にも当てがあるって……だったら、何しに来たんだろう……〟
「オラ、再開するぞォ……早く竹刀を持ってこい」
「はーーい」
実弥に声をかけられて、今の今まで考えていた疑問を、頭の片隅に追いやった茜は、竹刀を構えて走り出す。
「風の呼吸 陸ノ型
「……だからっ、踏み込みが甘ェェ!!」
「ギャーーッ、怖っ!容赦ないッ!!」
……しかし、茜が思う以上に宇髄が置かれた状況は深刻だった。
潜入している嫁達からの連絡は途絶え、
頼みの綱でもある茜も連れ出すことに失敗した彼が、
「キャーー、人攫いです」
「………うるせぇな、黙っとけ!!」
まさかその足で、蝶屋敷へと乗り込んでいるだなんて、茜は全く想像すらしていないのだった。