第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……あれから、………あの任務から、私、どれくらい寝ていました?」
困ったように眉を下げ、彼女の口からぽつりと落とされたその言葉は、まるでこれから告げられる事を理解しているかのような口ぶりだった。
茜があの任務の事を何処まで覚えているのかは分からないが、……彼女が兄のように慕っていた煉獄が、命を落としたその事実を、どう伝えるべきだろう。
…‥どう伝えたって、茜が傷つくのは目に見えていて、彼女を伺うように実弥はいつもより優しい声色で声をかけた。
「………二週間近くになるが………体はァ?…、ひでェ傷だったようだが痛みはねェのかァ?」
「……痛まないわけではないですが、あの時よりずっとマシです。きっと皆で看病してくれたのでしょうね?…‥風柱様にもご心配をおかけしました」
「んなこたァ、どうでもいいがァ……お前、そのなんだァ……大丈夫なのか?」
……何が、とは、いつも喧嘩口調の実弥ですら、茜を前に怖気付いて言えなかった。
怪我も心に負った傷も、すべてを気にかける言葉ではあったのだが、自分で言っておいて、もっとましな言い回しが出来ねえのか……と実弥は思わずため息を吐きたくなってしまう。
だが、そんな実弥の思いとは裏腹に、茜は困ったように笑みを浮かべ、明るい声で口を開いた。
「私なら大丈夫です!こんな傷すぐに治して、任務に復帰して見せますから」
「あァ?そんな事聞いてんじゃねェよ、俺はただァ……お前が…っ、」
「私が?」
なんです?なんて笑いかける茜に、実弥はぐっと眉間に皺を寄せた。
「……お前がっ、……あァァァー糞っ、……まわりくどい言い方は出来ねェから単刀直入に言うが、煉獄の事……お前あんまり自分を責めんじゃねェぞ」
そう言って、乱暴に茜の頭を撫でつけた実弥に、茜は乾いた笑みを落とした。
「ハハ……ッ、おかしなこと言わないで下さいよ……。あの時、私がもっと強ければ煉獄さんを失わずに済んだ筈です」
「……それは「それに!!………それに、私が足を引っ張ったんです。私を上弦から守るために、煉獄さんは……っ、……私は煉獄さんに守られたんです。私は何もできなかった」
「………」
「だから、……出来なかったからこそ、今度こそは私があいつを殺します。煉獄さんの仇は私が必ず取ります。」
今にも泣き出しそうな程、声は震えているというのに、茜は明るく努めるように、顔には笑みを張り付けている。
そんな明らかに強がってみせる茜の態度に、実弥は思わず語尾を強めた。
「お前は、もう戦わなくていいだろうがァ……お前は充分戦って来た、こんな怪我まで負って……もう戦場に戻る必要はねェ!煉獄も敵討ちなんて望んじゃいねェ」
「………そんなの、風柱様には関係ないでしょ?」
「チッ、お前なァ……いい加減にしろよ!!」
体だけじゃない。心までがボロボロになっても、戦いから身をひこうとしない茜に、実弥は時間も忘れて怒鳴り声を上げた。
「お前にはまだ、娘の無事を願う両親がいるだろうが!!茜が隊士を辞めたって、誰もお前を責めたりしねェェ」
「………できるわけないでしょ?」
「あァ?」
「そんな事、出来るわけない!!」
隊士を辞めろだなんて、今まで何度だって言ってきた。その度に、辞めるわけないでしょ?とその言葉を軽く流してきた茜が……
瞳に涙を溜めながら、ポツリ、ポツリと、その思いを初めて口にした。
「…‥だって、私は知ってしまったから。どうやって鬼が命を、……大切な仲間を奪っていくか知ってしまった。私だけ見ないふりは出来ないよ……私には仲間を守る為の力がある」
「…… 茜がやらなくても、俺がお前の代わりに鬼はぶっ殺してやらァ」
そう言い切ってみせても、茜がそれに頷く事は決してなかった。涙を必死に堪え、見上げてくる茜を前に、遂には実弥もポロっと小さく本音を漏らす。
「……もう、茜が傷つくのは見たくねェんだよ」
しん……と一瞬静まりかえった病室に、
「それは私も同じだよ」
茜の呟きがポトリと落ちる。
「私だって風柱様が傷つくのを見たくない……出来る事なら側にいて支えたい、一緒に戦いたい」
「………」
「煉獄さんにも言われたの。支えるべき相手は誰だって……彼を信じて、迷わず進めって。……最後に言葉を残してくれた。だから、私は決めたの。風柱様に何と言われようが、隊士は辞めない!!」
そう言って、へにゃりと下手くそな笑みを浮かべた茜に、実弥は小さく呟いた。
「……お前、どうしたって隊士を辞める気はねェのかァ?」
「うん」
「また怪我をするかも、……いつか死ぬかもしれねェのに、か?」
「うん、絶対に辞めない」
迷いなく頷く茜を見て、実弥は大きくため息を吐く。そして、乱暴に茜の頭を撫でつけると、自身の胸元にその頭を押し当てた。
「わっ、とと何す「一度しか言わねぇから、よく聞けェ………」
突然抱き寄せられて驚いた茜だったが、戸惑いながらも、じっとその言葉に耳を傾けた。
「本当は隊士を辞めさせてェし、怪我なんて持っての他だァ……だけど、お前は言うことをろくに聞こうともしやしねェ………だから、俺がお前を死なねぇように鍛えてやる」
「え、それって……」
「……茜、俺の継ぐ子になるかァ?」
その言葉に、パッと顔を上げた茜は、先程まで堪えていたのは嘘のように、ぼろぼろと涙を流して大きく頷いた。
「うん、…う…んっ、継ぐ子に…して下さいっ、」
「……たくっ、こんな事で泣くんじゃねェ」
そう言って、ぽんぽんと背中を優しく叩いてくる実弥に、だって〜……と茜はわんわんと縋り付くように泣き声を上げた。
それに小さく実弥が笑えば、すかさず笑わないで!と茜に突っ込まれて、ますます声を上げて笑ってしまう。
いつぶりだろうか。……いや、茜が隊士になって初めてかもしれない。
そんな穏やかな空気が二人を包んでいたのだが、早朝から騒ぎすぎていたのだろう。
「不死川さん、茜さんが起きられたのなら、声をかけて貰わないと困りますよ?それに怪我人相手に怒鳴りつけるなんて……」
額に青筋を浮かべたしのぶに、ぶつぶつと小言を言われたのはすぐ後の出来事である。