第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まだ夜も開け切らない頃。
茜は、合同任務で怪我を負った隊士と共に蝶屋敷へとやってきていた。
「しのぶちゃーん、いつもの分けてください」
「……もうですか?不死川さんにも困ったものですね」
「そうなんだよ。あの人、会うたびに傷を増やしててさっ!!ほんとっ、呆れちゃうよね!?」
「ふふ、でも茜さんがこうして見ておいてくれるので、此方としては安心です」
そう言ってふわりと笑ったしのぶは「準備してきますね」と言って、部屋を出て行った。
その背中を見送った茜は、今頃帰路についているだろう男を思い、小さなため息を落とした。
******
今日の任務はとても重労働だった。
厄介な血鬼術によって、わんさか鬼の分身は出てくるし、怪我を負った隊士を庇いながら戦うのは骨が折れる。正直、今すぐ家に帰って体を休めたいと思っていたりもする……
のだが、そんな事は大した事ではない。
今回の鬼だって、どうせ朝まで攻撃を凌げばいいだけの事だったし、それまでに実弥が首を斬れば終わる話だった。
最初からそのつもりで、実弥の背中を送り出したというのに……
〝殺〟を掲げた彼の背中を思い出し、またしても茜はため息を一つ落とす。
あんなに早く鬼が消えた状況からして、彼がまた自分を犠牲にして鬼を討ち取ったのは間違い無いだろう。
稀血だかなんだか知らないが、会う度に傷を増やしている実弥の姿に、茜は毎回胸を痛めていた。それに何の痩せ我慢か知らないが、彼は傷の手当てすら適当なのだ。
何度しのぶが「怪我を負ったら蝶屋敷に来るように」と口を酸っぱくして言ったところで、実弥が自分から足を運ぶはずもなく。
せめて自分で応急処置が出来る様にと、こうして茜が定期的にしのぶの元を訪れては、薬を届けてやっているのだ。
……と言っても、実弥から頼まれた訳でもなければ、お礼を言われた事もない。受け取ってすら貰えない可能性もある為、茜はいつも勝手に風柱邸の玄関にぽいっと、それらを置いてきているだけなのだ。
まあ、いくらなんでも、それを捨てたりはしないだろうが、手当てをしているかどうかは、怪しいところである。……あわよくば〝塗り薬くらいは塗っておいてくれたらいいな〜〟と茜が考えた所で部屋の扉が静かに開き、包帯や塗り薬を持ったしのぶが顔を出した。
「あらあら。そんなに険しい顔をして、考え事ですか?」
それに曖昧に笑ってみせた茜は、しのぶが手にした容器に目を向けた。薄紫の液体が、振動に合わせて容器の中でチャプンと揺れるのを眺めた茜は、一瞬にして目を輝かせた。
「しのぶちゃん、それって……」
「あら、気づきましたか?茜さんに頼まれていた、鬼に効く毒ですよ?」
駆け寄ってきた茜に、しのぶは思わず笑みを漏らす。
「この毒単体でも扱い易い様に改良しておきました。ところで、この毒はどうするんですか?」
「あー……実はまだ練習中なんだけどね?宇髄さんの奥さん達からクナイの扱い方を教えてもらっているの。それにしのぶちゃんの毒を合わせれば遠距離の鬼にも対応出来るかなって」
「なるほど、それはいい考えかもしれませんね。……それにしても茜さんは宇髄さんの奥様達からも稽古をつけて貰っているのですか?」
その返答に、しのぶは呆れた様に問いかけた。
******
茜が柱達に稽古をつけて貰っている事は、柱合会議で皆が集待った際に、雑談としてたまに上がる話だ。
大抵は宇髄が実弥を揶揄って「お前んとこの妹弟子は、本当にじゃじゃ馬だな!」と話し出すのがオチなのだが……
面白半分で稽古をつける宇髄や、後輩思いの煉獄や悲鳴嶼、先輩である茜に懐いている蜜璃はまだしも、あの伊黒でさえ稽古を偶につけているらしい。
「柱に好き好んで稽古をつけてもらう隊士なんて、茜さんくらいではないですか?」
そうやって口を開いたしのぶだが、そんな彼女もまた時折、茜に稽古をつけてやっている。それは単に打ち込みの時もあれば、機能回復訓練の応用だったり、ただ単に技の相談に乗ったり……さまざまである。
「だって、強くなる為にはより強い人に教えを乞うのが一番でしょう?……でも冨岡さんと時透君にはまだ稽古をつけて貰えてないの。」
「あら、そうなんですか。時透君に関しては、まぁなんとなく分かりますが…… 茜さんのしつこい懇願を、あの冨岡さんが断りきれるんですか?」
「………しのぶちゃん。そんな可愛い顔して、相変わらず毒舌なんだから」
そう言ってじと目で見てくる茜に、しのぶはクスクスと可愛らしく笑みを漏らす。
「すみません。ではお詫びと言っては何ですが、冨岡さんには私から口添えをしておきましょう」
「へ?そんな事できるの!?」
「ふふ、いい考えがあるんですよ」
なんだか黒い笑みを浮かべるしのぶに、その考えは何なんだ……とは思ってみたものの、口に出さずに大人しく頷いてみせる。
そして、もう一度しのぶに礼を口にした茜は、彼女が用意してくれた薬達を風呂敷に包み込み、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「しのぶちゃん、そろそろ行くね!ありがとう!」
「はい、お気をつけて。ああ、それから」
玄関へと歩き出そうとした茜の背中に、しのぶが声をかける。それに振り返った茜は
「冨岡さんの件はお任せ下さい。………不死川さんに早く認めて貰えるといいですね」
思わず眉を下げて頷いた。