第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
すやすやと眠り続ける茜を見つめ、実弥は今日もため息を漏らす。
あの日……、
茜が怪我を負ったと聞かされたあの日から、もう既に二週間余りの時間が過ぎた。
血の気が失せて、あんなに青白い顔をしていた茜も、この二週間である程度の傷も癒え、顔色も随分良くなったように思う。
それに加えて茜が眠り続ける間、屋敷の娘達が髪を洗ってやったり、体を拭いて、服を着替えさせて……甲斐甲斐しく世話を焼いてくれているのだろう。
こうして穏やかな表情で目を閉じている茜は、本当にスヤスヤとただ眠っているだけのようにも思えてくる。
……もしかしたら、今、この瞬間にも目を覚まして「風柱様が何でここに?」なんて、呆れたように口を開くのではとすら思ってしまう程だ。
しかし、やはり二週間も飲まず食わずである為に、以前よりも幾分か痩せた茜の体と、腕から伸びる点滴の管が、実弥を現実へと引き戻す。
「いつまで寝てやがる……お前の長所は、寝起きがいい事じゃなかったのかァ……」
一人呟いたところで、それに返事は返ってくる筈もない。その事実にくしゃりと顔を歪めた実弥は、力なくふらりと立ち上がる。
「……また来る」
そう言って、茜の頭を優しく撫でた実弥は、今日もその足で夜の警備へと向かうのだった。
******
「貴様……稀血、マレチカッ…」
「だったらなんだァ?この
そう言って、己の腕を掲げた実弥は不敵に笑う。その腕から、ポタリとしたたり落ちた血が、地面を赤く汚していくが、そんな事など全く彼は気にしない。
鬼を仕留める為とはいえ、自傷行為を行う実弥を普段なら口うるさく言う相手がいるのだが、……咎める相手は、未だに眠ったままなのだ。勿論、屋敷の入り口に、傷薬を置いっていたのが茜だなんて事は、当に実弥も気づいている。
そんな茜が、……人のことばかりの妹弟子が、今この時も生死の境を彷徨っていようが、鬼による被害が止む訳でもない。
一分一秒だって、茜の側にいてやりたいと思うのに、そんなことすらも叶わない……いや、側にいた所で、自分に出来る事なんて何一つない。そんなやるせ無さを鬼にぶつけるかのように、実弥は刀を力強く振り抜いた。
「ブチ殺してやらァ!風の呼吸 玖ノ型
「キィ、ァア"ア"ーーーッ!!」
刹那、ごとりと首を斬り落とされた鬼が、断末魔を上げながら灰へと姿を変えていく。
その様を呆然と眺めながら、自身の腕から流れる血を乱暴に拭った実弥は、明け方近くの薄暗い闇の中、蝶屋敷へと向かって、再び足を進めるのだった。
******
蝶屋敷へと辿り着いた実弥は、慣れた様子で勝手に屋敷へと上がり込み、長い廊下を進んでいく。
皆が寝静まった屋敷を歩けば、茜の病室へとあっという間に辿り着く。その部屋の前で、ピタリと動きを止めた実弥は、小さくため息を一つ落とした。
〝茜がもう二度と目を覚まさなかったら……もしも、息を引き取っていたら?〟
柄にもなく、いつもこの瞬間は緊張してしまう。
そんなどうしようもない考えを落ち着かせるために、病室の前で実弥は再びため息を落とす。
「チッ、そんな玉じゃねェだろうがァ……」
そしてゆっくりと扉に手をかけて、開け放ったその先で、実弥は驚きに目を見開いた。
窓際の寝台の上、つい今朝方まで目を覚まさなかった茜が起き上がり、此方に背を向けるようにして、薄暗い外の景色を眺めていたからだ。
あまりの驚きに、一瞬、声をかけるのも忘れ、呆然とその背を眺めていた実弥だが、此方に気づいて振り返った茜の姿に、漸く我に帰り口を開く。
「お前っ、……起きて大丈夫なのか!?」
「風ばし、ッケホ……」
それに応えるように、茜は口を開いたのだが、長いこと何も通していない彼女の喉はカラカラだった。
ケホッ、ケホッと乾いた咳を繰り返す茜に、慌てて駆け寄った実弥は、寝台横に用意されていた水差しを、ゆっくりと彼女に飲ませてやる。
ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らしながら、水を飲み干す茜をそっと支え、実弥は何から声をかけるべきかと思案する。
しかし、彼が口を開くよりも先に、水を飲み終えた茜が静かに問いかけた。
「……あれから、………あの任務から、私、どれくらい寝ていました?」
そう言って実弥の顔を見上げた茜は、兄弟子の目の下にできたクマを見て、どれほど心配をかけてしまったのだろう……と、困ったように眉を下げた。