第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
実弥が蝶屋敷へと、血相を変えて駆け込んだのは、太陽が空高く登るお昼近くの事だった。
「茜っ、!!くそ、何処にいやがるっ……胡蝶、胡蝶はいるかァッ!!」
屋敷へと荒々しく上がり込んだ実弥は、廊下を駆け抜けながら扉という扉を開け放っていく。
「風柱様っ、落ち着いてください」
「きゃーーっ、しのぶ様ぁ〜〜」
それに駆けつけた屋敷の娘達が悲鳴を上げようと、お構いなしである。
そこへ、漸く姿を現したしのぶは、眉を下げながら静かに声をかけた。
「不死川さん、落ち着いて下さい」
「茜は、……あいつの容体はどうなんだっ!!?」
しのぶの姿を見るや否や、実弥は彼女に詰め寄るようにして怒鳴り散らす。それに悲しそうに目を伏せたしのぶは、取り乱す目の前の男に、冷静になるようにと口を開いた。
「……今貴方が取り乱したところで、茜さんの負った傷は治りませんよ?」
「クソッ、……」
「茜さんの病室まで案内します」
そう言って背を向けて歩き出したしのぶに従い、実弥も大股でズカズカと着いていく。
落ち着けと言われても、茜を見るまでは落ち着くことなど出来る筈もない。
鴉からの伝達……あの煉獄が命を落とし、茜も意識不明の重体と伝えたあのやり取りを思い出し、実弥は無意識に握りしめた拳に力を込めた。
******
暫くすると、しのぶがある部屋の前で振り返り、此処が茜さんの病室ですと口を開いた。
その扉の前で、思わず生唾を飲み込む実弥を気遣って、しのぶが代わりに扉を開けば、部屋の奥、窓辺の明るい場所に茜がぽつんと寝かされていた。
「茜さんの容体ですが、左肩の骨が砕かれ、背中には打ち付けたような大きな打撲の跡がありました。」
「っ、……」
しのぶの声を聞きながら、実弥が恐る恐る寝台に近寄れば、血の気の失せた青白い茜の寝顔に息を呑む。
「ですが、一番の問題は内臓の損傷です。折れた肋が臓器に刺さり、酷い出血状態でした。」
「……助かるのか?」
「結論から言えば、一命は取り留めました。しかし、血を失いすぎた為、茜さんがいつ目覚めるのか…‥本当に目を覚ますのか、どうかは……」
「っ、……」
「あの任務に居合わせた隊士の話では、左肩に力が入らない状況で、茜さんは上弦の鬼を追って、一人森へと入って行ったそうです。結果として鬼を取り逃し、煉獄さんを失った彼女は、煉獄さんの折れた刀を探して再び森へと戻って、隠が来るまで一人で泣いていた………不死川さん、茜さんが目を覚ましたとして、彼女はこの現実に耐えられるでしょうか」
「………」
「茜さんの目の前で、煉獄さんは命を落とした。それも彼女を守るように、その前に立ちはだかり、鬼に鳩尾を貫かれた……駆けつけた隠に刀を預けたのを最後に、茜さんは事きれたように気絶しました。」
「…… 茜が、……煉獄の死に耐えれるかどうかは二の次だァ……、目を覚ましてもらわねェと、そんな話にゃ意味ねェだろうがァ……」
「そう、ですね……こればかりは本人次第ですから」
言葉を選ぶように小さく呟いたしのぶに、実弥はチラリと視線を移す。
茜を見つめた後、悲しそうに目を伏せたしのぶからも、どうすることも出来ない事への悔しさが見て取れる。
〝糞がァ、……今更後悔したって遅いだろうがッ、茜を守ってやる事も出来ないで、……何が兄弟子だァ〟
青白い顔で眠り続ける茜を見つめ、実弥は何もしてやれない己の不甲斐なさに苛まれるのだった。
******
あれから一週間……
茜は未だに、目を覚さずに眠ったままでいる。
彼女が眠る間に、煉獄の葬儀も近親者のみで執り行われ、柱以外の一般の鬼殺隊士達にも、煉獄の訃報は知れ渡った。
それと同時に合同任務についた茜も未だ昏睡状態である事を知った隊士達が、連日のように蝶屋敷へと見舞いに訪れていた。
「チッ、……こんなところで油売ってる暇があるなら、鍛錬にあてやがれェ……」
「ヒィィィ、す、すみませんでしたーっ」
だが、そんな茜の側には、任務以外、片時も離れぬように実弥が居座り、こうして見舞いに訪れる隊士達に怒鳴り散らしていた。
それには流石のしのぶも額に青筋を浮かべて、少しは体を休めるようにと小言を漏らしているが、全くもって彼は聞き入れはしないのだ。
今日だって、明け方近くまで実弥は任務をこなしていた。少しでも早く茜の元へと戻る為、惜しみなく自身の腕を斬りつけて、鬼の首を斬る毎日……。その癖自分は碌に仮眠も取らず、そのまま茜の病室まで足を運んでいるのだ。
……気づけば、傷が増え、寝不足で顔色も悪い実弥を見れば、しのぶが怒るのも無理はない。
だが、それでも、それ以上しのぶが口を出さないのは、彼にとって茜がどれほど大切な存在であるかを知っているからなのである。
「……お前はいつまで寝てやがる、早く起きやがれェ」
先程の隊士が走り去り、静まり返った病室に、
実弥の小さな声がぽつりと響いていたー……。