第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝日が完全に登り切り、列車が脱線した惨状が遠目でもしっかり確認できるようになった頃ー……
「……茜さん、大丈夫ですか?今、蝶屋敷までお連れしますからっ、」
漸く訪れた隠達によって、茜達は応急処置を受けていた。
******
煉獄の最期を看取った彼らは、隠が駆けつけるまでの間、わんわんと大声を上げて泣き続けた。
炭治郎が、煉獄さんのようになれるのかな……っ、と弱音を漏らせば、ぼろぼろと被り物から涙を溢れさせた伊之助に叱咤される。それに戸惑いながらも突っ込みを入れた善逸が、伊之助から頭突きを食らう、その横で……
茜は、血だらけの右手を呆然と眺めていた。
〝己の弱さや不甲斐なさに、どれだけ打ちのめされようと心を燃やせ、歯を喰いしばって前を向け……君が足を止めて蹲っても、時間の流れは止まってくれない、共に寄り添って悲しんではくれない〟
目の前で仲間を失った時の悲しみを知っているからこそ、自分が死んだ後のことを思い、彼は最期に自分達に言葉を残してくれたー……
本当にどこまでも優しい、後輩思いの彼の姿に、茜はぐっと唇を噛み締めた。
そして、痛む体に鞭打って、ふらりとその場に立ち上がれば、善逸が心配そうに声をかけた。
「茜さん、……そんな怪我で、どこに行くんですか?」
「……煉獄さんの刀を探しに行ってくる。私の怪我なら大丈夫。………君達は医療班が到着するのをここで待って」
「で、でも……それなら俺が」
「ううん、私が行きたいの。……煉獄さんの遺した物は、千寿郎君に届けてあげたいから」
小さな声で呟いた茜は、ここをお願いね?と小さく笑うと、ふらふらと覚束ない足取りで、森の中へと歩いて行った。
******
薄暗い森をすすめば、周辺には薙ぎ倒された木々が散乱していた。
無我夢中で技を放った、
奴を決して逃してなるものかと全力で走った、
痛む体を無視して、
自分の持ちうる全ての力で……
必死でっ、あんなに必死にっ、奴とぶつかったのにー……
煉獄さんに守られた挙句、鬼にとどめを刺すことも出来ず、結局彼の命すらも救えなかったー……
思わず溢れ出しそうな涙を堪え、刀を探して辺りを見渡せば、少し先に、地面に転がる燃えるような紅を見つけた。
根本から折れてしまったその刀は、煉獄が最後の最後まで戦い続けたことを物語っていて、それに触れようと伸ばした自分の手の無力さをまじまじと思い知る。
「……煉獄さんっ、すみません………っ絶対、私が…‥仇を、討ちますっ………、」
我慢していた筈の涙が、呆気なく頬を伝い、無意識に拳を握り締めた。
強くなりたい、もう誰も失いたくないー……
隠が慌てた様子で駆けつけるまで、茜は一人、声を押し殺し、自分の不甲斐なさに、ただただ涙を流すのだった。
******
「ー……伝令、
炎柱 煉獄杏寿郎、上弦ノ参トノ戦闘ノ末、死亡。」
「……は?今何つったァ?」
朝日が登り、実弥が毎日の日課である鍛錬を庭で行なっていれば、自身の鴉が信じられない言伝を口にした。
「炎柱ノ煉獄杏寿郎、死亡。…尚、無限列車ノ乗客二百人ニ、命ノ別状ナシ」
そう言って静かに羽を閉じた鴉に、実弥は無意識に竹刀を持つ手に力を込めた。
「………醜い鬼どもは、俺が殲滅する」
そう吐き捨てた実弥は、正義感の強い、どこまでも真っ直ぐで誠実な同僚を思い浮かべる。
思えばあいつは、出会った時から変わらない。
初めて会った柱合会議では、父親に代わり自分が柱になると抜かしていたか……。それにはお館様の前にも関わらず、思わず殴りかかってしまった訳だが……君は熱い心を持っているとか、何とか、馬鹿真面目に受け止めた煉獄に、思わず毒気を吐かされた事を思い出す。
何に対しても馬鹿真面目で、こうと決めたらテコでも動かない強い心を持っていた。それでいて、誰にでも手を差し伸べる優しさを持ったあいつは、沢山の隊士から慕われていた。
あいつは、……煉獄はそう言う男だった。
だからこそ煉獄には、茜もよく懐いていた。暇さえあれば稽古をつけて貰っていたようだし、煉獄も茜を可愛がっているようだった。
……煉獄が死んだと知れば、茜はさぞかし悲しむ事だろう。
そんな事を考えて実弥が顔を歪めれば、鴉はじっと見つめた後、不安そうに瞳を揺らした。
「任務ニ同行シタ数名ノ隊士ガ、重症ニテ蝶屋敷ヘト運バレタ………、実弥モ急ゲ」
「あァ?なんで俺が行かなきゃならねェ……、って、おい待てェ……数名の隊士って、まさか」
その言葉に胸騒ぎを覚えた実弥が、勢いよく鴉を睨みつければ、鴉は遠慮がちに口を開いた。
「…… 茜ガ意識不明ノ重体ダ、急ゲ」
〝彼女が他の柱の継ぐ子になれば、今のように不死川と任務に着く事は格段に減るだろう。槙野が傷付かぬようにと守ってやる事も出来ない……人知れず涙を流す事にも気づかないだろう…… 〟
今さらになって、あの日の煉獄の言葉が蘇る。
〝もしかしたら、我らは今日にも命を散らすかも知れないのだぞ?もしも彼女の命に危機迫る時、……君はそれすらも知る事が出来ぬかも知れないという事を、きちんと理解しているのか?〟
まさか煉獄のその言葉が、こんなに直ぐに現実となるなんて、全く思ってもみなかったが……
〝……不死川、よく考えるといい!!〟
あの日、真剣な表情でそう問うてきた煉獄が、再び脳裏で口を開く。
〝槙野が君を待っているぞ!!〟
「チッ、糞がァァァ……っ、」
そう吐き捨てた実弥は、手にした竹刀を放り投げ、全速力で蝶屋敷へと駆け出すのだった。