第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……っ、炭治郎君、退いてっ!煉獄さん、すぐに手当てをっ……、」
ぼろぼろと涙を流す炭治郎の横に、慌てて駆け寄った茜は、膝をつくようにして座り込む煉獄を見て息を呑んだ。
潰れた左目は勿論、彼の体は至る所に傷を負っていて……
その中でも、体の中心に空いた風穴は、彼に確実に致命傷を負わせていた。
鬼の腕が消え、遮るものがなくなったその患部からは、とめどなく血が流れている。その血溜まりは、彼の足元にまで広がっていて、明らかに致死量を超えていた。
「っ、煉獄さん、とりあえず止血を……っ、」
その状態に、泣き出しそうになるのを必死に堪え、茜は羽織を脱ぎ捨てる。
ここまで来る間に、他の乗客の応急処置をしていた茜には、もう清潔な布さえ持ち合わせてはいない。
だが、そんな事に迷っている暇はない。早く止血しなければと、茜が自身の真っ白な羽織をその傷に押し当てれば、煉獄からはくぐもった声が漏れる。
「ぅぐっ、……槙野、もういいんだ……っ、それよりも、君の怪我をっ……「良くない!!……だ、大丈夫ですっ、……煉獄さんなら、呼吸で止血できるでしょう?」
そう言っている間にも、真っ白だった筈の羽織は、どんどん真っ赤に染まっていく。
「鴉を飛ばしました。すぐに救援が駆けつけます、煉獄さんは助かりますっ、」
「…… 槙野」
「だから、……だからっ!!……諦めないでっ、」
必死で泣くまいと堪えていた瞳から、ぼろぼろと涙が溢れ出す。彼の傷に押し当てた右手も、知らないうちに震えていて、ぎゅっと唇を噛み締めた。
本当は、分かっている。
頭では理解してしまったのだ。
彼の負った怪我は、もう手の施しようがないのも、それを悟っていて彼が言葉を残そうとしている事も……
全部、全部分かっている。
分かってしまった、
理解したくないのに、分かってしまったのだ。
……彼の命が終わりを迎えようとしている事に。
だけど、その事実を受け入れたくなくて、茜は必死で傷口を押さえ続けた。
そんな茜の姿に、眉を下げ困ったように小さく笑みを浮かべた煉獄は、最後の力を振り絞り、彼女の右手にそっと自身の手を置いた。
「槙野、もう……俺は助からないっ、……時期に死ぬ、」
「や、やだ!!煉獄さん、駄目ですっ、……だって、まだ……沢山稽古もつけて貰いたいっ、いっぱい…話だって、聞い…て、欲しい……まだ何も、……っ何も、恩を返してないのにっ、……」
「……槙野」
「……私を、……継ぐ子に、してっ……くれるんでしょうっ、?」
ぼろぼろと涙を流しながら、必死で言葉を紡ぐ茜の姿に、炭治郎や伊之助までもが声を殺して涙する。
そんな三人を見渡して、煉獄は静かに語りかける。
「……己の弱さや不甲斐なさに、どれだけ打ちのめされようと心を燃やせっ、歯を喰いしばって前を向け………君が足を止めて蹲っても…、時間の流れは止まってくれないっ、……共に寄り添って悲しんでくれない」
「……煉獄さんっ、」
「俺がここで死ぬことは気にするな、柱ならば後輩の盾となるのは当然だ……柱ならば誰であっても同じことをする。っ、…若い芽は摘ませない」
そこで言葉を区切った煉獄は、茜へと視線を移し、徐に言葉を続けた。
「継ぐ子にしてやれなくて、すまない……」
「そんな事っ、……」
「だが、槙野が支えたい相手は誰だ?本当に支えるべき相手は……もう分かっているだろう?………槙野、君なら、きっと大丈夫だっ、……彼を信じて、迷わず進めっ、……」
「……っ、」
「槙野……、それから竈門少年、猪頭少年、黄色い少年も、もっともっと成長しろ。そして、今度は君たちが……っ、鬼殺隊を支える柱となるのだ。
俺は信じる、君たちを信じる」
その言葉を最後に微笑む様に、穏やかな表情でゆっくりと瞳を閉じた煉獄に、茜は大きな声を上げ、泣き叫ぶ。
「っ、煉獄さん……ゃだっ、死んじゃ駄目っ!!お願い……っ、ぅう……目を、…目を開けてっ……」
彼の体に縋り付く様に、隊服を握りしめた茜は、目を瞑ったままの煉獄の胸元に額を押し当て涙する。
「煉獄さんっ、……煉獄、っさん……いやぁぁぁ……、」
そんな彼女の姿を眺め、煉獄の鎹鴉は薄らと瞳に涙を浮かべた。そして、ゆっくりと翼を拡げて、静かに明るい空へと飛び立った。
お館様や他の柱たちの元へ、
仲間の訃報を伝える為にー……