第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
車両を飛び出した瞬間、充満する重たい気配に茜は思わず舌打ちをした。
あちこちから感じる鬼の禍々しい殺気、こんな中で寝こけていたなんて……先輩として不甲斐ない。
一人、鬼と対峙しているであろう炭治郎と早く合流しなければと、茜が意識を巡らせれば、
「……なんか、こう………癪に触ってくる感じ」
微かに聞こえた笑い声ー……
「……上かっ、!」
その声を頼りに、列車の上に飛び乗れば、奇妙な姿の鬼が此方に背を向けていた。
「風の呼吸 伍ノ型
一瞬にも満たない速度で間合いを詰め、回転しながら茜が頸を斬りつければ、ごとりと音を立て呆気なく転がったそれは、すぐに肉片へと変わる。
まるで手応えのない感触に、思わず顔を顰めた茜は、慌てた様子で此方へと駆け寄ってきた炭治郎に問いかける。
「……炭治郎君、遅くなってごめん。あまり時間はないみたいだから、手短に状況を説明して!!」
「……は、はい!どうやら俺たちが血鬼術で眠らせられた間に、汽車全体が鬼と化したようです…… 茜さん、皆はまだ?」
「ええ、眠ったまま」
「ど、どうしたら……」
最悪の状況に顔を青褪めた炭治郎とは裏腹に、茜は冷静に口を開いた。
「炭治郎君!とりあえず二人では鬼の頸を探る余裕はない!乗客の命を最優先!!」
「は、はい!!」
「私は後方車両へと向かうから、此処はお願い!……その間に、眠りこけてる皆んなを叩き起こしてくる!!」
炭治郎を安心させる様に、にかっと笑った茜は、次の瞬間にはくるりと背を向け、物凄い勢いで車両の中へと飛び込んでいった。
******
列車の中は、炭治郎の説明通りの状態で、あちこちで肉片が今まさに乗客を飲み込もうと蠢いていた。
「……チッ!もう、気持ち悪すぎよっ!!」
そんな中を、茜は悪態をつきながら全速力で駆け抜けていた。行く先々で触手を刻み、邪魔な扉をぶった斬り、後方の車両へと歩みを進める。
すると見知った気配が近づいてきて、茜は思わず笑みを浮かべた。
「煉獄さん……あんなにお弁当を食べるから、寝過ごしてしまうんですよ?」
「よもや、よもやだ…… 槙野にそう言われてしまっては師範失格だな!!」
漸く起きたと思ったら、まだ継ぐ子になった訳でもないのに、もう師範ですか?と茜は思わず苦笑いである。
そんな普段と変わらない茜の姿に、なんとも頼もしい後輩だな……、と煉獄も吊られて笑みを落とすと、そのまま辺りに視線を移す。
あちこちが肉片と成り代わった車両を確認した煉獄は、瞬時に状況を判断し、茜へと的確に指示を出す。
「俺は、鬼の頸を探るようにと、少年たちに伝えに行く!槙野、此処を頼めるか!!」
「勿論です!!」
茜の威勢のいい返事を聞くや否や、前方へと飛び出して行った煉獄を見送り、茜は拳に力を込めた。
「風の呼吸 肆ノ型
彼女を中心に嵐のような突風を生み出し、細かく、深く肉片を刻んでいく。
……だが、うじゃうじゃと蠢く触手が、次から次へと容赦なく彼女へと伸びていく。
斬っても、斬っても、……
それは衰える事を知らない様に、何度も何度も生えてくる。
その度に、それを斬り捨てながら、鬼の手から乗客を守る……
キリがないように見えるこの状況、
しかし、茜は至って冷静だった。
先程から、あちこちで起きる戦闘の揺れ……
仲間たちが血鬼術を解き、戦っている証拠である。
〝皆が起きたのなら、誰かが頸を斬ればいいだけの話……その間、乗客を守りきるのが私の役目!!〟
ふう、と息を深く吐き、呼吸を整えた茜は、
「風の呼吸 壱ノ型
渾身の力で刀を振り抜いた。
******
一方、茜と別れ、一人前方の車両で戦う炭治郎は、先程から聞こえる大きな音に焦りを覚えていた。
茜から指示を受けた直後、伊之助が起きたことまでは確認できたが……
他の皆がどうなったのか、
今の雷鳴のような大きな音は新たな鬼の攻撃か、
目の前の乗客を守る事に必死で、確認すらできないこの状況に、険しい表情を浮かべていた。
だが、そんな中ー……
ドゴォォーンッ
一際大きな揺れが列車全体を襲ったのだ。
その衝撃は凄まじく、炭治郎の体も簡単によろめき、床に体を打ち付けるほど。
〝なんだ……鬼の攻撃か!!?〟
驚きながらも、なんとか体制を立て直そうと炭治郎が足に力を入れた瞬間、
「竈門少年!!」
「わっ、……煉獄さん!!」
突然目の前に、煉獄が現れた。
「ここに来るまでにかなり細かく斬撃を入れて来たので、鬼側も再生に時間がかかると思うが……余裕は無い、手短に話す」
驚く炭治郎を前に、煉獄はテキパキと指示を出していく。
「この汽車は八両編成だ、俺は後方五両を守る!!残りの三両は黄色い少年と竈門妹が守る…… 槙野は全車両を移動しながら援護してくれる!!君と猪頭少年は、鬼の頚を探せ!!」
「頚!?でも今この鬼は……」
「どのような形になろうとも、鬼である限り急所はある!!」
頼もしく煉獄が言い切った瞬間、後方車両から駆け抜けるように強風が吹き荒れ、炭治郎の耳飾りを揺らした。
それに煉獄が口角を上げて、口を開く。
「槙野も頑張っているようだからな、俺たちも負けてはいられないだろう!!俺も急所を探りながら戦う……君も気合いを入れろ!!」
その言葉を残し、また突然姿を消した煉獄に炭治郎は呆気に取られる。
〝は、早い……早すぎて見えなかった……〟
だが、彼の言葉を思い出し、気合いを入れ直した炭治郎は、己を鼓舞して立ち上がるのだった。