第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふわふわとした意識の中、
ゆるゆると誰かに体を揺すられる感覚に、茜は薄っすらと目を開けたー……
「………、………っ!、………茜っ!!」
「ぅん……、もうちょっとだけー…」
心地よい感覚に、まだ起きたくないと茜が口を開いた瞬間ーー……
「茜!!いい加減にしなさい!!」
突然鳴り響いた怒鳴り声に、茜は思わず飛び起きた。
「わぁっ、な、何っ!?鬼!!?」
「…… もう、この子ったら。誰が鬼ですか!!……寝ぼけていないでさっさと支度しなさいな」
「………あれ、お母さん?なんで?……汽車は?」
「汽車?もう、いい加減にして頂戴。……そんな夢の話は結構!鬼狩り様がいらっしゃるんですから、早く茜も準備なさい」
「………ゆ、め?」
ぽつりと呟いたその一言に違和感を覚えた茜だったが、鬼狩り様がいらっしゃるのであればと、その思考を頭の片隅へと追いやった。
「支度が出来たら、朝飯の手伝いに来て頂戴ね」
そう言って襖をピシャリと閉めた母の背中を見送り、茜はいそいそと支度を始める。
あまりぐずぐずしていては、また母にどやされてしまうと慌てて着物に袖を通す。
藤の花の家紋を掲げている以上、鬼狩り様には最大限のおもてなしをしなくては……
気合いを入れるように高い位置で髪を結い上げた茜は、勢いよく部屋を飛び出して行った。
******
まだ日も昇らぬ、早朝と呼ぶには薄暗い時間ー……
「ようこそ、鬼狩り様。お勤めご苦労様でございました」
母の言葉に合わせ、頭を深く下げた茜は、静かに首を傾げていた。
〝どうにも目の前の傷だらけの男には、見覚えがあるような気がするが……以前もお泊まりになられたのだろうか……〟
そんな事を茜が考えていれば、その男は厳つい見た目と相反し、丁寧に頭を下げて礼を口にした。
「いつもすまねェ。世話になる」
そう言って頭を上げた男に、茜はふいに違和感を覚えた。
やはり何処かで出会った事がある様な……、
何故だか心がざわつく様な……、
なんとも奇妙な感情を抱きながらも、母に案内を託された茜は、彼に向かって静かに口を開いた。
「……ではお部屋へとご案内致します」
******
部屋まで案内する間、茜は先程の違和感について考えていた。
彼は一体、誰なのか?
何故自分は、彼に見覚えがあるのか?
傷だらけのその姿を見るだけで、何故こんなにも胸が締めつれられるのか……
悶々と考えを巡らせてみても、靄が掛かってしまったように全くもって思い出せない。思い出せないはずなのに……
何故だか〝彼が深い傷を負っていると……側にいて少しでもその傷が癒えるように寄り添ってあげたい〟と、思ってしまったのだ。
ピタリと歩みを止めた茜は、ゆっくりと後ろへと振り返る。
「あ、あの……」
「あァ?……なんだァ?」
「……お名前を、……教えて頂けないですか?私、その……貴方にお会いした事がある気がして……」
オロオロと視線を泳がせながら茜が口にした問いかけに、彼は「はァ?」と呆れたような声を上げる。
「……お前、疲れてるんじゃねェのか?」
そう言って、頭にぽふっと掌を乗せた男は、困ったように苦笑いを浮かべた。
「不死川実弥」
「………不死川、実弥」
「……ここに来る度、鬼について話してやってただろうがァ……お前、本当に大丈夫かァ?」
………そうか、彼に見覚えがあったのは鬼殺隊の事や、鬼について教えて貰っていたからか。
ストンと降ってきた言葉達に、妙に納得した茜が、実弥に頷き笑いかける。
「あ、……はい。大丈夫です……少し寝ぼけてしまっただけだから……」
「ったく、……で?こないだの話はどうなったァ?」
「ん?……こないだの話?」
コテンと首を傾げた茜に、実弥は呆れたようにため息を漏らした。
「お前なァ……それでも本当に鬼殺隊士になりてェのかァ?」
「………え?」
その一言にピクリと動きを止めた茜は、ドクンドクンと大きく脈を打ち始めた心臓に、冷や汗を流した。
目の前で笑う男は、確かに知っている男の筈なのに、彼とは違うと何故だか頭が拒絶する。
「……安心しろォ。お前が死なねェように、俺がきっちり鍛えてやる」
「……風柱様が?」
無意識に自分の口から溢れた言葉は、彼が口にした名前ではないー……
あの不器用で、誰よりも優しい彼が……、必死で心を押し殺し、戦い続けた
……ポツリ、ポツリと溢れてくる記憶に、頭の処理が追いつかず、呆然と実弥を見上げていれば、彼は優しく笑いながら口を開いた。
「茜、俺の
その言葉を聞いた瞬間ー……、
茜は唐突に理解した。
これは現実ではない。
幻術、きっと夢を見せられているんだ、と。
でなければ彼が……あの馬鹿みたいにお人好しの兄弟子が、こんな事を言う訳ないのだ。
口を開けば『隊士を辞めろ』『実家に帰れ』と突き放してくるあの人が……
人のことばかり気にして、自分だけ心も体もボロボロになっていくのを、見ていられなかった……。側にいて、彼を支えてあげたかった筈なのに。
溢れ出した感情は、知らぬ間に茜の頬を濡らしていく。
あの日……
匡近を失って、傷つく彼を見た時から、どんなに突き放されようが、彼の側にいると決めたのに。まさか彼を忘れてしまうなんて……
「おい、どうしたァ……」
突然泣き出した茜に、実弥は心配そうに眉を下げる。
そんな彼を見上げた茜は、乱暴に涙を拭うと、優しく彼に笑いかける。
「待ってて……今、貴方の背中を追いかけるから」
「……っ、」
目尻に涙を溜めながら、くしゃりと笑って見せた茜に、実弥が驚き息を呑んだ瞬間ー……
「なっ、……どうなってやがる!!?」
茜の左手首から、突然炎が湧き出した。
それに驚く暇もなく、全身に燃え移る桃色の炎は、茜をあっという間に飲み込んでいく。
「おいっ、茜!!……くそっ、どうなってやがる!!」
慌てる実弥とは裏腹に、暖かく優しい炎に包まれて茜の意識はゆっくりと遠のいていく。
〝……覚醒する〟
無意識にそう感じ取った茜は、夢の中の兄弟子に向かって小さな声で呟いた。
「覚悟なら疾うにしてるわよ、馬鹿実弥……」
******
実弥へと口を開いた瞬間……、
ふっと完全に意識を飛ばした茜が目を開けば、目の前に広がるのは、眠らされた仲間達の姿。
ガタゴトと揺れ動く車両に、夢の世界から戻れたのだとため息を漏らす。
ふと視線を動かせば、すぐ隣で心配そうに見上げる瞳に気がついて茜は優しく笑いかける。
「あの炎には見覚えがある……禰󠄀豆子ちゃんが起こしてくれたのよね?ありがとう」
そう言って、安心させるように禰󠄀豆子の頭を数回撫でた茜は、辺りを見回し口を開いた。
「貴方のお兄ちゃんを探しに行ってくるからね?禰󠄀豆子ちゃん、皆をお願い」
「ムー、ムー…」
その一言に頷いて見せた禰󠄀豆子を確認し、茜はゆっくりと立ち上がり、勢いよく車両を飛び出して行った。