第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
炭治郎に茜が稽古をつけ始めてからというもの……
「茜さん、全集中の呼吸を四六時中続けようとすると、こう……骨がブウォン、ブウォンってなって……心臓が耳から飛び出たかと思うくらいにバクン、バクンってなるんですが……どうしたら長く続けられるようになるんですか?」
「ははっ、………ん〜、炭治郎君が言いたい事はなんとなく分かるけど、そればっかりは慣れだからな〜」
炭治郎は茜に完全に懐いていた。
元々彼女は、誰にでも笑顔で分け隔てなく接する性格の為、柱や先輩隊士達には随分と可愛がられているし、後輩隊士達には茜を慕う者も多い。
だがそれだけではなく、今回炭治郎達の稽古をつけてやったことは勿論、彼らの身の回りの世話や、寝ている禰󠄀豆子の身なりを整えてくれるなど、とても気の利く女性だったのだ。
そもそも藤の家で育った茜にとっては、それは至極当前のことであったのだが、炭治郎は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる彼女を、母親とはまた違う……姉のような存在だと、心を許すようになっていた。
「……でも心臓が大きく脈打つって事は、しっかり呼吸を使えている証拠だよ?あとはそれに慣れる為に基礎体力を上げていけばいいだけ!この短期間でここまで上達するなんて、凄いよ炭治郎君!!」
「いえ、それは茜さんの教え方がいいからですよ!!……でも、そうか。肺を強くする為には鍛錬あるのみ、ですよね?」
「そうそう!!その意気だよ!!」
かく言う茜も、気づけば後ろをちょこちょこと着いて周る炭治郎が可愛くて仕方ないようで、
彼女も彼女で、炭治郎を存分に甘やかしていた。
それに、素直で努力を惜しまない。それでいて、力をつけても傲慢にならず「一緒に訓練に行かないか?」と優しく友に声をかけ続ける炭治郎は、蝶屋敷で働く者達にとっても好感が持てる人柄であった。
その証拠に最近では、ここへ連れてきたしのぶや、直接機能回復訓練をつけているカナヲやアオイだけでなく、三人娘のなほ、きよ、すみまでもが、彼の鍛錬に付き合っている姿を度々目撃するほどだ。
そんな炭治郎が、闘志を燃やしながらこれからの鍛錬について話していれば、茜はクスクスと笑いながら口を開いた。
「よし!!じゃあまた任務から帰って来たら、私も訓練に付き合うね」
「はい!!ありがとうございます!!茜さん、任務頑張って下さい!!」
「ふふっ、ありがとう炭治郎君。……じゃあ、行ってきます」
そう言って、彼の肩にポンと手を置いた茜は、刀を隠すように羽織を被り直し、彼に背を向け長い廊下を歩いて行った。
******
時は遡る事三週間……
茜が蝶屋敷に来て丁度一ヶ月が経とうとしていた頃。
修理に出していた日輪刀を隠が届けにやって来た。
「茜さん、大変お待たせ致しました。今朝方、お預かりしていた日輪刀の手入れが終わったとの事で、此方をお届けに上がりました。」
「すみません……わざわざ届けていただいて、ありがとうございます。」
「いえ。これくらい大した事ではありません。茜さん達には、いつも助けて頂いておりますので」
礼を述べる茜に対し、優しく目元を下げた隠は、その後お館様からの手紙を彼女へと差し出した。
そこには、あれから変わりはないかと言う茜への優しい言葉と共に、鬼の目撃情報と今夜にでも任務に復帰して欲しい旨が記されていた。
「すみません。お館様に伝言をお願い出来ますか?」
そう言って隠に笑いかけた茜は、彼が頷くのを確認した後、日輪刀を腰に挿しながら言葉を続けた。
「ありがとうございます。では〝任務の件、了解しました〟とお伝えして貰えますか?」
「はい、畏まりました。」
そう一言残し、蝶屋敷を後にした隠の背中を見送って、茜は小さく息を吐いた。
万年人手不足の鬼殺隊にとって、柱に次ぐ甲の実力を持ち合わせた茜が、怪我を負った訳でもなく一ヶ月も前線から退いていたのだ。
近年の鬼の被害を思えば、一ヶ月もよく任務が入らなかったものだと驚いてしまう程である。
…まあ、それ程までに今回、那谷蜘蛛山での任務後に蝶屋敷に運ばれた怪我人の数が凄かったのもあるのだが。
しかし、それも蜘蛛に変えられてしまった者達を除けば、この一ヶ月でかなり怪我人の数も減ってきているし、重症だった患者達の容体も落ち着いてきている。
それに加えて、刃こぼれをした日輪刀の修理が完了した訳だから、茜にも派遣要請が命じられた次第である。
だが、その頃といえば……
茜が炭治郎に稽古をつけ始めてまだ日も浅い時期だった。その為、
〝乗り掛かった船だ。炭治郎君達が訓練を無事に終えるまでは見守ろう〟
と、こうして任務の合間を見計らい茜は彼らの元へと足を運んでいるのだ。
******
そんな炭治郎も最近では、全集中の呼吸を四六時中続けられるようになってきているし、茜の稽古でもかなりの伸び代を見せていた。
「…おっと、危ない。」
「ぐっ、……くそ!もう少し……なのにっ!!」
円の中でちょこまかと動き回る茜の動きに、少しずつではあるが炭治郎は着いていけるようになってきていた。
初めは全くと言っていいほど、円の中心から動かなかった茜の足も、最近では炭治郎の攻撃を線のギリギリまで使って避けなければならない程に、彼は確実に力をつけてきている。
それに加えて……
「猪突猛進〜っ!!ヘラヘラ女、勝負だ!!」
「おいコラ伊之助!茜さんの訓練を受けるのは俺からだろ!?……あはは〜、茜さんよろしくお願いしま〜す」
近頃では、炭治郎に感化された伊之助と善逸も加わり、三人揃って訓練を受けるようになっていた。
「はいはい。二人にも勿論、稽古をつけてあげるよ?ふふ……さあ、かかっておいで!」
そう言って笑った茜に、やっぱり伊之助が一番に駆け出していく。
それに善逸がすかさず、狡いぞ〜!とツッコミを入れるのは近頃よく見る光景だ。
「今日こそはぶっ飛ばしてやる!!覚悟しろ、ニヤニヤ女!!」
「……伊之助君、ヘラヘラとかニヤニヤとか……ちょっと辞めてくれない?……よっと!私には茜って言う名前があるんだから!!」
そんなツッコミを口にしながらも、攻撃を軽々と避けていく茜に、伊之助は何度も食らいつく。炭治郎同様に、少しずつ身のこなしが様になってきている伊之助もまた、着実に力をつけ始めていた。
そしてそれは、自分の順番を待ちながら「コラ〜!!伊之助ッ、茜さんに失礼だろぉぉぉがーっ!!」と叫び声を上げ続けている善逸にも言える話で……
着実に力をつけて行っている三人に、茜は自然と笑みを溢した。
三人共に体の傷も癒えてきているようだし、先日、折れた刀も無事打ち直してもらったと聞いている。
少しずつではあるが、那谷蜘蛛山の任務からは格段に実力を上げたであろう三人に、近いうちに任務復帰の声がかかるのは間違いない。
〝それまでは、少しでも彼らの力になれるように……私も頑張らなくっちゃ!!〟
可愛い後輩達の成長を前に、茜は嬉しそうに目を細めた。