第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しのぶが笑顔で訓練開始を告げたあの日から、もうすぐ三週間が経つ。
「……えっと、もう一回……やる?」
「お、お願いします………」
地に伏せる炭治郎を見下ろして、茜は苦笑いを浮かべていた。
******
機能回復訓練。
その名の通り、怪我を負って一時的に療養を余儀なくされた隊士たちが、再び戦いへ戻る為に体の感覚を呼び戻す訓練である。
だが、どうやらしのぶは炭治郎たち三人には、それ以上を求めているようだ。でなければ、わざわざ茜に訓練をつけるようになどと声をかけたりしないだろう。
それを理解しているからこそ、茜も彼らには感覚を呼び戻す為ではなく、更に力をつけるための訓練を付けている。
「ぬわ〜〜!!何で当たらないんだ〜!!」
「……炭治郎君、叫ぶだけじゃあ駄目だよ。ほら、すぐ立ち上がって攻撃!」
「は、はいっ!!」
そんな茜の稽古とは至って簡単。
彼女の周りにぐるりと引かれた丸い円。
彼女を中心にすれば左右に一歩ほどしか動き回れない程のその小さな円の外に茜を出すだけ。
しかも、竹刀を使って攻撃を仕掛けても、掴み投げてもいいと言う……なんとも簡単そうに思える訓練である。
だが実際は、その攻撃全てを軽々と交わした彼女は、全くと言っていいほど円の中心から動いていないのだ。
訓練が始まって数日は伊之助や善逸も炭治郎と共に訓練に励んでいたのが、あまりに大きな実力差を前に最近ではとんと姿を表さなくなってしまっていた。
それを茜は決して咎める事はしなかった。
それどころか、また気が向いたらおいで?と笑った茜は、ケロッとした顔で善逸とも毎日会話を交わしている。……さすがに、当の
そんな事など気にもしていない茜は、今日も一人でがむしゃらに挑んでくる炭治郎に、ふっと小さく笑みを浮かべた。
「はぁ、はぁっ……、何でっ、茜さんは……そんなに早くっ、動けるんですかっ?、……」
炭治郎が茜の足元を狙って振り抜いた渾身の一撃を、茜は軽々と片足で跳び上がりやり過ごす。
それを最後に、ゼーゼーと肩で息をしながら、膝をついてしまった炭治郎に茜は休憩を提案した。
******
炭治郎と共に縁側にやってきた茜は、隣に腰掛ける彼に向かって何やら考え込みながら口を開いた。
「さっきの質問〝何で早く動けるのか〟だったよね?」
「はい。アオイさんやカナヲとの訓練も、まだまだ上手くはいかないのですが…… 茜さんは二人にも増して動きが早いように思えて……」
そう言って眉を下げた炭治郎に、茜はくすりと小さく笑った。
「そりゃ、君たちとは経験が違うもの!何年鬼殺隊に身を置いていると思っているの?ふふっ、それにね、焦りは禁物だよ?そもそも、力とは一日でつくものじゃない…‥日々の積み重ねが、明日の自分を強くするものなの」
「日々の積み重ね……」
「そう!それに、私の場合は柱の皆さんにも稽古をつけて貰うよう頼み込んでるから……何事も、本人のやる気次第だよ!!」
「やる気次第……そうですね!!俺は努力しか出来ないから、それだけは必ずやり抜きます!!」
「ふふっ、その意気だよ!あ、でも一つだけいい事を教えてあげる」
満面の笑みで頷いた茜は、人差し指をピンと立てながら口を開いた。
「君たちと私の違いは、呼吸にあるかな」
「………呼吸、ですか?」
「そうだよ?全集中の呼吸を常に出来るようになれば、格段に力はついてくる」
茜のアドバイスはきっと予想外だったのだろう……炭治郎はキョトンと首を傾げていた。
それには思わず茜も苦笑いしてしまったが、彼にも分かるように簡単にそれを説明をしていく。
「全集中常中って言って、全集中の呼吸を朝、昼、晩、四六時中欠かさず続けることで身体能力は格段に上がるのよ?
勿論それには地道で過酷な鍛錬を積まなければ習得できないけど、その分、成功すれば確実に今より強くなれる!」
「……全集中の呼吸を……朝、昼、晩………し、四六時中?茜さんは今も!?」
茜の言葉を繰り返しながら、顔を青褪めた彼に「そう!ああ、勿論寝ている時もね?」と茜は頷いた。
それには炭治郎も一瞬頬を引き攣らせるも、最後には頑張りますと力強く頷くものだから、素直で努力家な彼の姿に茜は嬉しそうに目を細めた。
そうして茜が上機嫌でニコニコと笑みを浮かべていれば、炭治郎からふと思った事を問いかけられた。
「そう言えば、茜さんは柱の方達に稽古をつけて貰っていると仰っていましたよね?」
「へ?ああ、うん。柱は私達の忙しさとは比じゃないから、偶に……ではあるんだけど、それがどうかした?」
「いや、ふと裁判の時を思い出したので…… 茜さんは皆さんと顔見知りだったのですね……」
成る程……なんて呟きながら頷く炭治郎に、それがどうかしたのだろうかと茜はコテンと首を傾げた。
「村田さんが言っていた〝茜さんがよく口喧嘩する風柱〟って……あの傷だらけの人ですか?」
「……そうだよ?」
そう言って苦笑いを浮かべた茜に、炭治郎は驚いたように顔を上げた。
「ん?どうかした?」
「いや……」
本当は、あの人はいつもああなのか?と聞くつもりだった炭治郎だが、彼女から漂う〝大切な者を想う匂い〟に思わず彼は口を閉ざした。
そんな事など知りもしない茜は、困ったように眉を下げて口を開いた。
「禰󠄀豆子ちゃんに風柱様がした事は、私がどう言ったって許せないとは思うんだけど……一つだけ、これだけは分かっていて欲しいの……
柱はね?私達より多くの激戦を生き抜いた人達なの……それは即ち、それだけ多くの犠牲を、仲間の死を目にしてきたと言う事なの」
「………はい」
「だからと言ってあの人を許せだとか、そんな事は言わない。………妹を傷つけられて君が怒るのも当然だから」
そう言って炭治郎に姿勢を向き直した茜は、彼に向かって深く頭を下げた。
「ちょ、… 茜さん何やってるんですか!?」
「こんな事したって君の怒りは鎮まらないだろうけど………ごめんなさい。兄弟子に代わってお詫びをさせて?風柱……いや、実弥さんが本当にごめんなさい」
「いや、茜さん……兄弟子?……と、とりあえず顔を上げて下さい!!」
突然目の前で起きた出来事と、彼女がサラッと口にした情報に炭治郎は慌てて口を開いたが、次の瞬間にはガバリと顔を上げた茜にその勢いのまま両手を握りしめられて、驚きのままに固まった。
「お詫びに全集中常中が身につくまで、私がみっちり稽古してあげる!!」
「………へ?」
「炭治郎君、一緒に頑張ろうね!!」
満面の笑みを浮かべる茜に、炭治郎が思わず頬を引き攣らせたのは言うまでもない。