第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
療養中の隊士に食事を届ける役割を担った茜は、漸く全ての病室を回り終え、今は蝶屋敷の廊下をとぼとぼと力なく歩いていた。
「同期、か……」
ぽつり。
そう呟いた茜は、徐に歩みを止めて自身の掌へと視線を落とした。
剣だこが出来た掌には、古傷こそあるものの勿論汚れなどついていない。
だがあの日……
下弦の鬼を前に、彼に守られて何も出来なかった自分を……仲間の血に濡れたこの手を思い出し、どうしようもなく穢らわしく思えて、茜は悲しそうに目を伏せた。
******
あの日…
茜が下弦の壱と対峙した任務には茜を含めた五人の鬼殺隊士が派遣されていた。
「よっ!槙野、久しぶりだな!!」
「わあ、久しぶり!!五十嵐も同じ任務なの?」
その中には茜の同期でもある、五十嵐の姿もあった。長年鬼殺隊に身を置く彼女にとっては数少ない……いや、もう彼しか残されていない、唯一の同期の隊士なのである。
「鴉から聞いてなかったのかよ?
今回の任務、槙野を筆頭に階級の高い隊士が集められてるだろ?
「さあ?私は鴉から東の町で人が消えている、合同で鬼の頸を打ち取れとしか聞いていないけど……
どんな鬼でもやる事は変わらない。必ず頸を斬り落としてみせる」
「ははっ、相変わらず槙野は頼もしいな!」
……別に同期と言えど特段仲がいいとか、そういうのではなかったが、お互いを気にかけ切磋琢磨し合うような関係だった。
だからこそ彼と同じ任務だと聞いて、茜は頼もしく思っていたし、少し安心もしていたのだ。
……だから、まさか彼の命を奪うのが、茜自身だなんて全く思いもしなかった。
******
鴉に先導されるまま他の隊士達と合流した茜達は、町に着くなり二手に別れ聞き込みを開始した。
賑やかな町の様子に、本当に鬼の被害が出ているのだろうかと思わず首を傾げたが、町の住人達に聞き込みを行えばそれは直ぐに間違いだったと思い知らせれた。
「すみません、少しお尋ねしたいのですが……この町で行方不明者が出ていると聞いて調査に参りました。何かご存知ありませんか?」
軍人のような服を着て声をかけてきた茜達に、住民は皆一様に顔を青ざめた。
知らない……、関わりたくない……と皆が口を揃えたかのような言葉を述べる中、ある問屋の旦那が怯えながらも小声で教えてくれたのだ。
「この町に訪れた者は、ほとんどがこの町で唯一の宿で宿泊していくんだが……泊まった彼らが宿から出て行くのを見たことがない……それを不審に思い声を上げた八百屋の夫婦は、次の日に行方知らずになった。
元々あの宿のおかげで栄えた町だ……
それもあってか、あれ以来その事について口を開く者は居なくなってしまった……私もその臆病者の一人だ」
そう言って目を伏せた彼に、礼を述べ、必ず真相を突き止める事を約束した茜達がその情報を元に宿へと向かえば、別れたはずの隊士達とも宿の前でばったり出会い、互いに持ち寄った情報が同じだと言う事に気がついた。
ともなれば、この宿を調べる他ないだろう……
五人は迷う事なく建物の中へと足を踏み入れた。
宿の中は〝この宿のおかげで町が栄えた〟と言っていた男性の証言通り、とても煌びやかな内装だった。
真っ赤な絨毯にシャンデリアが印象的な洋館に、きっと此処に訪れた者達は圧倒されたに違いない。
だが、入り口で幾ら宿主へ声を掛けようが返事はない。それどころか、ズリズリと何かが這うような音が何処から共なく聞こえ出し……
その瞬間屋敷を取り巻く雰囲気もガラリと変わる。
煌びやかだった筈の照明はいつから使われていなかったのか蜘蛛の巣だらけだし、人の気配はまるでない。
これは血鬼術っ、幻覚の類か……?いつから幻を見ていた……?
茜が変わりゆく状況に忙しなく思考を巡らせていれば、何処からともなく先程のズリズリと何かを引きずるような音が耳に届いた。
「どうする、槙野?」
「これは恐らく幻覚を見せる類の血鬼術……あまり散り散りになって戦うのは得策じゃない。……だけどこの部屋数を皆で固まって探すのも時間がかかる……とりあえず二手に別れよう。私と五十嵐、そっちは残りの三人で鬼を探して!何か異変を感じたら、すぐに知らせる事!!」
「「「はい!」」」
「相手の能力が分からない以上、無茶はしないで!!」
そう三人に言い聞かせ、茜達は彼らとは左右に別れ長い廊下を進む。
すると別れて五分と経たずして、後方から誰かの悲鳴が耳に届いた。
その声に思わず茜と五十嵐が振り返れば、
『貴方達は強い鬼狩りかしら?』
耳元で女の楽しそうな囁き声が聞こえた。
突然気配もなく現れたその鬼に、茜達が慌てて刀を振り抜けば、またすぐに鬼は姿を消し去った。
〝くそっ、これも幻覚?……それとも空間移動?どちらにせよ、これは相当厄介な能力だっ、……どうする?どうすればいいっ!?〟
瞬時に互いに背中を合わせて、辺りの気配を伺う二人に、今度は天井から逆さまに姿を現した鬼はニタリと気味の悪い笑みを浮かべた。
「あらあら、なかなかいい反応よ?遊びがいがあるわ?ふふふ……」
そう言って細められた瞳には、十二鬼月である証が確かに刻まれていた。
下弦の壱の文字を確認した茜は、無意識に刀を強く握りしめた。