第一章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
裁判を終えるなり、炭治郎を抱え、逃げるように本部を後にした隠達……
そんな彼らを呆然と見送った茜は、柱達に一声かけた後、本部をとぼとぼと後にした。
因みに、隠に預けていた彼女の日輪刀は、下弦の鬼の攻撃で刃こぼれを起こしてしまっていた為、そのまま修理に出してもらうようお願いした。
……どうせ、蝶屋敷の手伝いという名の謹慎処分を受けるのだから、刀は当分必要ないだろう。
そんな事を考えながら、漸く蝶屋敷へと辿り着いた茜は、玄関戸を開け口を開いた。
「ごめんくださ〜い」
だが、大声で叫んでみても誰も出てくる様子はない。
それに仕方ないな〜…と呟いた茜は、慣れたように屋敷に勝手に上がり込み、我が物顔で長い廊下を突き進んでいく。そして給仕室の前で足を止めると、ひょこっと中を覗き込んだ。
「あ、アオイちゃん!」
「茜さん?……今日はしのぶ様は、いらっしゃいませんよ!!」
……まだ何も言っていないのに、今日も稽古をつけて貰いに来たと勘違いしたアオイは声を尖らせた。
……まあ、日頃の行いの悪さだろう。
一応、毎回鴉にそれとなく探りを入れて貰うが、茜は突然現れては、しのぶに稽古をつけるようにせがんでいたからである。
しっかり者の彼女の一言に、思わず苦笑いを浮かべた茜は遠慮がちに口を開いた。
「えっと…今日は違うの!そのしのぶちゃんに、療養中の隊士の世話を頼まれて来たんだけど……何かお手伝い出来ることあるかな?」
茜の言葉に、しのぶ様の指示ですか……と呟いたアオイは、ふむと少し考える仕草を見せた後、茜に向かって口を開いた。
「でしたら、丁度昼食の支度をしていた所ですので、部屋へ運ぶのを手伝って頂けますか?……それと薬が出ている隊士には、食後に服用する様に伝えて下さい!!」
それに大きく頷いた茜は、どの部屋から運べばいいか確認を取った後、配膳台車を押して給仕室を後にした。
******
隊士達に食事を届けて回る中、茜は見知った顔を見つけ、思わず小さく笑みを溢した。
「炭治郎君!!」
「あっ、えっと…… 茜さん?」
その呼びかけに可愛らしく首を傾げた炭治郎に、茜はそう言えばまだ名前すら名乗っていなかった事に気がついた。
「ごめんね、私ったらまだ名前すら名乗ってなかったわね?
鬼殺隊士の槙野 茜です。炭治郎君も知ってるだろうけど、当分は此処でお世話になる予定だから宜しくね?」
そう言って、ふわりと笑みを浮かべた茜に、炭治郎も慌てて口を開いた。
「茜さん!あのっ!昨日は助けて頂き、ありが「コラーッ!!炭治郎ぉぉぉっ、お前っ!何ちゃっかり、こんな可愛いお姉さんと知り合いになってるんだよぉぉぉぉ〜!!」
だが、隣から絶叫を上げた黄色い頭の少年に遮られ、炭治郎の言葉は掻き消された。
「落ち着け、善逸!茜さんは、那谷蜘蛛山で俺と禰󠄀豆子を助けてくれた人なんだ!!」
「ハァァッ!?おまっ、……那谷蜘蛛山で俺が蜘蛛になりかけてる時に、お前はこの可愛いお姉さんと遊んでたのかっ!?はァァァ!羨ましすぎるんですけどっ?マジなんなのォォォ!?」
「茜さんに失礼すぎるだろ!!遊んでいた訳ないじゃないか!」
「うるせーよっ!!俺だってな!好きで蜘蛛野郎と戦った訳じゃねェわ!!出来ることなら、俺だって可愛いお姉さんと仲良くなりたかったですけど〜!?」
「あ、あの〜……えっと、我妻…善逸君?」
炭治郎に詰め寄る善逸に、茜が苦笑いで声をかけると、名前!?何で!?と少年は目を輝かせた。
実はアオイから名指しで彼に薬を飲ませるようにと言われていた事もあるが…… 茜が徐に指を指した内服薬の包みには、しっかりと彼の名前が記入されていた。
それにガクリと肩を落とした少年に、クスクスと笑い声を上げた茜は、楽しそうに口を開いた。
「ふふ、善逸君もこれから仲良くなればいいでしょう?」
「な、仲良くしてくれるんですか!?俺とっ!?」
「勿論!!同じ鬼殺隊の仲間でしょ?」
イヤァァァ〜、幸せ〜とまたしても奇声を発して飛び回る善逸に、茜はゲラゲラと笑い出す。
本来、彼女は年齢関係なく、誰とでもすぐに打ち解ける性格をしているのだから、当然とも言えるのだが……
そんな彼女だからこそ、炭治郎に向かって再び謝罪を口にした。
「昨日はごめんね?私……炭治郎君の為に行動を移した訳じゃなかったから」
「い、いえ「でも!これからは、迷わないわ!!本部で……自分の目で見て判断したの。これからは炭治郎君も禰󠄀豆子ちゃんも、仲間として守ってみせるよ!」
そう言ってふわりと笑った茜に、炭治郎と善逸は思わず頬を染めた。
茜はこうと決めたら頑なに譲らない、なんとも男らしい一面がある為、こうして本人が知らない内に皆に慕われていく訳である。
そんな事には気づきもせず、茜は善逸の更に奥……猪を被った隊士を見て眉を顰めた。
「えーっと……彼、大丈夫?さっきから善逸君があんなに叫んでいても、うんともすんとも言わないけど……」
「ああ、コイツなんか今喉が潰れてて…おまけに落ち込んでるんですよ〜」
「善逸、そんな言い方は伊之助に悪いだろう?それに、さっきから何でそんな気持ち悪い笑い方をするんだ?」
ヒヒっと何故か悪戯に笑う善逸を眺めていれば、伊之助と呼ばれた猪の彼は小さな声で、弱くてゴメンネと呟いた。
すると、炭治郎は勿論、今の今まで笑っていた善逸もそんな事はないと励ましの声をかけ始めるものだから、茜はキョトンと首を傾げた。
「……もしかして、皆んなは同期とかなの?」
可愛らしく首をコテンと傾けた茜に、炭治郎がはい!と力強く頷いた。
「俺たち少し前から行動を共にしているんですが……今回の那谷蜘蛛山でも同じ任務についていて「俺は一人置いていかれたけどな!!」
「善逸……それは善逸が行きたくないとごねたからだろう?
でもやっぱり善逸も後から追いかけてきてくれた。嬉しかったんだ、ありがとう」
「おまっ!炭治郎、やめろよ〜っ照れるだろうが!!」
伊之助は口を挟む事はなかったが、目の前で繰り広げられる仲の良さそうな会話に、茜はクスクスと笑みを漏らした。
「同期は大切にしなよ?」
そんな二人を見て茜は眩しいものでも見るかのように、そっと目を細めた。
クスクスと嬉しそうに笑っているのに、何処か悲しみを帯びた匂いを感じ、炭治郎が善逸を盗みみれば、彼にも同じような音が聞こえたのだろう……眉を下げて困ったような表情を浮かべていた。
「ん?二人ともどうかした?」
それにいえ……と首を振った二人に、茜はにこにこと変わらぬ笑みを浮かべながら、薬はしっかり飲むように!と口を開き、部屋の扉へと足を向けた。
くるりと振り返った彼女はやはり笑顔で…
また来るね、と呟いて今度こそ病室を後にした。